第307話 vs大隊長ギデオン・救出、そして……
時は少し前に遡る。
「ね、姉さん!」
「アメリアお姉ちゃん!」
目の前で起きているアメリアのピンチ。彼女は今まさに、ギデオンに殺されるところだった。
(ま、まずい!)
それを見た春風はそう感じた後、すぐに飛ぶスピードを早くした。
そして、ギデオンがアメリアに剣を振ろうとしたその時、
「やめてぇえええええ!」
と、ニーナはギデオンに向かって右手を翳した。
その瞬間、地面から何本もの黒い鎖が伸びて、それら全てがギデオンの剣を持つ右腕に巻き付いた。それに驚いたのか、ギデオンはピタッと動きを止めたので、
(しめた! この隙に……!)
と、「チャンス!」と思った春風は、
「2人とも、しっかりつかまっててよ!」
と、ニーナとピートに向かってそう言うと、
「「はい!」」
と、2人は力強く頷きながらそう返事したので、それを聞いた春風は、2人を抱えた状態でギデオンの真上に向かって飛んだ。
そして、
(よし、この位置だ!)
と、ギデオンからある程度高い位置に到達すると、自身の右足に土属性の魔力を纏わせた。
オレンジ色に輝く光が、春風の右足を包み込む。
それから少しすると、その光は少しずつ形を形成して、やがて出来上がったのは、オレンジ色に輝く大きな右足だった。
それを見て、
「「す、凄い」」
と、感心するニーナとピートを他所に、
「いくぞ」
と、春風はボソリとそう呟くと、大きくなった右足を突き出しながら、真下にいるギデオンに向かって猛スピードで急降下した。
そして、
「アメリアさんをぉおおおおお……!」
と、春風は真下にいるギデオンに向かってそう叫び、それが聞こえたのか、ギデオンが顔を真上に向けると、
「離せぇえええええええ!」
と、春風はそう叫びながら、土属性の魔力によって大きくなったその右足で、ギデオンの顔面を踏んづけた。
その勢いがよすぎたのか、ギデオンはパッとアメリアから手を離し、それを見たニーナはすぐにギデオンの右腕から黒い鎖を外した。
その後、「ドォン」と大きな音を立てながら、春風に顔面を踏まれたギデオンは頭部から地面に沈み、そのまま動かなくなったので、春風はすぐにギデオンから離れると、近くの地面に着地し、ニーナとピートをソッと地面に下ろした。
地面に降りた2人は、
「姉さん!」
「アメリアお姉ちゃん!」
と、すぐにアメリアのもとへと駆け出したので、春風も2人の後を追おうとしたが、
(あ! ヴァレリーさんとタイラーさんもいる!)
倒れてるアメリアの近くに、ヴァレリーとタイラーまでもが倒れてるのが見えたので、アメリアの方はニーナとピートに、任せて自身はヴァレリーとタイラーのもとへと向かおうとした。
すると、
「おっと、その前に……」
と、春風はその場に踏み止まると、土属性の魔力で大きくした右足で、ドンッと地面を踏んだ。
すると、踏んだ跡からオレンジ色の光が現れた、ツーッと地面に沈んだギデオンのもとへと向かっていき、その後オレンジ色の光がギデオンに着くと、元々地面に沈んでいたギデオンの体は更に深く沈んでいった。
そして、全身が完全に沈むと、その辺りの地面がきっちりと整えられていって、あたかもそこには何もなかったかのような状態になった。
春風はそれを見て、
(うん、これでよし!)
と、コクリと頷いた後、すぐにヴァレリーとタイラーのもとへと向かった。
「ヴァレリーさん! タイラーさん!」
と、倒れ伏してる2人に、春風がそう声をかけると、
「う……ぐ……」
「あ……う……」
と、2人とも小さくそう呻き声を出したので、
(よかった、2人とも生きてる!)
と、春風は心の中でそう呟きながら、ホッと胸を撫で下ろした後、漸くアメリアのもとへと向かった。
「姉さん! 姉さん!」
「アメリアお姉ちゃん!」
と、アメリアに必死に声をかけるニーナとピート。そんな2人の声に反応してるのか、
「あ……あぁ……」
と、アメリアは苦しそうにそう呻き声をあげた。
そして、そんなアメリアの状態を見て、
(これは……なんて酷いことを!)
と、春風は表情を歪めた。
当然、
「ギデオンの仕業ね……」
と、マジスマ内からグラシアもそう言った。
アメリアの顔は酷く汚れていて、全身は着ている衣服も含めて全てボロボロで、両腕と両足には剣で貫かれたものと思われる刺し傷があり、そこから血がドクドクと流れている。
おまけに失禁しているのか下半身が濡れていてちょっと匂っていたので、春風は思わず「う……」と顔を顰めたが、すぐに首を左右に振って、
「アメリアさん! アメリアさん!」
と、ニーナとピートと同じように声をかけた。
しかし、
「ああ……うあ……」
弱っているのか声は小さく、まさに危険な状態だったので、
「……く、このままじゃまずい!」
と、春風はボソリとそう呟くと、
「春風!」
という声がしたので、春風達がすぐに声がした方へと振り向くと、
「あ、レナ!」
近くの木々の向こうからレナが駆け寄ってくるのが見えた。
その姿を確認すると、
「レナ! こっちこっち!」
と、春風は右腕を大きく振りながら、大声でレナを呼んだので、それを見たレナは走るスピードを早くしながら、春風達のもとへと駆け寄った。
その後、アメリア、ヴァレリー、タイラーの状態を見て、
「うぅ、酷い!」
と、レナが顔を顰めていると、
「レナ、アメリアさん達と一緒にすぐにここを離れよう!」
と、春風がそう言ってきたので、
「『離れよう』って、どうする気なの? なんか3人とも動けそうにないみたいだけど……」
と、レナがそう尋ねると、
「こうするんだ!」
と、春風はそう言って、アメリアに右手を翳して、
「『無限倉庫』、発動! アメリアさんを収納!」
と、自身の持つスキルの1つの名を叫んだ。
次の瞬間、アメリアの体が、春風の目の前に現れた黒い穴に吸い込まれたので、それを見たニーナとピートが「え!?」と驚く中、
「そうか!」
と、レナは納得の表情を浮かべると、近くで倒れてるヴァレリーとタイラーの傍に寄って、春風と同じように右手を翳した後、
「『無限倉庫』、発動! ヴァレリーさんとタイラーさんを収納!」
と叫んだ。
その瞬間、ヴァレリーとタイラーの体は、春風がアメリアにした時と同じように、目の前に現れた黒い穴に吸い込まれた。ついでに、タイラーの傍に落ちてた武器らしき妙な残骸も一緒にだ。
それを見て、レナは無言でコクリと頷くと、
「春風! こっちも終わったよ!」
と、春風の傍に駆け寄りながらそう言った。
それを聞いた春風も「よし」と頷くと、
「さぁ2人とも、すぐにここから離れよう!」
と、未だ戸惑っている様子のニーナとピートに向かってそう言い、その言葉に対して、
「え!? で、でも何処に行けば……!?」
と、漸くハッと我に返ったピートがそう尋ねると、
「それなら、私が来た道を戻ろう。お母さんとディックとフィオナ、それにアーデさんもいるから」
と、レナがそう提案してきたので、
「わかった、それじゃあすぐに行こう!」
と、春風はコクリと頷きながら、その提案に乗った。
その後、春風達はレナに案内されるように、その場から急いで離れた。
しかし、そのすぐ後に、ギデオンが沈んでいる地面の土が、ボコッと音を立てながら小さく盛り上がった。




