第261話 アメリアと少女と「邪神ヘリアテス」
「い、今の……言葉は……全て、本当の話……なのか?」
と、目の前にいる春風達に向かってそう尋ねたアメリア。
その表情は酷く怯えていて、全身をブルブルと震わせているだけじゃなく歯もガチガチと鳴らしていたので、その様子はまさに「恐怖」に支配されているという感じだった。
そして、それはアメリアにしがみついている三つ編みの少女も同様で、彼女も春風達……いや、正確に言えばヘリアテスを見て、アメリアと同じように酷く怯えた表情を浮かべていた。
一方、春風達の方はというと、アメリアと三つ編みの少女を見て、
「ど、どうしよう。あの2人、凄く怖がってる」
と、レナがタラリと汗を流しながらそう言い、それに続くように、
「え、ええ……そうですね。まぁ、気持ちはわからなくもないですが……」
と、グラシアもコクリと頷きながらそう言った。
そして春風はというと、「どうしたもんかねぇ」と言わんばかりの表情を浮かべながら、
(困ったなぁ。あの人達にどう説明すればいいんだ?)
と、心の中でアメリア達への説明について悩んでいた。
そんな春風達を他所に、
「あ、アメリアお姉ちゃん、ニーナお姉ちゃん……!」
と、ピートがアメリア達のもとへと駆け寄ろうとしたその時、
「ちょっとごめんね」
と、ヘリアテスがそう謝罪しながら、ピートの1歩の前に出たので、
「め、女神様……!」
と、ピートは心配そうな表情を浮かべたが、ヘリアテスはチラッとピートの方を向くと、
「大丈夫」
と、穏やかな笑みを浮かべながらそう言ったので、その言葉に何かを感じたのか、ピートは無言でコクリと頷いた。
その後、ヘリアテスはアメリア達へと向き直ると、
「ね、姉さん!」
と、三つ編みの少女は「無限倉庫」のスキルを発動し、そこからハルバードを取り出すと、すぐにそれをアメリアに渡した。
そして、アメリアはハルバードを受け取ると、それを構えて、
「お、お前……一体、何者だ? あ、あっちの扉は一体何なんだ!?」
と、ヘリアテスに向かってそう尋ねた。
ただ、やはり怯えているのか、ハルバードを握る両手もブルブルと震えていたので、それを見た春風達は、
(あれ、落としそうなんだけど)
(落としそうだよね?)
(落としそうですね)
と、心配そうな表情を浮かべた。
そんな状況の中、ヘリアテスはハルバードを構えるアメリアを見てニコッと笑うと、
「こんばんは、可愛いお嬢さん達」
と、アメリア達に向かってそう言い、
「はじめまして、私の名前はヘリアテス。このエルードの『太陽』と『花』を司る女神……」
と、そう自己紹介すると、
「といっても、今は『悪しき邪神』なんて呼ばれてるけどね」
と、何処か悲しそうな笑みを浮かべながら、最後にそう付け加えた。
それを聞いた瞬間、
「ま、まさか……『邪神ヘリアテス』?」
と、アメリアが震えた声でそう呟くと、
「う、嘘だ!」
と、ブンブンと首を左右に振って、怒鳴るようにそう叫んだ。
そして、ヘリアテスに向かってハルバードを構え直したので、
「「ヘリアテス様!」」
「お母さん!」
「女神様!」
と、それを見た春風達が前に出ようとしたが、ヘリアテスは無言でスッと右手を上げて「待った」をかけた。
それを受けて、春風達がその場で立ち止まっていると、
「ど、どういうつもりだ!? そんな……そんな馬鹿みたいな話……!」
と、アメリアがハルバードを構えたまま、震えた声でそう尋ねてきたので、
「あれれぇ? 本当なんだけどなぁ」
と、ヘリアテスは「おかしいなぁ」と言わんばかりの表情でそう返事すると、
「だ……だって……『邪神ヘリアテス』と『邪神ループス』は、どちらも醜悪で悍ましい姿をしていると、教会でそう教わったんだ! なのに、お前みたいな幼い子供が『邪神』だと!? そんなの信じられるわけないだろ!?」
と、アメリアは震えた声でヘリアテスの話をそう否定した。よく見ると、体の震えも先程より酷くなっていたので、
(うん、この人よっぽど信じたくないんだなぁ)
と、春風は心の中でそう呟きながら、納得の表情を浮かべた。
そんな春風を他所に、
「その割には、随分と震えてるね。折角の武器も、今にも地面に落ちそうよ?」
と、ヘリアテスは挑発するかのようにそう言いながら、1歩、また1歩とアメリア達に近づくと、
「く、来るなぁ!」
と、アメリアはハルバードの穂先をヘリアテスに向けながらそう怒鳴ったが、
「……」
ヘリアテスは止まることなくアメリア達に近づいたので、
「来るな! 来るな来るな!」
と、アメリアは震えた声のまま更に怒鳴ると、持っているハルバードを振ろうとしたが、
(な、何で……何で手が動かない!?)
アメリアの意志に反して、ハルバードを握る両手……いや、もっと言えば両腕が動くことはなかった。
そうこうしているうちに、
「「は!」」
「ふふ」
ヘリアテスはアメリア達のすぐ目の前に着いたので、
「う、動け! 動けぇ!」
と、アメリアは再びハルバードを振ろうとしたが、それでも両腕が動くことはなく、
「はい、没収」
と、ヘリアテスはニコッとしながらそう言うと、アメリアの手から優しくハルバードを取り上げた。
それを見て、
「あ……」
と、アメリアはそう声をもらすと、その場に膝から崩れ落ちて、
(お、終わった……)
と、「絶望」に満ちたかのように顔を真っ青にしながら呆然としたので、
「ね、姉さん!」
と、それを見た三つ編みの少女はすぐにアメリアを抱き締めると、
「っ!」
と、体を震わせながらもキッとヘリアテスを睨みつけた。
それを見て、ヘリアテスは一瞬ポカンとなった後、すぐにまたニコッと笑って、アメリアと三つ編みの少女を優しく抱き締めた後、
「よしよし。ごめんね、怖がらせちゃって」
と、優しい口調でそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、アメリアと三つ編みの少女の体の震えが、嘘のように治った。
そして、
「「う……。うぅ……」」
と、2人は目から涙を浮かべると、
「「うえええええええん」」
と、ヘリアテスに抱かれた状態で、まるで幼い子供のように泣きじゃくった。
そんなアメリア達を見て、
『ふぅ。よかったぁ』
と、春風達はホッと胸を撫で下ろした。
だが、春風は知らなかった。
自分達が今いるその場所には、自分達だけじゃなく、自分達の目の前で繰り広げられてる光景を、ジッと見つめている存在がいることを。




