第182話 「国王」と「皇帝」の話し合い
その夜、ルーセンティア王国王城内、ウィルフレッドの自室。
そこでは今、部屋の主人であるウィルフレッドが、ベッドの上に腰掛けいた。
目を閉じた状態でゆっくりと深呼吸するウィルフレッド。
その後、ゆっくりと目を開けて、
「……よし」
と呟くと、スッとベッドから立ち上がって、部屋の壁際に置かれていた大鏡型魔導具の前に立って、それについている青い宝石に手を触れた。
次の瞬間、鏡が眩く光り出して、その光が弱まると、そこにはウィルフレッドの代わりに、ストロザイア帝国皇帝ヴィンセントの姿が映り出した。
「やあ、ヴィンス」
と、ウィルフレッドが鏡に映ったヴィンセントに向かってそう挨拶すると、
「おう、待ってたぜウィルフ」
と、鏡に映ったヴィンセントがそう挨拶を返した。
それから2人は、ヴィンセントの娘であるアデレードから送られてきた「映像記録用魔導具」に保存されていた、「雪村春風の記録」について話し合った。
「……そうか、ヴィンスも春風殿が『固有職保持者』だと確信したんだな」
「ああ、俺は間違いないと思ってる」
と、映像の春風について2人がそう言い合うと、
「それで、水音殿が彼と決闘するということでいいんだな?」
と、ウィルフレッドがヴィンセントに向かってそう尋ねてきたので、
「おう、明日から本格的にアイツを鍛える予定だ。ああ勿論、進達も一緒にな」
と、ヴィンセントは「はっはっは!」と笑いながらそう答えた。
その答えを聞いて、ウィルフレッドが「そうか……」と呟くと、
「で、そっちは5人の『勇者』とイヴりんがフロントラルに行くことが決まったんだよな?」
と、今度はヴィンセントがそう尋ねてきたので、
「ああ……」
と、ウィルフレッドはそう返事したが、
「じ、実は……そのことでヴィンスに相談したいことがあるんだ」
と、ちょっと気まずそうな表情で、ヴィンセントに向かってそう言った。
その言葉を聞いて、
「ん? どうしたんだウィルフ?」
と、ヴィンセントが首を傾げながらそう尋ねると、ウィルフレッドは気まずそうな表情のまま、フロントラルに行くことが決まったことで浮かび上がった「問題」について、ヴィンセントに説明した。
「……なるほど、ソイツは確かに問題だな」
と、説明を聞き終えたヴィンセントが、「うーん」と腕を組みながらそう呟くと、
「こちらとしても、出来るだけ短い日数で向こうに着きたいのだが、その間に彼が出ていってしまったらと考えると……」
と、ウィルフレッドは困ったような表情を浮かべながらそう言ったので、
「そうだな。俺も、水音が「完成」するまで、雪村春風にはフロントラルに留まってほしいと思ってるんだ。ま、その辺りについては、向こうで暮らしてるアーデに頼むしかないだろう」
と、ヴィンセントはそう言うと、最後に「ふぅ」とひと息入れた。
その後、
「ところでヴィンス、アデレード殿の様子はどうだろうか?」
と、ウィルフレッドは再びヴィンセントに向かってそう尋ねてきたので、
「ああ? 『様子はどう?』って?」
と、ヴィンセントがそう尋ね返すと、
「映像を見たが……アデレード殿、春風殿に敗れて落ち込んでいるのではないかと、妻と娘達が心配しているのでな」
と、ウィルフレッドはヴィンセントの質問に対してそう答えた。
その答えを聞いて、ヴィンセントが「え?」と声をもらすと、
「あっはっは! 何だよそんなことか!」
と、ヴィンセントが急に笑い出したので、
「い、いや『そんなこと』とはなんだ。娘が敗北したのだぞ?」
と、ウィルフレッドはムッとしながらそう言った。
その言葉に対して、どうにか笑い終えたヴィンセントが「すまんすまん」と軽い感じで謝罪すると、
「心配してくれる気持ちはありがてぇが、アーデはその程度で落ち込むほどヤワじゃねぇよ。寧ろ、逆に雪村春風のこと大変気に入ったみたいでな、俺が『奴を帝国に迎え入れたい』と言ったら、『大賛成!』と即答しやがったわ」
と、ニヤッとしながらそう言った。
その言葉を聞いて、ウィルフレッドが「そ、そうか……」と呟くと、ヴィンセントはスッと真面目な表情になって、
「話は戻すが……ウィルフ、そっちは短い日数でフロントラルに着きたいんだな?」
と、ウィルフレッドに向かって確認するかのようにそう尋ねると、
「ああ、そうだヴィンス。その為に、『魔導飛空船』を貸してほしいのだが、駄目だろうか?」
と、ウィルフレッドもヴィンセントと同じように真面目な表情でそうお願いした。
そのお願いを聞いて、ヴィンセントが「はぁ」と溜め息を吐くと、
「そうしてぇのは山々だが、あれは今整備中でな、再び動かせるのはかなり先になっちまうんだわ」
と、「いやぁ残念」と言わんばかりの少し暗い表情でそう言ったので、それを聞いたウィルフレッドも、
「そ、そうか……」
と、表情を暗くした。
だが、
「おいおい、落ち込むのはまだ早いぜ」
と、急に表情を明るくしたヴィンセントがそう口を開いたので、それにウィルフレッドが「む?」と反応すると、
「誰が魔導飛空船が、あれ1隻だけだと言ったよ?」
と、ヴィンセントはニヤリとしながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「な、なんだと? では……!」
と、ウィルフレッドも表情を明るくしたので、
「おう、もう少しで第2号が完成するんだ。因みに、もうテスト飛行は済ませてあるからな」
と、ヴィンセントはグッと親指を立てながらそう言った。
その言葉を聞いて、ウィルフレッドがホッと胸を撫で下ろすと、
「おっと、安心するのはまだ早いぜ」
と、ヴィンセントはスッと右手を上げて、ウィルフレッドに向かって「待った!」をかけてきたので、
「む、ど、どうしたヴィンス?」
と、ウィルフレッドが驚いた表情を浮かべながらそう尋ねると、
「確か、イヴりんと勇者5人、それと騎士数人の他にも、5神教会の連中の中から数人ほどついてくるんだったな?」
と、ヴィンセントがそう尋ね返してきたので、
「ああ、その通りだ。それが、『勇者達を外へと出す条件』だそうだ」
と、ウィルフレッドはコクリと頷きながらそう答えた。
その答えを聞いて、ヴィンセントが「そうか」と呟くと、
「ちくしょう! 連中がいると面倒なんだよなぁ……」
と、この場にいない五神教会の人間達に向かってそう怒りをあらわにし、それに同意するかのように、
「ああ。本当に、面倒な連中だよ」
と、ウィルフレッドも表情にこそ出さなかったが、ヴィンセントと同じようにこの場にいない五神教会の人間達に向かって怒りをあらわにした。
それから間もなくして、
「あ、そうだ!」
と、ヴィンセントが急に何か閃いたかのようにそう言うと、
「なぁウィルフ、こんなのはどうだ?」
と、ウィルフレッドに向かって、ヴィンセントは自身が考えた、とある「作戦」を説明した。




