第265話 「異端者」2人と「裏切り者」の話・ピート編
「月光と牙の神ループス」の加護を受け、500年前から現在に至るまで、今このエルードに暮らす「人間」という種族から「悪しき種族」の1つと呼ばれている「獣人」の少年ピート。彼の人生は、まさに波乱の連続だった。
先程も語ったように、現在「獣人」という種族は人々から「悪しき種族」と呼ばれている。その為肩身の狭い彼らは今、人1人寄りつかない危険な地域でひっそりと暮らすタイプと、世界中をあちこち彷徨いながら暮らすタイプに分かれていた。
少年ピートは後者の方で、彼は生まれた時からずっと、両親や数少ない仲間達と共に、安住の地を求めて各地を彷徨っていた。
しかし、その旅はあまりにも過酷で、いく先々で凶暴な魔物や悪い人間達と戦って命を落とす者もいれば、旅の中で変わっていく環境に体が耐えられず、病気になって命を落とす者もいたので、その為に1人、また1人と仲間を失っていった。その中にはピートと仲の良かった同い年の友達もいて、失った時の彼の悲しみはとても深かった。
そして、ピートが8歳になった時、残ったのは彼の両親だけで、他の仲間は彼らを残して全滅したが、それでも彼らは旅をやめることなく、1つの場所に数日留まっては、また新たな土地を目指して旅立つということを繰り返していた。
そんな生活をしていく中、ある日、
「ね、ねぇ父ちゃん。何で僕達、こんな旅を続けてるの?」
と、ピートが恐る恐る父親に向かってそう尋ねると、
「さぁ、なんでだろうね」
と、父親は考えるのをやめたかのような遠い目をしながらそう答えたので、
(ああ、そっか。父ちゃんもきっとなんでかわからないんだなぁ)
と、そう思ったピートは、
「ごめんね父ちゃん。変なこと聞いちゃって」
と、申し訳なさそうな表情で父親に向かってそう謝罪した。
その謝罪を受けて、
「いや、いいんだよピート。お前は悪くないから」
と、父親がピートの頭を撫でながら、笑顔でそう言うと、
「大丈夫よピート。いつかきっと、こんな私達でも受け入れてくれる場所が見つかるわ」
と、母親は笑顔を浮かべて優しい口調でそう言ったので、
(ああ。母ちゃんも辛いんだなぁ)
と、幼いピートはそう納得すると、
「うん! 僕、頑張って旅を続けるよ!」
と、両親を励ますかのように笑顔で元気よくそう言った。
しかしそれから1年後、9歳になったピートは、絶望のどん底へと叩き落とされた。
それは、とある森の中で暮らしていた時のことだった。
平和な日々を過ごしていたピートら親子の前に、異端者討伐部隊『断罪官』が現れたのだ。
圧倒的な力でピート達を追い詰めていく断罪官。
逃げられないと悟ったのか、
「母さん、ピートと共に逃げるんだ!」
と、ピートの父親は、自身が囮になってピートとピートの母親を逃した。
当然、
「そ、そんなの嫌だよ!」
と、ピートは拒否したが、
「来なさい、ピート!」
母親は無理矢理ピートの手を引っ張ってその場から逃げ出した。
そして、それから少しして、
「ぐあああああっ!」
と、遠くで父親の悲鳴が上がったので、
「と、父ちゃあああああん!」
と、ピートは戻ろうとしたが、
「駄目よピート!」
と、母親は更にピートを引っ張る力を強くしたので、ピートは父親のもとへと向かうことが出来なかった。
その後、2人はそのまま逃亡の旅をしていたが、やはり現実は何処までも残酷なようで、ある日、とうとう2人は断罪官に追い付かれそうになった。
そして、2人が崖っぷちに立たされた時、
「ごめんね、ピート」
「え?」
母親は、ピートを崖下へドンッと突き落とした。
「か、母ちゃん!?」
突然のことに驚いたピートは、崖下を流れる川の中に落ちた。
激しく流れる川からなんとか顔を出したピートだったが、その時彼の目に映ったのは、断罪官の隊員によって母親が殺害された場面だったので、
「母ちゃあああああああん!」
と、ピートは流されながらも悲鳴をあげた。
それから、どのくらいの間流されただろうか、ピートが目を覚ました時には、川の流れがだいぶ弱くなっていて、適当な川岸に近づくと、よろよろとそこに立った。
そして、ピートは周囲を見回した後、改めて自分が1人ぼっちな状態だと確認すると、その場に膝から崩れ落ちて、
「う、うう。母ちゃあああん」
と、声に出して泣いた。
暫くすると、ひとしきり泣いたピートはゆっくりと立ち上がると、
「……進まなきゃ。旅を続けなきゃ」
と、虚ろな目をしながらそう言って、よろよろとその場から歩き出した。
それからどのくらい時が経っただろうか、森の中を彷徨っていたピートのお腹が「ぐぅ」と鳴り出して、
「お腹……すいた」
と、ピートはボソリとそう呟くと、近くにあった木の根本に倒れ込むようにゴロンと寝転んだ。
そして、
(父ちゃん。母ちゃん。僕、もうすぐそっちに行くね)
と、ピートが全てを諦めようとした、まさにその時、すぐ近くでパキッと木の枝を踏み砕いた音がしたので、その音に気付いたピートが「ん?」とその音がした方へと視線を向けると、
「あ……」
そこには、1人の幼い人間の少女が立っていた。
ピートはその姿を確認すると、
「っ!」
と、お腹をすかしてるのにも関わらず、バッとその場から立ち上がって、
「ぐぅううう……」
と、その少女を睨みつけた。
それに対して、
「う……あ……」
と、少女はそう声をもらしたが、
「か……」
次の瞬間、
「可愛いいいいいっ!」
と、パァッと表情を明るくしながら、笑顔でそう叫んだので、それを聞いたピートは、
「……へ?」
と、首を傾げると、その場にぺたんとへたり込んだ。
まぁ、長くなってしまったが、これが、「獣人」の少年ピートと、「人間」の少女ニーナとの、「運命の出会い」だった。




