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戦闘準備……6

 大牙の実力を認めるように二人目の武士が前に出る。


 僅かな隙すら作らない身のこなしから、相当の達人だと、大牙は初動に神経を集中させる。


 二人目の武士も、同様に即座に斬り掛かれば、返り討ちに合うであろうと予想していた。


 他者の眼には、少年に対して、警戒し過ぎだと、感じさせるだろう……しかし、大牙と対峙している武士は自身の目の前に刀を構えるそれが、只の少年でない事を全身で感じていた。


 最初に痺れを切らしたのは、大牙であった。


 隙のない武士に対して、ゆっくりと歩みを進めていく。


 武士はそんな大牙に身構え、手に力を込める。


 両者の間合いが近づき、大牙の片手が束へ、もう片方は鞘に手が掛けられる。


 武士の間合いまで、一歩半に差し掛かると、大牙が刀を抜くような、そぶりを見せる。


「あははッ! 間合いを見誤るか!」


 緊張が一気に(ほぐ)れたように、大牙に向かって斬り掛かる武士の刃。


 しかし、その戦いを見ていた者達は、その後、すぐに驚愕する。


 斬り掛かった武士の刃を大牙が躱し、更に力強く握られた束が、武士の腹部に触れる。


 武士が死を覚悟するも、腹部に走る痛みは、斬撃による痛みではなく、打撲による痛みであった。


「俺の勝ちだよな? 本来なら、真っ二つの一撃だからな」


 大牙の言葉に、武士は呆れてその場に腰かける。


「嗚呼、お前の勝ちだ! 完敗だ、本当に悔しくて仕方ないぞ」


 潔く、そう語ると武士は刀を収め、大牙に一礼をする。


 大牙は余りにあっさりとした態度に慌てて、武士に向けて頭を下げる。


 そして、次の試合へと進んでいくが、氷雨が退屈そうに欠伸(アクビ)をする。


「ふぁ~、こんな事をしても時間の無駄だ。全員でやり合うのはどうだ? 流石に大牙の戦いを見続けるのは退屈でな」


 予想外の提案に驚愕する一同、しかし、氷雨の言葉に動じない大牙達の姿が存在した。


 当然、実現しないであろう提案であったが、静夜は少し悩むと、考えをまとめ、口にする。


「ならば、其方、全員に対して、此方から、五十の家臣を向かわせよう、そして、勝利した方には、世から褒美を与えると約束しようじゃないか」


 静夜の言葉に家臣達が力を示さんと、五十人の一人になろうと、声をあげる。


 そんな最中、氷雨が再度、口を開く。


「一人、五十か、ならば確りと選ぶんだな、言っとくが、うちの連中は半端ないぞ!」


 氷雨は、自身を含めて、大牙、夜夢、紅琉奈、五郎、慶水の合計六人に対して、一人、五十人の合わせて三百人を相手にすると口にしたのだ。


 当然ながら、夜国側から、笑い声が溢れ出す。


 六人で三百の兵を相手にすると言うのだから当然である。


 しかし、いざ三百人もの武士が揃うと、その大差に対して、動じない六人の姿が夜国側からは不気味に見える。


 女、子供を含む六人が、三百人の兵を前に笑みすら浮かべていたのだ。


 そんな、経験なき、現実に夜島が筆頭となり声をあげる。


「よもや、降伏を口にする者はいないだろう、卑怯と後に語るなかれ、三百の夜国の武を持って、敵を全力で殲滅せん! 行くぞ、掛かれッ!」


 一斉に駆け出す夜国の兵、そんな最中、夜夢が異能を発動する。


 黒い煙が全体を覆うようにドーム型に拡がっていく。


 慌てて回避しようとするも、煙がすべてを包み込んでいく。


 暗闇が支配する煙の中に渦が巻き上がり、外からは内部の様子はわからない状態になっている。


 そんな渦の中で、激しい稲妻と吹雪、激しい雨と凄まじい風が吹き荒れる。


「なんなんだ、何が起きているんだ……」


 外から渦を見つめる静夜の言葉に家臣達も答えが出せずにいる。


 渦が静まり、黒い煙が天に向けて消えていく。


 その場に立っていた数名の傷だらけの武士達の姿であった。


 それに対して、何事もなかったように腕を組む三人の女性の姿と、申し訳なさそうに頭を抱える三人の男性の姿があった。


 両手を組んだまま、氷雨が声をあげる。


「どうする? まだ、私達が力不足と口にするか! そう思うなら、掛かってこい!」


 しかし、静夜が勝負ありと判断し、戦いを止める。


「それまで、今の戦いで理解しただろう、彼等は強い、実力は本物だ、そして、夜国はまだまだ、強くならねばならぬ、外の世界には化物のように鬼より強き者がいるのだからな」


 この一戦は、夜国と氷雨達にとって大事な一戦となった。


 夜国は、氷雨達の実力を素直に受け入れ、氷雨達も、全滅させる目的で動いていたが、数名とはいえ、立っていた猛者がいた事実を素直に受け入れたのだ。


 三百人の兵が負傷するも、それに見合うだけの信頼を互いに確認したのであった。

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