第276話 「異端者」2人と「裏切り者」の話・そして、「惨劇の始まり」へ
今回は、いつもより少し長めの話になります。
さて、時は数日前にまで遡る。
村長の息子とその取り巻き達による「騒動」の後、ニーナの故郷の村は漸く落ち着きを取り戻してはいるが、未だ村全体は不穏な空気に包まれていた。
現在、村長の家ではニーナと「獣人」の少年ピートの「処遇」についての話し合いが行われていて、村長の家の前には、暗い表情をした住人達が、皆、村長が家から出てくるのを待っていた。
それから暫くすると、ガチャリと玄関の扉が開かれて、そこから村長と数人の男女、そして、ニーナの父親が現れた。
「みんな、たった今、ニーナと獣人の少年の『処遇』が決まった」
と、真剣な表情でそう口を開いた村長に、村の住人達がゴクリと唾を飲むと、村長は「話し合い」で決まったことを、住人達に説明した。
一方、ニーナとピートはというと、五神教会支部の地下にある牢屋の中でじっとしていた。
(きっと、今頃私達の『処遇』について話し合ってるんだろうなぁ)
と、ニーナが心の中でそんなことを考えていると、遠くでガチャリと扉が開かれたような音がしたので、その音にニーナが「あ」と声をもらすと、
「だ、だ、大丈夫だよ、ニーナお姉ちゃん! ぼ、僕が、ついてるからね!」
と、ピートが声を震わせながらも、ニーナに向かって元気づけるかのようにそう言ったので、それを聞いたニーナは、
「うん、ありがとうピート」
と、ニコッとしながらそう返事した。
そして、遠くからこちらに向かって近づく2つの足音が聞こえたので、2人はその音を聞きながら警戒していると、牢屋の前に現れたのは、
「お父さん。村長さん」
ニーナの父親と村長だったので、ニーナは少しホッとしたがまだ警戒は解かず、ピートもニーナを庇うように彼女の前に立った。
そんな2人を見て、ニーナの父親と村長は2人して「ふふ」と笑うと、
「ニーナ。今、村長の家でお前とその少年についての『話し合い』をしてきたよ」
と、ニーナの父親が、牢屋の鉄格子越しにニーナとピートに向かってそう口を開いたので、それを聞いた2人は更に身構えると、
「で、村長と話し合った末に……お前とその少年を、この村から追放することにした」
と、ニーナの父親は真剣な表情でそう言ったので、ニーナとピートは「え?」と首を傾げてその場に固まった。
それを見て、ニーナの父親が「お、おーい」と2人に声をかけると、ニーナはその声にハッとなって、
「……私達を、教会に突き出すか、殺すんじゃないの?」
と、ニーナの父親と村長を警戒しながら、恐る恐るそう尋ねた。
その質問に対して、
「そんなことはしないよ」
と、今度は村長が首を左右に振りながらそう答えると、ニーナは大きく目を見開きながら、鉄格子を掴んで、
「どうして!? 私は固有職保持者! 『悪魔』の力を持った人間なんだよ!?」
と、村長に向かって怒鳴るようにそう尋ねた。
すると、
「……知ってたよ」
と、村長ではなくニーナの父親が代わりにそう答えたので、その答えにニーナは「え?」と声をもらすと、
「実はなニーナ、お父さんは……いや、正確に言えば、お父さんとお母さん、そして村長は、お前が固有職保持者だということを知ってたんだ」
と、ニーナの父親は真面目な表情でそう話を続けたので、その言葉を聞いたニーナは、
「う、嘘……」
と、顔を真っ青にすると、
「本当だよ。そして、君が自分の力に気付いて、そこの獣人の少年と村を出て行こうと計画していたことも知ってた」
と、今度は村長がチラッとピートを見ながらそう言ったので、その言葉にピートが「ええぇ!?」と驚く中、
「い、いつから……いつから知ってたの?」
と、ニーナは真っ青な表情のままそう尋ねてきたので、
