第277話 「異端者」2人と「裏切り者」の話・そして、「惨劇の始まり」へ・2
今回も、いつもより少し長めの話になります。
ニーナの故郷の村に向かってくるもの。それは、「五神教会」に所属する異端者討伐部隊「断罪官」だった。
何故、彼らが村に向かってくるのか?
そして、何故、ニーナとピートが、村長の妻に地面に押さえつけられているのか?
その理由を語る為に、再び時を数日前に戻すとしよう。
それは、五神教会支部にある地下牢で、ニーナとピートが、村長とニーナの父親と話し合っていた時、
(な、なんですって? あの娘が『固有職保持者』だと知ってたですって!?)
実は、彼女達から離れた位置で、村長の妻がその話の内容を聞いていたのだ。
そして、
「その人がここに来たら、みんなでここを出よう」
と、ニーナの父親が、ニーナとピートに向かってそう言ったのを聞いて、
(ふ、ふざけんじゃないわよ! 息子を無残な姿にした奴が、このまま村を出て行く!?)
と、村長の妻が怒りをあらわにすると、話を終えた村長とニーナの父親が動いたので、村長の妻はすぐにその場から離れて物陰に身を潜めた。
そして、2人の背中を隠れて見送ると、
(あの2人……どうしてくれようかしら)
と、村長の妻は自身の右手の爪を噛みながら、今も地下牢の中にいるニーナとピートにどう復讐してやろうか考えた。自分の息子をはじめ、複数の人を無残な姿に変えることが出来る力を持った相手に、村長の妻はどうやって挑もうかと頭を働かせていると、
「……待てよ。いるじゃない、『異端者』に対抗出来る者達が!」
と、閃いたかのように表情を明るくさせて、
「なら、すぐに呼ばなくちゃね、『断罪官』を!」
と、最後にその者達の名を呟いて、ニヤリと口もとを醜く歪ませた後、村長の妻は早速行動を開始した。
そしてそれから時が過ぎて、五神教会支部の地下牢で、
「ピート、体の調子はどう?」
「うーん、だいぶ力が戻ったと思うけど……」
と、ニーナとピートがそう話し合っていると、遠くでガチャリと扉が開く音が聞こえて、それからすぐに
自分達のもとに向かう複数の足音が聞こえたので、
(あれ? お父さん達かな?)
と、ニーナがそう疑問に思っていると、
「違う! 村長さん達じゃない! 悪い匂いがする!」
と、ピートがそう声を荒げたので、それにニーナが思わず「え?」と首を傾げると、
「おはよう、罪人さん達」
現れたのは、醜く口もとを歪めた村長の妻と数人の男性達だった。彼女達を見て、
「あ、あなたは!」
「ぐるるる……!」
と、ニーナとピートが警戒していると、男性の1人が鉄格子の扉を開けて、その瞬間、他の男性達が一斉に中に入ると、
「きゃあ!」
「な、何するんだ!」
彼らは無言で2人を縄で縛り上げた。
いや、よく見ると、一部の男性がニーナに「憎しみ」が込められた眼差しを向けていたので、
「ひ!」
と、それを見たニーナは思わずそう悲鳴をあげた。
そして、縛られた2人を前に、村長の妻が「ふっ」と鼻で笑うと、
「さぁ、お二方。一緒に行きましょうね」
と言って先にその場から歩き出し、それに続くように、ニーナとピートは無理矢理男性達に連れられるようにその場から歩き出した。
そして現在、村の入り口にて、
「ま、まさか、あの時の会話を聞いてたとは……」
と、村長の妻から全てを聞かされた村長が、顔を真っ青にしながらそう言うと、
「あなた達、彼らも取り押さえなさい!」
と、村長の妻が、後ろに立つ男性達に向かってそう命令し、それを聞いた男性達はすぐにその場から動いて、
「な、何をする!」
「や、やめてください!」
「嫌、離して!」
