風国からの提案……4
各自が新たに目的を抱く最中、雲船が国境に到着する。
風国の風の防壁と夜国の土の防壁が互いの国を分断するその先に、防壁を突破せんと蠢く大量の角付きの姿があった。
集まっていたそれが、無鬼でない事実と、すべてが一角と言う現状に、氷雨が苦笑いを浮かべる。
「風国、いったいどれ程、放置すれば、こんな酷い有り様になる……くっ!」
氷雨の怒りが声となり、皆の耳に入る。
風国の使者である羽尾が頭を下げる。
「お言葉はごもっともで御座います。風国は、この数年で堕落し、本来戦う筈の傀動も数を減らしました。私から言うのもあれですが、国を助けていただきたい」
ふざけた様子のない、真っ直ぐな謝罪にも似た言葉でそう語る羽尾。
氷雨は、静かに頷いて見せる。
そして、夜国の国境に雲船が降ろされ、風国の国境に向けて氷雨を筆頭に大牙達が、夜国側からも、夜島を筆頭に庵時達、四人が降り立ち、風国側に鋭い視線を向けた。
そんな各々と共に、地に足を伸ばした羽尾が楽しそうに笑う。
「此処からが、私の仕事、王様に頼まれた仕事をこなさないとねぇ」
羽尾は語りながら、到着と同時に開かれた夜国側の国境を潜り、風国側の国境に歩みを進める。
短い距離に互いの国境が睨み合う用に作られている。
そんな二つの国境が、開け放たれる事になると、只ならぬ緊張感が守備兵達を襲う。
そんな緊張感や、緊迫感すら、気にしない1つの集団が風国の国境前に移動し、開門を待つ。
しかし、内側から開く様子はない。
「すみません、風国側には兵が居ないんですわ、ですので、此方から強制的に開きますね」
そう口にすると、羽尾は大牙が放つ、風の刃を数段上回す、凄まじい風を巻き起こし、内開きの門が聳え立つ、風国側の国境に撃ち放つ、数本の木の枷が内側で門を開くまいと、“バダン、バダン”と、激しく音を打ち鳴らす。
そんな国境の門が僅かに隙間を開けた瞬間に、羽尾が、片手を勢いよく縦に振り上げる。
一瞬の出来事であった。
僅かに開かれた隙間を風の刃が潜り抜け、門の頭上部分が微かに欠ける。
“ぱらぱら”と、頭上部分の欠けた粉が羽尾の作り出した風に押され、門に向けて、打ち付けられる。
それと同時に、強固な巨大な門の内側から、無数の鈍い落下音が続けて左右にわかれて聞こえると、門が羽尾の風により、勢いよく内側に開かれていく。
「開きました。ただ、私の限界は二時間といった所でしょうか? それまでに、周囲の鬼の駆逐をお願いしますね」
羽尾の言葉に氷雨が、軽く頷く。
「私達で、バカな鬼共を駆逐するぞ、皆掛かれ!」
「うん。いくよ、紅琉奈、夜夢」
「うん、大牙」
「ええ、大牙」
氷雨の後ろを大牙と紅琉奈、夜夢と続き、その後ろには、五郎と慶水が続いていく。
そんな様子に、夜島が声をあげる。
「庵時、楽夜坊、夜公仁、夜国の力を存分に示せっ! よいな!」
「「「御意っ!」」」
更に、黒雷の面々が、動き出す。
「アタイ等も、入り口の防衛に参加するよ! 仲間達を死なせんじゃないよ!」
「「「おおぅ!」」」
国境を守ると言う大義を口にすると、黒雷の面々が戦闘に参加する。
風国に、強力にして、凶悪な戦闘集団が雪崩れ込むと、一角達に、一瞬の動揺が生まれる。
しかし、すぐに敵と判断した一角達が、氷雨達に向けて襲い掛かる。
「キギャアッ!」
鋭い爪が氷雨に、目掛けて放たれる。
「遅ぇんだよ! 鬼なら、もっと早く動きな!」
「ギャア!」
氷雨の凄まじい刃が一角の体を斜めに斬り落とす。
それを合図に、全員が一角との戦闘を開始する。
羽尾は二時間と口にしていたが、僅か数分で、周囲の一角が次々に黒い靄へと姿を変えていく。
更に言えば、追撃からの巣穴への強襲を一時間足らずで、成し遂げると言う結果に至っていた。
一段落すると、羽尾は、突風を放つのを止める。
「実に見事です、流石に巣穴攻略までは、予想していませんでしたよ」
そう語ると、羽尾は国境の扉を一度閉ざし、枷となる巨大な予備の木の板を門に嵌め込んでいく。
皆が細身である羽尾の行動に驚く最中、羽尾が次の目的地を口にする。
「是非、王に直接、会っていただきたいのです」
羽尾はそう語り、氷雨達の返答を待つ。




