第271話 「異端者」2人と「裏切り者」の話・ニーナの「村」について
本日2本目の投稿です。
ニーナが15歳……「成人」になる前日、彼女が暮らす村で、1つのとんでもない事態が起きた。
何故、そのようなことが起きたのか?
それを説明する為に、まずは彼女が暮らす村について説明しよう。
エルードの辺境に位置するその村は、それほど大きくはないが独自の「文化」を形成していた。といっても、その村にも宗教組織である「五神教会」の支部はある。
まぁとにかく、その村は長である「村長(男性)」と、村長の仕事をサポートする2つの家、そしてニーナの両親が所属している五神教会の上級信者によって平和を保たれていた。
ただ、その「村長」の一族にはとある問題があった。
村長本人は村に住む人々のことを第一に考えられる素晴らしき人物なのだが、その1人息子が大変評判が悪かったのだ。
顔はイケメンだが性格は最悪で、村長の息子であることをいいことに、その権力を悪用して、彼は複数の取り巻き達と共に様々な悪事を働いていた。それが村の中だけならまだよかったのだが、もっと最悪なことに、彼らはなんと時々村の外に出ては、近くの町や他の村でも悪さをしていて、それが村全体の評判を悪くしていたのだ。
それだけでも村長の頭を悩ませていたのだが、更に彼を悩ませていたのは、息子の母親……つまり、村長の妻だった。
元々は村の外から来た女性で、村長と結婚して彼の妻になったのはいいが、それをきっかけに時々最悪な本性を表すようになり、村長が村にいない時を狙ってはその権力を乱用してやりたい放題していたのだ。
勿論、村長本人も馬鹿ではなく、妻の本性に気付いてどうにか彼女を反省させることは出来た。離婚して村から追放しなかったのは、村長が妻を心から愛し、彼女が更生してくれるのを願った為だろう。実際に村の住人達から、
「あの女と別れろ!」
「この村から追放しろ!」
と、怒りや恨みに満ちた声があがっていたが、
「村のみんなには本当に申し訳ないと思ってる! だがしかし、彼女はそれでも私の妻なんだ! 彼女は私がきっちりと反省させるし、二度と悪さ出来ないようにもする! だからどうか、どうか私を信じてほしい!」
と、村長が精一杯村の住人達にそう懇願したので、それを聞いた村人達は「それならば……」と村長を信じることにした。
その後、妻は村長の監視のもとですっかりと大人しくなり、村の住人達もそれにはホッと胸を撫で下ろした。
そして、そんな2人の間に息子が生まれて、
(これで、村の方も安心だ)
と、誰もがそう考えていたが、肝心の息子は幼い頃から悪さばかりしていたので、先程も語ったように村の住人からの評判は最悪だった。
そして、その息子を産んだ妻はというと、初めて産んだ子供ということもあって彼を甘やかしてばかりで、幾ら村長が注意しても、
「まだ子供だから!」
とか、
「このくらいの歳なら多少の素行の悪さは目を瞑りなさい!」
などと妻がそう怒鳴って息子を庇うものだから、それが村長を酷く悩ませていた。
そして極め付けは、
「お父さんが死ねば、この村の権力は全て私とあなたのものよ」
と、村長に内緒で妻が息子にそう教え込んでいたので、それが息子の素行を更に悪くしていた。
さて、この息子なのだが、こちらも先程語ったように顔はイケメンだったので、村での評判は最悪だが村の中と外に住む女性からは大変人気があった。
しかし、そんな彼には、どうしても手に入れたい人物が1人だけいる。
それは、自分より2つ年下の、ニーナ・スターク……そう、ニーナだ。
幼い頃から悪さばかりしていた息子だったが、ニーナのことは実は大切に思っていた。顔も村に住む同じ年頃の少女達の中ではかなりよかったし、性格も大人しかったので、それが息子の心を掴んでいたのだが、いつも姉のアメリアに守られていたので、中々ニーナに近づくことが出来ないでいた。
それに加えて、彼女達の両親は共に五神教会の人間なので、2人にもしものことが起きれば、下手したら五神教会そのものを敵に回すことになってしまい、そうなれば幾ら村長の息子でも太刀打ち出来ないので、それが彼を余計に苛立たせるようになり、いつしか彼はその苛立ちを、他の女性にぶつけるようになってしまったのだ。
しかし、成長するにつれて息子のニーナへの想いも更に大きくなっていて、アメリアが成人となって村を旅立ったのを期に何度もニーナにアプローチをかけたのだが、その度に彼女の両親に止められたので、どうしたものかと考えたが、
(そうだ! 俺ももう少しで成人になって『職能』を授かるから、それを使ってニーナを手に入れればいい!)
という考えに至って、彼は成人となる時までニーナへのアプローチをやめた。
そして、遂に成人となった息子は、神々より職能を授かった。
しかも、悪いことに……いや、息子本人にとっては幸いなことに、授かった職能は息子にとって最高のもので、息子はその授かった職能の力を使いこなそうと、取り巻き達と共に訓練に励んだ。その間、息子と取り巻きに関する悪い話は聞かなくなり、
「よかった、これで村に平和が訪れた!」
と誰もが口々にそう言ったが、
「いや、油断は出来ない。これが、嵐の前の静けさでなければいいが……」
と、中にはそう不安を口にする者もいたので、村長をはじめ、村の住人達は警戒を怠らなかった。
さて、そんな息子はというと、取り巻き達と共に自身の力を磨く日々を送っていたが、その最中、彼はある不安に苛まれていた。
それは、勿論ニーナのことである。
力を磨いていた時、息子は取り巻きの1人からこんな報告を聞いていた。
「最近、ニーナの様子がおかしい」
そう、いつからだったのかはわからないが、ここ最近、ニーナが1人でいることが多くなっていた。彼女が元々1人でいることを好んでいたのは息子も知ってはいたが、どうも1人で森の中に入ることが多くなっていて、「どうなってるんだ?」と考えた息子は、別の取り巻きにニーナの動向を探らせることにした。
そして数日後。
「ニーナが成人を迎える前日に、誰かと村を出て行くつもりだ!」
と、取り巻きは調べたことを息子にそう報告した。
ただ、その「誰か」が何者なのかは、何故か取り巻きでもわからなかったらしい。
それが、ニーナの「スキル」によるもので、その誰かというのが、森に住む「獣人」の少年であることは、息子の耳には入らなかった。
しかし、その報告を聞いた瞬間、
「ふざけるな! そんなこと、させるものか!」
と、息子の怒りが頂点に達した。それに加えて、あと数日でニーナが成人となることも知ったので、その瞬間息子の怒りは頂点を……限界を超えた。
そして、運命のその日、
「ニーナ!」
と、村でニーナを見つけた息子は取り巻き達と共にニーナに詰め寄ると、彼女の腕を掴んで、
「お前は俺のものだ! 誰にも渡さないし、何処にも行かせるものか!」
と、彼女に向かってそう怒鳴った。