村長、ニーナの父親、そしてニーナの母親を無理矢理地面に押さえつけたので、
「お、おい! どういうつもりだ!」
と、村長が村長の妻に向かって怒鳴るようにそう尋ねると、村長の妻は別の男性達にニーナとピートを押さえるよう命令して、その後、無言で村長に近づいた。
そして、押さえつけられた村長を上から見下ろすと、
「黙りなさい! この裏切り者が!」
と、怒鳴りながら、村長の顔面を足で蹴った。
「が!」
と、突然のことに小さく悲鳴をあげた村長。そんな村長を見て、
「そ、村長さん!」
と、ニーナがそう悲鳴をあげたが、そんなニーナを無視して、
「息子があんな目に遭ったっていうのに、あなたは父親でありながらあの子を助けないで、代わりにあの『罪人』を殺さず村から追放ですって?」
と、村長の妻は冷めた目で村長を見下ろしながらそう呟くと、
「ふざけるな! ただでさえあの娘に『悪魔の力』が宿ってるのを知ってて黙ってただけでも許せないのに、息子を無残な姿に変えたあの娘を生かすですって!? 冗談じゃないわよ!」
と、何度も唾を飛ばしながらそう怒鳴った。
それを聞いて、村長が「ぐ……」と苦しそうに呻いたが、村長の妻は今度はギロリとニーナの父親と母親を睨みつけて、
「お前達もお前達だ! 『五神教会』に所属している身でありながら、娘可愛さに私達をずっと騙して! これが、『五神教会』に対する『裏切り』と呼ばずして何て呼ぶって言うの!?」
と、村長の時と同じように何度も唾を飛ばしながら、2人に向かってそう怒鳴ったので、
「そ、それは……」
と、ニーナの父親はそれ以上何も答えようともせず、村長の妻から視線を逸らした。
それを見て、村長の妻が「ふん!」と鼻を鳴らすと、
「だから、お前達に代わって私が通報したのよ、異端者討伐部隊『断罪官』にね。彼らならきっと、あの『悪魔』共を葬ってくれるでしょう」
と、ニヤリとしながらそう言ったので、
「な、何という愚かなことを! あなたは、彼ら……断罪官がどういう存在なのか、わかってるのですか!?」
と、ニーナの父親が怒鳴るようにそう尋ねてきた。
その質問に対して、村長の妻が「はぁ?」と反応すると、
「『どういう存在』って、ただ『異端者』を殺すってだけの部隊でしょう?」
と、ニーナの父親に向かって「何言ってんだお前?」と言わんばかりの人を小馬鹿にするかのような表情でそう尋ね返した。
しかし、ニーナの父親はそれに怯むくとなく、
「違います! 彼らが殺すのは、『異端者』だけではありません! その『異端者』の周囲の人間まで殺すんです! それも、ちょっと声をかけただけの人間や、傍を通り過ぎただけの人間もです! そんな連中がここに来たら、ニーナだけでない、あなたも……いや、この村の人間全員までも殺されてしまいます!」
と、村長の妻に向かって「断罪官」の恐ろしさを説明し、それを聞いたニーナは、
「そ、そんな……私の……私の所為で、村のみんなが?」
と、ショックで顔を真っ青にし、村の住人達はというと、
「お、おい、待てよ……」
「そんな!」
「嘘でしょ!?」
と、ニーナと同じように顔を真っ青にしてざわめき出したが、
「あっはっは! そんなの、ただの噂話に決まってるでしょ!?」
と、村長の妻は逆に大きな声で笑いながら、ニーナの父親の説明を否定したので、
「噂話ではありません! 本当の話で……!」
と、ニーナの父親はそう怒鳴ったが、
「あら、来たわよみんな」
と、それを遮るかのように、村長の妻が村の入り口を見ながらそう言うと、それに合わせたかのように、
『……』
村の前に、その「断罪官」が到着したので、
「あ、ああ……」
と、それを見たニーナの父親の顔が、「絶望」に染まった。