「勿論、お前が生まれた時からだよ」
と、ニーナの父親はそう答えた。
その答えを聞いて、
「う、嘘……そんな、ずっと前から?」
と、ニーナは震えた声でそう言うと、ニーナの父親はコクリと頷いて、
「そうだ。今から15年前、生まれたばかりのお前の体が、何やら黒い光に包まれているのが見えた私は、嫌な予感がして思わずお前に『鑑定』のスキルを使ったんだ。その結果、お前に『呪術師』の固有職能があることを知った私は、お母さんと共に村長と相談したんだ。そして、もしもこのまま、お前が自分の力を知らずに15歳を迎えたら、私が村人達に『ニーナが成人を迎えた』と嘘をついて、その後はお前とお母さんと共に村から去る計画だったんだ。だがまさか、お前が先に知ってしまうとは思わなかったがね」
と、ニーナに向かって自分達の「計画」について説明した。
その説明を聞いて、
「そ、そんな……じゃあ、私は……」
と、ニーナは鉄格子を掴んだまま、ズルズルと膝から崩れ落ち、それを見たピートが、
「ニーナお姉ちゃん!」
と、すぐにニーナに駆け寄った。
すると、
「ニーナ」
と、ニーナの父親がそう口を開くと、鉄格子ごとニーナを抱き締めて、
「ずっと黙っていてすまなかった。でも、安心してくれ。『追放する』といっても、お前とその獣人の少年だけじゃない。村を出て行く時は、お父さんとお母さんも一緒だ」
と、優しい口調でそう言ったので、
「ね、姉さんは? 姉さんはどうするの?」
と、ニーナは震えた声でそう尋ねると、
「アメリアのことなら心配しないでくれ。私の方で、彼女に伝えるから。まぁ、多少時間はかかるだろうが」
と、村長がニコッとしながらそう答えたので、
「……ご、ごめんなさい、村長さん。私……」
と、ニーナは震えた声のまま、村長に向かってそう謝罪すると、村長はニーナの頭に優しくポンと手を置いて、
「息子がすまなかったね。あれは、あいつが招いた結末なんだから、ニーナが気にすることはないよ」
と、ニーナの父親と同じように優しくそう言うと、
「そして、獣人君」
と、今度はチラッとピートに視線を向けてきたので、
「ふえ!? は、はい!」
と、ピートは思わずビクッとすると、
「私の不出来な息子とその仲間がすまなかったね。そして、ニーナを助けようとしてくれて、本当にありがとう」
と、村長はピートに向かって謝罪とお礼を言った。
それを聞いて、
「あー、えっと……」
と、ピートは恥ずかしそうに顔を真っ赤にすると、
「とにかく、今は不便だろうが、もう少しここで待っててくれ。実は別の町にある五神教会の支部に、お父さんの味方がいるんだ。その人がここに来たら、みんなでここを出よう」
と、ニーナの父親がそう言ったので、それを聞いたニーナとピートは、
「「うん」」
と、2人してコクリと頷き、その後、ニーナの父親と村長は牢屋を後にした。
それから数日後、村に近づく一団が見えたので、
(ああ、やっと来たか……)
と、ニーナの父親と母親、そして村長が村の出入り口に立つと、
「……ん? ちょっと待て」
と、村長が何かに気付いたかのようにジッとその一団を見つめたので、
「どうしてんですか村長……?」
と、ニーナの母親が尋ねると、村長は顔を真っ青にして、
「あれは……『断罪官』だと!?」
と、驚きの声をあげた。
その声を聞いて、ニーナの父親と母親が「え!?」と声をあげる中、
「ば、馬鹿な……何故断罪官が!? 誰が呼んだのだ!?」
と、村長が誰かに尋ねるかのように声をあげると、
「私が呼んだのよ」
と、後ろでそんな声がしたので、3人はすぐに後ろを振り向くと、
「うっふっふ……」
「い、痛い! 離して!」
「離せ! 離せよぉ!」
そこには嫌がるニーナとピートを無理矢理地面に押さえつけた、村長の妻がいた。




