第152話 アーデからの挑戦
「春風には、私と戦ってもらう。ただし、今度は『手合わせ』じゃない。本気でかかってきて」
と、小闘技台の上で、春風に向かってそう言ったアーデ。
そんなアーデの言葉に対して、
(この人は、何を言ってるんだろう?)
春風は「えぇ?」と本気で嫌そうな顔をしながらそう疑問に思ったが、すぐに表情を真面目なものに変えて、ゆっくりと深呼吸すると、
「ちょっと待ってくださいアーデさん。どうして俺があなたと戦わなくちゃいけないんですか?」
と、アーデに向かって落ち着いた口調でそう尋ねた。
そんな春風の質問に、アーデは「むむ?」と双剣の片方の切先を春風に向けた状態で答える。
「私が戦いたいから。それじゃ駄目?」
と、逆に尋ねる形でそう答えたアーデに、
(え、何その戦鬪狂っぽい理由は?)
と、春風は思わず遠い目をしながら後ろに仰け反りそうになった。
するとその時、
「ちょおっとぉおおおおお!」
「っ!」
という怒声が聞こえたので、それに驚いた春風は「おっとっと!」とその場に踏ん張って体勢を整えた後、すぐにその声がした方へと振り向いた。
(あ、レナ)
そこには鼻を「フン!」と鳴らした鬼のような形相のレナがいて、その傍にはハンターギルド総本部長のフレデリック、そして、エリック、ステラ、イアンの3人もいた。
レナ達の存在にポカンとなっている春風を他所に、
「アーデさん! アンタ、何ふざけたこと言ってんのぉ!?」
と、レナが更に「フン!」と鼻を鳴らしながら、アーデに向かってそう怒鳴るようにそう尋ねると、
「ふざけてない、私はこの通り本気。そして、誰にも私の邪魔はさせない。もし邪魔しようものなら……」
と、アーデは恐ろしく真面目な表情でそう返事した後、
「私は一切容赦はしない。たとえ『神』であろうと」
と、もう片方の剣の切先をレナに向けながらそう言ったので、その言葉にレナだけでなくエリック達までもが「うぅ!」とタラリと汗を流し、
(や、やばい。アーデさんは本気だ!)
と、春風はアーデが冗談ではなく本気で自分に勝負を挑んできたのだと理解して、ゴクリと唾を飲むと、
「あ、あの、アーデさん」
と、恐る恐るアーデに声をかけた。
それにアーデが「何?」と返事すると、
「お、俺なんかと戦ったところで、アーデさんに何のメリットもない思うんですが?」
と、春風は恐る恐るな感じでアーデに向かって再びそう尋ねたが、
「それを決めるのは私であって春風じゃない」
と、アーデにハッキリとそう言われてしまい、
「ええ? そんなにハッキリ言わんでも……」
と、春風は「マジかよ」と言わんばかりにショックを受けた。
その時だ。
「お、おい、何だ何だ?」
「何が始まるの?」
という複数の声がしたので、その声に気付いた春風は思わず「ん?」と声がした方へと振り向くと、何やら大勢の人達が続々と小闘技場内に入ってきたので、
(げげ! な、なんかいっぱい来てるんだけど!?)
と、春風は大きく目を見開きながら、心の中でそう驚きに満ちた叫びをあげた。
そして、そんな春風を前に、アーデも小闘技場内に入ってきた人達を見ると、
「さぁ、これでもう逃げられないよ?」
と、ニヤッとしながら春風に向かってそう言ったので、
「そ、そのようですねぇ」
と、春風は「はは……」と苦笑いした。
レナやフレデリックをはじめとした大勢の人達に見守られる中、
(こ、困ったなぁ。俺、結構疲れてるんだけど……いや、それは向こうも同じ……か?)
と、春風が目の前にいる双剣を構えたアーデを見つめながらそう疑問思ったが、
「……」
アーデは真っ直ぐ春風を見つめた状態のままだったので、
(う、うーん表情が読めない。どうすりゃいいんだ、これ?)
と、春風がタラリと汗を流していると、
ーートクン。
(……ん?)
突然、腰のケースにしまった夜羽からそんな音が聞こえたので、春風は「何だろう?」と思って夜羽をケースから引き抜き抜いた。
その様子を見て、
「ん? それって、扇?」
と、アーデが首を傾げて、
「ほほう、扇ですか。珍しいものを持ってますね」
と、フレデリックは珍しいものを見るかのような表情になり、その他にも、
「え、何?」
「何だ? 棒か?」
「え? 扇よね?」
「あいつ、何で扇なんか?」
と、周囲からもそんな疑問の声が上がったが、それら全てを無視して、春風が夜羽をジッと見つめていると、
ーートクン。
と、夜羽からそんな音が聞こえたと同時に、
ーー春風。彼女に応えて。
と、頭の中でそんな声が聞こえたような気がした春風は、
「はぁ。本当は嫌だけど、仕方ないか」
と、溜め息を吐きながら、ボソリとそう呟いた。
その言葉にアーデが「え?」と反応する中、春風は左手で夜羽を握り、
「いくよ、夜羽」
と言って、ゆっくりと目を閉じた。
次の瞬間、夜羽が緑色に輝き出し、小闘技場内に風が吹いてきた。
「キャア!」
「な、何だ何だ!?」
と、突然のことに周囲の人達が驚く中、吹いてきた風が夜羽に集まっていった。
そして、春風はゆっくりと目を開けると、
「フッ!」
と、風を集めた緑色に輝く夜羽をブンっと振った。
すると、それまで漆黒の扇だった夜羽は、緑色の刀身を持つ小振りの剣へと姿を変えた。
突然の出来事に、
「え? 扇が……剣になった?」
と、アーデが目を大きく見開き、
「え、えぇ!?」
「おい何だ!?」
「あいつ、いつの間に剣を!?」
と、周囲の人達が驚きの声をあげる中、
「……あれ? 昨日見たやつと違う?」
と、レナはボソリとそう呟いたが、その声に気付いた者はいなかった。
そんなレナ達を他所に、春風は空いた右手で翼丸を握り、鞘から引き抜くと、
「それじゃあ、遠慮なくいかせてもらいますね」
と、その切先をアーデに向けながらそう言った。
その言葉を聞いて、周りの人達がゴクリと唾を飲んでいると、
「ふむ、どうやらお互い準備は整ったようですね」
と、落ち着いた表情をしたフレデリックがそう呟いた。
その後、フレデリックは小闘技台に上がると、2人の間に立って、
「それではお二方、用意はいいですか?」
と、交互に見ながらそう尋ねたので、その質問を聞いて、
「はい」
「勿論です」
と、春風もアーデもコクリと頷きながらそう返事した。
それを聞いて、フレデリックが「そうですか」と呟くと、そそくさと小闘技台から降りた。
そして、春風とアーデがお互い武器を構えながら睨み合う中、フレデリックは再び春風とアーデを交互に見て、
「それでは……」
と言うと、自身の右腕をゆっくりと振り上げて、
「始め!」
と叫びながら、勢いよく振り下ろすと、
「「っ」」
と、2人は同時に動き、持っている武器を思いっきり振るった。




