第170話 みんなで「記録」を見る・6
今回は、いつもより少し長めの話になります。
その後も水音達は、映像の春風と映像のレナが「仕事」をしている記録映像を見続けた。
映像のレナと同行している映像のアデレードが薬草を食べようと現れたジャベリン・ラビットを討伐し、その隙に映像の春風が薬草を採取する。
そして、その最中に遭遇した魔物に至っては、映像の春風も戦いに参加して、レナとアデレードの前でその「剣技」を披露していった。
そんな映像の春風の戦い振りを見て、
「す、すっげぇ」
「う、うん」
「ゆ、雪村君って、あんなに強かったの?」
と、進、耕、祭はタラリと汗を流しながら言うと、
「ああ。アデレードからの報告によると、詳しい数値は教えてくれなかったが、この時点では雪村春風のレベルは10を超えていたという」
と、それに返事するかのようにヴィンセントがそう言ったので、
『じゅ、10!?』
と、水音ら勇者達はショックで目を大きく見開いた。
ヴィンセントの言葉に、
(ど、どうしよう。僕……いや近道君達もだけど、まだレベル1なのに……)
と、水音がサーッと顔を真っ青にしたが、そんな水音を他所に、
「父上。彼の戦い振りからして、これは間違いなく実戦を経験してるでしょう」
「そうだな。まだ荒い部分があるが、間違いないだろう」
「そうですね父様。しかも、どの魔物も最後は首を斬り落としています。恐らくはスキルの助けもあるでしょうが、戦闘技術は高い方だと思います」
「そうねぇ。そして、どんな魔物を相手にしても臆することなく立ち向かってるからぁ、その辺りの恐怖もないでしょうねぇ」
と、皇族達は映像の春風の戦いを冷静に分析していた。
その後、映像の春風達がかなり大きな木の根本に近づくと、そこで食事の準備を始めた。
映像の春風とレナが、それぞれ腰のポーチから食材や道具などを取り出していく姿を見て、
「あれ!? なんかあのポーチ凄くない!?」
「うん、そうだね! なんかずるいと思う!」
『うんうん!』
と、水音達が羨ましそうな表情を浮かべて、
「うーん。俺達も知らない魔導具の類だろうか?」
「となると、是非ともうちに招待したいわねぇ」
と、ヴィンセントとキャロラインが好奇心に満ちた表情になった。
それから食事が終わり、いざフロントラルへと戻ろうとしたまさにその時、遠くから「ギャア!」「イヤァ!」と男女のものと思わしき悲鳴が聞こえたので、
「うわ!」
「な、何、今の悲鳴!?」
と、水音と祭がギョッと目を大きく見開いた。
そして、悲鳴を聞いた映像の春風達がその場から駆け出したので、それに合わせて景色も動き出した。
その後、3人がとある木の傍でジッとし出したので、水音達が「何だろう?」と彼らの視線の先を見ると、そこには血溜まりに沈んだ男性と、その傍で恐怖に震える男女、そして、そんな彼らを睨み付ける、不気味な赤いオーラのようなものを纏った真っ赤な両目の大きな熊がいたので、
「あいつは……『バトル・ベア』か!」
「ええ! しかも、『血濡れの両目』化しています!」
と、ヴィンセントとレオナルドがそう声をあげた。
そんな2人の声にビクッとなったのか、
「ゔぃ、ヴィンセント陛下……何かご存じなのですか?」
と、水音が恐る恐るヴィンセントに向かってそう尋ねると、
「ああ、奴の名は『バトル・ベア』。かなり高い戦闘力を誇る熊型の魔物だ。そして今、奴は『血濡れの両目』化という、謂わゆる凶暴化状態に陥っている」
と、ヴィンセントは目の前の熊……否、熊型の魔物「バトル・ベア」に視線を向けたままそう答えた。そして、彼の口から出た「血濡れの両目」という単語を聞いて、
「ねぇ。『血濡れの両目』って、確か……」
「ああ。座学で習った……」
と、祭と絆が小声でそう話し合ってたので、
(あ、そういえば……)
と、水音もその時のことを思い出し始めた。
そう、実は水音ら勇者達がまだルーセンティア王国で暮らしていた頃、午前の座学で様々な特徴を持った魔物と、その魔物が凶暴化したものである「血濡れの両目」についても習っていたのだ。
ただ、映像とはいえ、こうして実際にその「血濡れの両目」化した魔物を見たのは初めてなのだが。
まぁそれはさておき、それからすぐに映像のアデレードが自ら囮となって「血濡れの両目」化したバトル・ベアをその場から引き離し、その隙をついて映像の春風とレナが、3人の男女のもとへと駆け出した。
その後……。
ーー傷口を見ますので、ひっくり返すの手伝ってください。
と、映像の春風がそう口を開いたので、それを聞いた男性が「わかった」と返事すると、共に重症を負っているもう1人の男性をゆっくりとひっくり返した。当然、それに合わせるかのように映像も動き出した。
傷はかなり深いようで、そこからドクドクと流れている真っ赤な血を見て、
『うぅ!』
と、水音ら勇者達は思わず目を背けた。特に祈は気分が悪くなったのか、今にも吐きそうなくらい顔色を悪くし出したので、
「い、祈、大丈夫か!?」
と、それに気付いた絆がそう尋ねると、
「だ、大丈夫……」
と、祈は必死になって吐き気を抑えながらそう返事し、その後、再び重症を負った男性に視線を向けたので、
(時雨さん……)
と、水音も祈を心配しつつも、彼女と同じように重症を負った男性に視線を向けた。
すると、映像の春風が重症を負った男性の傷口に自身の左手を翳したので、
(ん? 春風、何をする気……?)
と、それを見た水音が首を傾げていると……。
ーー「ウインドヒール」!
と呟いたので、
「何だと!?」
と、それを聞いたヴィンセントが大きく目を見開いた、次の瞬間、映像の春風の左腕に装着された銀の籠手が緑色に光り出し、その後、重症を負った男性の傷がスーッと治っていったのだ。
その様子を見て、
「え!? 雪村君、今何を……!?」
と、耕が驚くと、
「今のは『ウインドヒール』。風属性の回復魔術だ」
と、ヴィンセントが春風に視線を向けたままそう答えたので、
「え!? それって、春風が魔術を使ったってことですか!?」
と、驚いた水音がそう尋ねると、ヴィンセントは「ああ」と返事したが、
「だが、ここまでの奴の戦い方を見た限りじゃあ、魔物共を倒した時の剣技は、先程エレクトラが言ったように恐らく『剣術』のスキルの助けがあったのだろう。しかし通常、『戦士』や『剣士』といった前衛系戦闘職能は『魔術』覚えねぇし、逆に『魔術師』や『神官』といった後衛術師系職能も『剣術』のスキルは覚えねぇんだ」
と、ヴィンセントはまだ映像の春風に視線を向けたままそう答えた。よく見ると、頬をツーッと汗が流れているのが見えた。
そんなヴィンセントに向かって、
「父上、つまり彼は……!」
と、レオナルドがそう口を開くと、
「ああ、間違いねぇ……」
と、ヴィンセントはニヤッとしながら、
「雪村春風は、『固有職保持者』だ!」
と、まるで確信したかのようにそう言った。




