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風国と雷国……5

風王が語り終わり、報告に来た男がその場を後にする、その際に男は独り言の様に呟く。


「今の言葉は、皆に響いた事でしょう、民衆もきっと、気持ちを一つにして、決断されましょう」


男がその場を後にしてから直ぐに慌てた様子で兵士が室内に走ってくる。


「大変であります! 民衆が先程の言葉を聞き、王都に押し寄せて来ています! 既に鎮圧部隊が出陣しましたが、民衆に反乱軍が協力しており、他国の兵も確認されております!」


息を荒らげ、必死に訴える兵士の言葉に風王は疑問を感じ質問をする。


「さっきの言葉とは、報告に来た兵の事か!」

「いえ、先程、大音量にて風国中に叫ばれた言葉にございます!」


風王は何がなんだか理解出来なかった。

それはまさに悪夢と言う他なかった。民衆に自身が命じた言葉をすべて知られてしまった事実、本来、鎮圧してから見せしめが必要だからこそ強気に出た事実が最悪な結果で自身にかえってきたのだ。


この事態は、夜国によって起こされていた……夜国の兵士の中には特殊な能力を有した者が多く、自身が聞いた言葉を仲間の影を通して耳から聞いたままに伝えることが出来る者がおり、各村や町に送られた夜国の“月影衆”により、民衆へと伝わり、我慢の限界を迎えていた民衆は武器を手に動き出したのだ。


風王は城門を即座に閉ざすと篭城戦を命じる。


その間も王都周辺の村や町から集まる民衆、更に遠くの村や町からも馬に乗った者達も合流しだし、風国の首を取らんとする民衆が王都を取り囲んだのである。

民衆の旗印は風間の物であり、既に風国の新たな指導者として民衆に認識されていた。

大牙達が攻撃を仕掛けずに過ごした時間は、各村や町に残った風国兵士を排除する為であり、風王が守りを固めた結果、各村や町の情報が入らなかった結果が今になってこの状況へと繋がったのである。


「我は、風間ッ! 風王よッ! 今よりこの悪夢の時代に終止符をうたせて頂くッ! 皆、此処が正念場ぞッ! 風国の未来の為に、突撃ィィィッ!」

「うォおぉぉぉーーーッ!」


風間の言葉と同時に城に向かって民衆をはじめとした大部隊がなだれ込む。

大牙達が先頭を走り、城門を破ると待ち構えていた兵士達を薙ぎ払っていく。

一気に城内を制圧すると風間と共に天守閣を目指して駆け上がる。

城内はあっという間に血の海となり、怒りに震えた民衆が雄叫びをあげるように王の死を求め出す。

天守閣には、身を震わせ小さくなる風王の姿があり、風間は自身の刀を風王に向ける。


「ここまでです、お覚悟を!」

「嫌じゃ、嫌じゃ! 頼む助けてくれ、死ぬのは嫌じゃ!」

まるで子供の様に泣きじゃくるその姿は哀れみすら感じさせる。しかし、既に遅すぎたのだ……風間は刀を振り上げ、一振りで風王の首を落とし、その首を手に天守閣から外に向けて掲げる。


「見よ! 風王は死んだッ! 風国の悪夢はこの瞬間、終わりを、今より新たな風が国を目覚めさせるッ! 我々の勝利だッ! 勝鬨(かちどき)をあげよッ!」


「おおぉおぉぉぉッ!」

「えい! えい! おーッ! えい! えい! おーッ! えい! えい! おーッ!」


兵士から民衆までが声をあげる。


風王の死が風国全土に伝わる頃、雷国は既に新たな大部隊の用意をしていた。

風国に送られた部隊は雷国の精鋭であったが先行部隊に他ならず、雷国は本隊として本国の総戦力20万のうちの半数である10万の兵を送り込もうと画策していた。


内戦状態になった風国に大軍勢が向かえば更なる混乱に繋がり、土地と資源、奴隷としての労働力のすべてが手に入ると考えたのだ。


雷国は水国とも同盟であり、水国は炎国が動かぬ様に見張る事となり、兵力を国境から遠くない位置に配備を開始する。


風国を取り巻く環境が更なる欲望の渦にのみ込まれようとしていたのである。

雷国は既に風国を手にした後に事を考え笑みを浮かべる。


「我国が大陸を支配すれば、鬼の脅威も争いも無くなる……小さな犠牲の上にこそ平和があるのだからな」

「陛下の言う通りにございます。僅かな犠牲は平安の夜には必要でございます」

「さて、他国がどう動くか……既に水、我が手中……風国も風前の灯火、三国が組めば、炎国の炎も鎮火しよう……」

「さすがは陛下、雷国は今よりも大きくそして強大になる事、我々は陛下に永遠の忠義を」

「よくよくは、炎国、そして夜国も我がモノとし、内海のすべてを我がモノに……」


そう語り雷国は新たな侵略作戦を開始するのであった。


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