第285話 ピートの想い
「「あ、あの!」」
グラシアとの話し合い(?)の最中、背後からニーナとピートの声がしたので、すぐに後ろを振り向いたアメリアは、
「あ、ニーナ……ピート」
と、声をもらした。
その後、ニーナとピートは無言でアメリアとグラシアのもとへと駆け寄ると、
「姉さん」
と、ニーナはアメリアを優しく抱き締めて、ピートはその様子を見た後、真っ直ぐグラシアを見つめた。
そんなピートに向かって、
「あ、あら、どうかしたのかしら?」
と、グラシアが恐る恐る尋ねると、
「あ、あの、グラシアお姉さん!」
と、ピートが緊張した様子でそう返事したので、
「な、何?」
と、グラシアが警戒しながら再び尋ねた。
すると、ピートは自身の気持ちを落ち着かせようとしているのか、ゆっくりと深呼吸すると、
「女神様や、レナお姉さん、春風お兄さんから、グラシアお姉さんの話を聞きました」
と、丁寧な口調でそう答えたので、
「そ、それなら、アメリアさんから聞いたけど……」
と、グラシアは「な、何を言ってるんだ?」と警戒すると、
「その……こんなこと言うと、『偉そうなこと言うな!』とか、『知った風なことを言うな!』とか言われそうで怖いんですけど……」
と、ピートは緊張した口調でそう言ったので、その言葉にグラシアが「ん?」と首を傾げると、
「僕……グラシアさんの気持ち、わかります」
と、ピートは静かにそう言ったので、
「……それは、どういう意味かしら?」
と、グラシアが今度は真剣な表情でそう尋ねた。
すると、ピートは再び深呼吸して、
「僕の両親が……『断罪官』に殺されたって話しましたよね?」
と、真っ直ぐグラシアを見つめながらそう尋ね返したので、その質問を聞いてグラシアは「う……」と呻くと、すぐに表情を変えて、
「……ええ、言ってたわね。その話を聞いた時、私は生前を思い出して、『他人事じゃない』って感じたわ」
と、悲しそうな口調でそう答えた。
その後、
「あなたは……断罪官が憎くないの?」
と、グラシアはピートに向かって恐る恐るそう尋ねると、
「……正直に言いますと、凄く憎いです。『殺してやる』って思ったりもしました」
と、ピートはグラシアを見つめたままそう答えたので、
「そ……そう、よね。私も、両親を殺された時は、あなたと同じことを考えたわ」
と、グラシアはそう言って表情を表情を暗くし、そんなグラシアを、アメリアとニーナが心配そうに見つめていると、
「いや、『断罪官』だけじゃないです」
と、ピートがそう口を開いたので、その言葉にグラシアだけでなくアメリアとニーナまでもが「え?」と反応すると、
「まだ、僕が両親や他の獣人の仲間達と旅をしていた時、仲間の何人かは『人間』によって殺されました。だから、僕は『断罪官』がというよりも、『人間』という種族そのものを憎んでました」
と、ピートがそう話を続けたので、その言葉にアメリアとニーナは「う……」と悲しそうな表情を浮かべ、
「それは……耳が痛いわね」
と、グラシアは「悲しみ」と「申し訳なさ」がごちゃ混ぜになったような表情を浮かべながらそう返事すると、
「で、でも……」
と、ピートが更に話を続けたので、それにグラシア、アメリア、ニーナが「ん?」と反応すると、
「でも、そんな僕のことを助けてくれたのも、『人間』のニーナお姉ちゃんでした。いや、ニーナお姉ちゃんだけじゃない、ニーナお姉ちゃんとアメリアお姉ちゃんのお父さんも、僕のことを知ってて、ずっと黙ってた……僕のことを、守ってたんです」
と、ピートは声を震わせながらも、それでも真っ直ぐグラシアを見てそう言った。
そんなピートの言葉に、
「「ぴ、ピート……」」
と、アメリアとニーナは目をうるうるさせて、
「……」
グラシアは何も言えずにいた。
すると、
「え、えっと……ここまで長くなっちゃって、結局、僕は何が言いたいのかと言いますと……」
と、ピートは緊張した様子でそう言った後、またゆっくりと深呼吸して、
「僕は、ニーナお姉ちゃんが好きです。『人間』ですけど、僕の大切な存在なんです。だから、僕はニーナお姉ちゃんを守りますし、ニーナお姉ちゃんの家族のアメリアお姉ちゃんのことも、僕は守ります。グラシアさんが、それでも『元』とはいえ『断罪官』のアメリアお姉ちゃんのことを許せないなら、僕のことも、『許せない』と思っていいですし、まだ『断罪官を許せない』って想いがあったら、それ、全部僕にください。グラシアさんの『怒り』と『憎しみ』は、僕が背負いますから」
と、グラシアに向かってそう言うと、最後に「お願いします」と深々と頭を下げながらそう付け加えた。
そんなピートの言葉を聞いて、
「ま、待ってくれピート! それは……」
と、アメリアが「待った」をかけようとしたが、それよりも早く、
「……あなた、確か12歳だったわよね?」
と、グラシアがピートに向かってそう尋ねてきたので、
「はい、今年12歳になりました」
と、ピートがコクリと頷きながらそう答えると、グラシアは「そう」と声をもらした後、ゆっくりとピートに近づいて、ソッと優しく彼を抱き締めた。といっても、グラシアは「幽霊」なので、ピートに触れることは出来ないが。
まぁそれはさておき、いきなりグラシアに抱き締められて、
「あ、あのぉ……」
と、ピートが戸惑いの表情になると、
「ありがとう。あなた、とっても優しいのね」
と、グラシアは優しい口調でピートを抱き締めたままそう言ったので、それにピートが、
「え? いや、そのぉ……」
と、更に戸惑いの表情になると、
「安心して。私の『憎しみ』と『怒り』は、誰にも渡すつもりはないわ。当然、あなたにもね。だから、あなたは今以上に強さを身につけて、これからも彼女達のことを守ってほしいの」
と、グラシアは優しい口調のままそう話を続け、最後に「お願い」と付け加えた。
その言葉を聞いて、
「……はい。わかりました」
と、ピートはコクリと頷きながらそう返事すると、今度はアメリアとニーナに視線を向けて、
「アメリアさん」
と、アメリアに向かってそう話しかけたので、それにアメリアが「は、はい!」と緊張した様子でそう答えると、
「酷いことばかり言って、ごめんなさい」
と、グラシアはアメリアに向かって深々と頭を下げてそう謝罪したので、それを聞いたアメリアは、少し首を左右にふると、
「いえ……私の方こそ、申し訳ありませんでした」
と、アメリアもグラシアに向かって深々と頭を下げて謝罪した。
さて、一方春風、レナ、ヘリアテスはというと、
「「「……」」」
ログハウスの中から、グラシア達の様子を見てほっこりしていた。




