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戦闘準備……5

 静夜の前で完全なる敗北をした夜島は、言われるままに席に戻る。


 しかし、誰も夜島を卑下する者はいない、その理由は、夜島の拳は目にも止まらぬ凄まじい物であり、常人ならば、回避すら難しい物だったからだ。


 そして、そんな一撃を払いのけ、心臓に手を添えると言う行為を見せた夜夢に誰もが驚きを表情に出さぬように、言葉を発せぬように、自身の腹に丸のみにしていた。


 夜島が腰掛けて直ぐ、夜夢も室内の中央に正座すると、深々と頭を静夜に向けて下げる。


「疑う理由を作り、申し訳ありませんでした。改めまして、夜夢と申します。夜国の生まれ、通り名を“心眼”と呼ばれる傀動の一人にございます」


 挨拶をする夜夢に静夜が頭をあげるようにそっと声を掛ける。


「頭をあげてくだされ、夜夢殿、貴女は若くして、夜国を救った英雄だ、行方知れずであった事実と訛りのせいで、あらぬ疑いを掛けた、許されよ」


「構いません。現に私の言葉を聞けば、誰もが私を疑うでしょう、それが同門ならば尚更のことです」


 夜島が自身の同門であるとハッキリと口にする夜夢の姿に夜島は静夜の会話を邪魔しない程度に頭を下げて見せた。


「さて、本題に入ろう、世に話があるとか、是非、聞かせてくれ」


 そう言われ、夜夢は今回の雷国への戦闘に参加する意思を口にする。


 静夜からすれば、貴重な戦力と成りえる夜夢からの申し出をその場で受ける道を選択した。


 更に夜夢は先陣の部隊で戦いたいと、静夜に進言する。


 その言葉には家臣達も、声を荒げて反対する。


「先陣だと! 貴様」


「先陣は戦を左右するのだぞ!」


 野次のような言葉が飛び交う最中、夜島が怒号の如く声を張り上げる。


「黙らぬかッ! この中に夜夢と渡り合い、勝利出来る者が存在するならば、今すぐに答えよ!」


 啀み合う最中、夜夢が会話を遮るように口を開く。


「夜王様、もし宜しければ、外で皆様と、腕試しをしたいのです。実力を示さねば、先陣に加えてもらうのも難しいようなので」


「世は構わぬが、皆はどうか?」


 静夜の言葉な家臣達が頷き、急遽、城の巨大な中庭で腕試しと称した試合が開始される事になる。


 どうせならば、皆の実力が知りたいと静夜が語り、勝ち抜き戦の形で試合が用意される。


 城内の腕試しと違うのは、武器の使用が許可されている事実にあった。


 氷雨、紅琉奈、夜夢、大牙の四人に、待機していた五郎と黒雷に所属する事となった慶水の二人が加わり、六人での戦闘となる。


 六人で家臣達とその部下を相手にする事となり、氷雨達側の先陣は慶水に決まる。


 慶水、紅琉奈、五郎、夜夢、大牙、氷雨の順で戦う事を決めると、家臣側なら不満の声が上がる。


「あのような少年が、副将だと? 数合わにも程があるわ!」


 その言葉に紅琉奈と夜夢が殺気だった威圧感が放たれる。


 しかし、大牙はその言葉に対して、家臣達が予想した通りの発言をする。


「なら、俺が最初に戦うよ、慶水、いいよね?」


 大牙の言葉に慶水が頷き、先方が大牙に変わる。


 紅琉奈と夜夢が力を貸そうとするが、それを大牙が断る。


「二人とも、俺は俺の力を確めたいんだ」


 水国から炎国、島での戦いと、大牙は大牙なりの力を手にしていた。

 自身の力を試したいと大牙は考えたのだ。


 先方が大牙となり、家臣側からは、余裕の笑みが浮かんでいる。


 そんな家臣達に夜島が忠告を口にする。


「幼くとも、傀動だ……気を引き閉めねば、足元をすくわれるぞ」


 そんな夜島の忠告を嘲笑うように、一人目の武士が大牙と対峙する。


「悪いな、少年。勝たせてもらうぞ!」


 そう武士の男が口にする。


 筋肉質の剛腕に大牙を見下ろす程の身長差のある男。


 そして、試合開始の合図がされる。


「はじめ!」


「我が名は──」


 名乗りを上げようとする武士。


 そんな武士の(ふところ)に即座に踏み込むと束を力強く腹部に叩きつけ、更に武士が片膝で踏みとどまった瞬間、地面を蹴り、武士の膝を踏み台に(あご)に膝蹴りを加える。


 目にも止まらぬ早さで、武士の巨体が背中から地面に倒れる。


 大牙の手に鞘から抜かれぬままの、鬼斬り刀が握られ、喉元に当てられる。


「俺の勝ちだよね?」


 家臣達が言葉を失うも、一瞬の静けさは、怒りの声で荒々しくざわめいていく。


「武士の名乗りを、貴様!」

「そうだ、名乗りもせずに、奇襲など! 認めぬぞ、この試合は無効だ!」


 そんな声が上がる最中、大牙が呆れたように喋り出す。


「あんたらさ? 鬼にも同じ事、言うのか? 敵が名乗るのを待つなんて、殺してくれって言ってるようなもんだろ?」


 大牙の言葉に家臣達が黙る。


 そして、次の武士が大牙の前に姿を現す。


「名乗りが要らぬといったな、小僧、ならば、覚悟せよ!」


 二人目の武士がそう語り、試合が開始される。

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