第193話 春風、「店」を手伝う・夜編
本日2本目の投稿です。
そして、今回もいつもより長めの話になります。
その日の夜、中立都市フロントラル内商業区、歓楽通り。
その通りにあるナンシーの店では、多くの男性客で賑わっていた。
彼女の店は昼間でも多くの人が訪れてくるが、夜になるとより大人向けの雰囲気へとガラリと変わり、従業員である女性達も、昼間はキチンとした制服を着ているが、夜になると訪れる客ーー主に男性を喜ばせる為の少々派手なドレスに身を包み、それぞれ客を不快にさせないよう丁寧な言葉使いで、彼らの相手をしていた。
そんな大人向けの雰囲気に満ちたナンシーの店で、
「いやっしゃいませ」
今、少年、雪村春風は働いている。
ただし……昼間とは違った服装で、だ。
(うぅ。まさか、異世界でもこの格好をすることになるなんて!)
何故、このようなことになっているのか?
その理由を説明する為に、時は昼間まで遡る。
それは、昼休憩中に起きたトラブルが終わってすぐのこと。
「頼む! このま、『夜』の方も店を手伝ってくれ!」
と、春風の肩をギュッと掴みながらそう言ったナンシー。
そんなナンシーの言葉を聞いて、
「……はい? 一体、何を……?」
と、春風がポカンとした表情でそう尋ねると、
「ちょおっとぉ! あんたいきなり何言ってんのぉ!?」
と、レナが鬼のような形相でナンシーに詰め寄ってきたので、それに春風が「うぉ!」と驚いていると、
「何って、この子にはこのまま『夜』の方も手伝いをお願いしてるんだが?」
と、ナンシーが「何言ってんの?」と言わんばかりの表情でそう答えた。
その答えを聞いて、春風が再び「は?」とポカンとした表情になり、レナが「んな!?」と驚きの声をあげていると、
「理由を聞いてもいいかい?」
と、真面目な表情をしたレベッカがそう尋ねてきたので、その質問を聞いたナンシーがコクリと頷くと、
「正直言うと、あたしも『何言ってんの?』とは思ってるよ。元々『昼』の間だけの約束だったしね。ましてやこの子、ハンターになったばかりだそうじゃないか」
と、レベッカ、レナ、そして春風を見ながら、申し訳なさそうな表情でそう言った。
その言葉を聞いて、春風が「ええ、そうですが……」と呟くと、
「だけどね、今日のこの子の働きぶりを見て、『昼だけでいいのか?』って疑問に思うくらいのいいものだったし、さっきのあいつらへの対処を見て、『これ、夜の方もお願いするべきじゃないか』って思えるくらいのいいものだって思ったさ」
と、ナンシーが春風を見ながらそう説明したので、それを聞いた女性従業員達も、皆、
『うん! 確かに!』
と、コクリと頷きながらそう言い、
「むぅ。確かにそうだけど……」
と、レナは何故か「納得いかん!」と言わんばかりに頬を膨らませた。
更に、
「おまけに、さっきの男共を前にしたこの子の堂々とした態度だけど、あれを見た瞬間思ったよ、『この子には相手を圧倒する何かがある』ってね」
と、ナンシーが続けてそう言ってきたので、
「ああ、それはあたしも思ったよ。そして、あいつらもそう感じたからこそ、この子の言葉に従ったんじゃないかとも思ったね」
と、レベッカも「うんうん」と頷きながらそう言った。
そんな2人の言葉を聞いて、
(ええ? そんな大袈裟な……)
と、春風はタラリと汗を流しながら、心の中でそう呟いていると、
「で、どうだい? 嫌なら嫌と言っても構わないが、出来ればこのまま『夜』の方も店を手伝ってほしいんだ。『夜』は昼間よりもガラの悪そうな来客が多く来てね、今日1日だけでいいから、うちの子達を守ってほしいんだ。勿論、その分の報酬は上乗せすると約束するから」
と、ナンシーが真剣な表情でそう言ってきたので、それを聞いた春風は目をパチクリとさせると、「ふぅ」とひと息入れて、
「……参りましたね。そこまで頼りにされると、断りづらくなってしまうじゃないですか」
と、呆れ顔でそう言うと、チラッとレナに視線を向けた。
その視線を受けて、レナも「ふぅ」とひと息入れると、
「いいよ。私も手伝わせてもらうね」
