第269話 「異端者」2人と「裏切り者」の話・「計画」と「約束(誓い)」
それからニーナは、ピートにエルードの現状と、自身のことについて話し始めた。
自分達「人間」という種族が崇める、5柱の神々を信仰する現在の宗教組織である「五神教会」についての説明から始まり、15歳になると「成人」……つまり、大人として認められ、その証として神々から「職能」という力を授かるのだが、それとは別に、生まれた時から既に身に付けているという「固有職能」というものもあって、そちらは五神教会からは「悪魔の力」と呼ばれ、人々から恐れられてるということ。
そして、自分の両親がその「五神教会」の人間で、姉も教会の一員となる為に成人になったのを期に村を旅立ったのだが、自分には何故かその「悪魔の力」と呼ばれている「呪術師」の固有職能を持っていて、それが教会に知られると、教会に所属する異端者討伐部隊「断罪官」によって自分だけでなく両親や村の人間まで殺されてしまうことなど、自身が今日まで生きて教わってきた全てを、ピートに説明した。
「……と、いう訳なの」
と、ニーナが暗い表情でそう話を締め括ると、
「そ、そんな……」
と、ピートはボソリとそう呟いて、左右の拳をギュッと握り締めた。
その後、
「じ、じゃあ……お姉さんが、その『固有職保持者』だってバレたら、お姉さんだけじゃなく、お姉さんの家族や、周りの人達も、殺されちゃうってこと?」
と、ピートが恐る恐るそう尋ねてきたので、
「うん。そうなっちゃうんだ」
と、ニーナは悲しそうな表情でコクリと頷きながらそう答えると、
「そんな! そんなの酷いよ!」
と、ピートがバッとベッドから立ち上がりながらそう声を荒げたので、
「わ! お、落ち着いて、落ち着いて!」
と、驚いたがニーナが慌てた様子でピートを宥めた。
それを聞いて、ピートがハッと我に返ると、
「ご、ごめんなさい」
と、ピートはそう謝罪して、再びベッドに座ったので、それを見たニーナがホッと胸を撫で下ろしながら、
「う、ううん、気にしないで」
と、穏やかな笑みを浮かべてそう言った。
そんな様子のニーナに、ピートは何故かギュッと胸を締め付けられる感覚に襲われた後、
「え、えっと……女の子に、こんなこと聞くのはよくないってわかってるんだけど……」
と、ぎこちなさそうに口を開いたので、それにニーナが「え?」と首を傾げると、
「その……お姉さんって、今何歳なの? 僕、9歳だけど……」
と、ピートが恐る恐るそう尋ねてきたので、それを聞いたニーナはポカンとしたが、すぐに「ふふ」と笑うと、
「今、12歳だよ」
と、笑いながらそう答えたので、
「じ、じゃあ、後3年で『大人』ってことだよね?」
と、ピートは再び恐る恐るそう尋ねた。
その質問に対して、
「……うん。そうだよ」
と、ニーナが頷きながらそう答えると、
「その……バレちゃったら、どうする気なの?」
と、ピートはサーッと表情を青くしながら、更に恐る恐るそう尋ねてきたので、
「その辺りについては大丈夫」
と、ニーナはそう答えると、
「だって、その前に村を出て行くから」
と、笑顔でそう付け加えた。
その言葉を聞いて、
「それって、ここから逃げるってこと?」
と、ピートが目を大きく目を見開きながらそう尋ねると、
「うん」
と、ニーナは真剣な表情でコクリと頷きながら答えたので、その答えにピートはゴクリと唾を飲んだ。
そんなピートに、ニーナは更に話を続ける。
「でも、ただ逃げ出すんじゃ駄目。そしたら教会にバレてしまうから」
と言ったニーナに、ピートが「じゃあ……」と声をもらすと、
「だから、3年後に15歳を迎える直前に、私は死んだということにするの。村から離れたたところに大きな崖があってね、そこに靴と偽物の遺書を置いておけば、『自殺した』ってことになるから、それでそのまま姿を眩ませばいいの」
と、ニーナは真剣な表情のまま、自身の「計画」を説明した。
その説明を聞いて、ピートはタラリと汗を流して再びゴクリと唾を飲むと、
「そ、それ、本気で言ってるの? お姉さんの『家族』は?」
と、ニーナに向かってまた恐る恐るそう尋ねた。
その質問に対して、
「……お父さんとお母さん、それに姉さんは悲しむと思う。正直、よくないことだっていうのはわかってるんだ」
と、ニーナは悲しそうな表情でそう答えたが、
「でもね、やっぱり怖いんだ。私の中に『悪魔の力』が宿ってるってことを知った時、お父さんやお母さん、姉さん、それに村のみんながどんな反応をして、どんな顔をするのかなって。そう考えると……」
と、そう話を続けると、ギュッと自分で自分を抱き締めた。よく見ると、その手はブルブルと震えていたので、
(お姉さん、本当に怖いんだなぁ)
と、ピートは心の中でそう呟きながら、ニーナと同じように悲しそうな表情を浮かべた。
だが、それからすぐに、
「……よし」
と、ピートがコクリと頷くと、
「お、お姉さん」
と、ニーナに声をかけたので、それにニーナが「ん?」と反応すると、
「その……3年後、お姉さんが逃げる時、一緒についていってもいい?」
と、ピートがそう尋ねてきたので、それを聞いたニーナが「え?」と首を傾げた。
それを見て、ピートは「う……」と呻いたが、すぐに首を左右に振るって、
「だ、だってお姉さん、3年後には1人ぼっちになっちゃうから。ほら、僕も今、家族や仲間がいなくて1人ぼっちだし……!」
と、真面目な表情でそう説明すると、
「だ、だから……僕が、お姉さんの『新しい家族』になる!」
と、最後にそう付け加えた。
その言葉を聞いて、
「……いいの?」
と、ニーナが目を大きく見開きながらそう尋ねると、
「勿論!」
と、ピートは力強くそう頷いた。
その言葉を聞いて、ニーナはボーッとなったが、すぐにガバッとピートに抱きついて、
「……ありがとう」
と、震えた声でお礼を言った。
突然のことにピートは少しの間固まったが、すぐに自分もニーナを抱き締めた。
そして、
「それじゃあ、3年後に計画を実行するね」
と、ニーナがピートに向かってそう言うと、
「うん、3年後。それまでに、僕もここで出来るだけ力をつけるから」
と、ピートもコクリと頷きながらそう返事して、
「じゃあ、約束だね」
「うん、僕とお姉さん……ニーナお姉ちゃんの、約束」
と、最後に2人はそう誓い合うのだった。