と、「しょうがないなぁ」と言わんばかりの困ったような笑みを浮かべながらそう言ったので、
「ごめん。そしてありがとう」
と、それを聞いた春風は、レナに向かって謝罪しながらお礼を言った後、
「わかりました。それでは『夜』の方も仕事を引き受けます」
と、ナンシーに向かって真面目な表情でそう言った。
その言葉を聞いて、
「ありがとう。助かるよ」
と、ナンシーがお礼を言うと、
「それじゃあ、ちょっと一緒に来てくれ」
と、春風の手を取りながらそう言ったので、
「え? 何ですか……?」
と、春風がそう尋ねると、それを無視して、
「悪いね、手伝ってほしいから、ちょっと2、3人ほど来てくれ」
と、ナンシーが従業員達に向かってそう言ったので、
「じゃ、じゃあ私が……」
「なら、私も……」
「私も行きます」
と、従業員の中から3人ほど「はい」と手を上げた。
そして、それを見たナンシーが、
「じゃ、ちょっと一緒に来てくれ」
と言うと、春風の手を引きながら、3人の従業員達と共に店の奥へと向かった。
奥には休憩室やトイレとは別にもう1つの扉があって、
「さ、ここだよ」
と、ナンシーがそう言うと、その扉を開けて春風と3人の従業員達と共に中へと入り、その後バタンと扉が閉まった。
その時だ。
「え、ちょっと待ってそこは……!」
と、ハッとあることに気付いたレナも、大慌てでその扉を開けようとすると、少しだけ扉が開かれて、そこからヒョコッとナンシーが顔を出すと、
「悪いね。ここから先は立ち入り禁止だよ」
と、レナに向かってそう言った後、中に戻って再びバタンと扉を閉めた。
それを見て、「え? え?」と困惑するレナとレベッカは、すぐにその扉に耳を近づけた。
すると、
「……ちょっと待って! これを着ろと!?」
「ああ、そうさ。あたしにはわかる。あんたなら、きっとそいつを着こなせるってね」
「いやいやいや! ありえませんから!」
「頼む! さっきも言ったけど報酬は上乗せするから!」
「いやいやいや! 幾らなんでもこれは困りますって……!」
「ええい、覚悟を決めな! あんた達、ちょっと手伝って!」
「「「は、はい! わかりました!」」」
「え! ま、待って! あああああれぇえええええ!」
と、扉の向こうからそんなやり取りをしている声が聞こえたので、
(え、えぇ!? 何!? 何が起ころうとしているの!?)
と、気になったレナは扉を開けようとしたが、
「あれ!? なんで開かないの!?」
と、幾らドアノブを動かしても扉が開かなかったので、
「こりゃ、出てくるのを待つしかないね」
と、レベッカにそう言われてしまい、レナは仕方なく春風達を待つことにした。
そして、それから暫くすると、扉がガチャリと開かれて、
「お待たせぇ!」
と、その向こうから何故か「やりきった!」と言わんばかりのスッキリした表情のレベッカと3人の従業員達が出てきたので、
「あ、あの……春風は?」
と、レナが恐る恐る尋ねると、ナンシーは「ん?」と首を傾げた後、
「おーい、出ておいでぇ!」
と、扉の向こうに向かってそう叫んだので、それにレナとレベッカが「え?」と首を傾げていると、扉がギィッとゆっくりと開かれて、そこから真っ赤なドレスに身を包んだ1人の美少女が現れた。
何故「美少女」と表記したかというと、その姿があまりにも美しかったからだ。
突然目の前に現れたそんな美少女の姿に、レナとレベッカ、そして他の従業員達が「ほう……」と見惚れていると、
「……って、ちょっと待って! 春風は!?」
と、ハッとなったレナがナンシーに向かってそう尋ねたので、それにナンシーが「ふふふ」と笑うと、
「ちゃんと目の前にいるじゃないか」
と、真っ赤なドレス姿の少女を見ながらそう答えたので、
『え、まさか!?』
と、レナとレベッカ、他の従業員達が一斉にその美少女を見ると、
「……はい、俺が春風です」
と、真っ赤なドレス姿の美少女……否、春風がそう答えたので、
『えええええええっ!?』
と、レナ、レベッカ、そして他の従業員達は大きく目を見開きながら、驚きに満ちた叫びをあげた。




