第108話 出発前夜
こうして、なんやかんやあったが、水音、進、耕、祭、絆、祈の6人が、ストロザイア帝国に行くことが決まった。
因みに、いつ出発するのかというと、ヴィンセント曰く、
「勿論、明日だ」
『早っ!』
「こういうのは早い方がいいんだよ」
とのことで、あまりの展開に水音達は「ま、マジですか……」唖然となった。
その後、水音達はそれぞれ城の大浴場でその日の疲れをとった。その最中、
「俺も入るぞ!」
と、ヴィンセントが乱入してきたので、皇帝である彼に対して「勇者」とはいえ元はただの一般市民である水音達は激しく緊張しだした。
だがその後、
「私も入るぞ!」
と、何故かエレクトラまで乱入してきたので、
『わぁあああああ!』
と、水音達は悲鳴をあげたが、
「何をやってるのこのお馬鹿!」
と、クラリッサが止めに入ってくれたので、
(あ、ありがとうございますクラリッサ様)
と、皆、クラリッサに感謝した。
入浴が終わると、水音達はヴィンセント、エレクトラと夕食を共にした。皇帝、皇女も一緒であると同時に2人と共にストロザイア帝国に発つ前夜ということで、その日の夕食はかなり豪勢なものとなり、水音達はかなり緊張しつつも、どうにかその場を楽しむことにした。
そして、その日の夜。
「あああああ。もの凄く疲れたぁ」
と、水音は自室に入った途端ベッドにダイブし、そのまま枕に顔を埋めると、
(……まさか、こんな展開を迎えるなんてなぁ)
と、今日あった出来事を思い出して、ゆっくりと仰向けになった。
その時だ。
ーーコンコン。
と、部屋の扉が叩かれたので、水音は「ん?」と反応した後、
「はーい」
と返事すると、
「あ、あの、時雨です」
と、扉の向こうから祈の声がしたので、
(え? 時雨さん?)
と、水音はすぐにベッドから降りると、部屋の扉を開けた。
扉を開けると、そこには緊張した様子の祈がいたので、
「ど、どうしたんですか時雨さん?」
と、水音が恐る恐るそう尋ねると、
「あ、あの……今日のこと、ですけど……」
と、祈は緊張した表情のままそう返事したので、
「え? 『今日のこと』って……?」
と、水音は首を傾げながら重ねてそう尋ねた。
その質問に対して、祈は「う……」となったが、
「そ、その……私と、マーちゃんにキーちゃん、それに、近道君と、遠畑君が、一緒に行くって……」
と、緊張しつつもそう答えたので、
「あ、ああ、そのことですか……」
と、水音は今思い出したかのような表情になると、祈は申し訳なさそうに、
「め、迷惑じゃ……ありませんでした?」
と尋ねてきた。
その質問を聞いた水音は「え?」となったが、
「……全然、迷惑じゃないですよ。寧ろ、自分から『行く』って言い出しておいてなんでしたけど、結構不安でしたから、凄くありがたいって思ってました」
と、申し訳なさを滲ませた笑顔でそう答えたので、
「そ、そうですか……」
と、祈がパァッと表情を明るくすると、水音は何処か肩の荷が降りたかのように「ふふ……」と笑って、
「改めて、よろしくお願いします」
と、祈に向かって深々と頭を下げながらそう言い、それを聞いた祈は「ふえ!?」と驚き、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」
と、水音に向かって深々と頭を下げた。
そして、そんな2人の様子を、
「ぐぬぬ、あの2人、何やらいい雰囲気みたいだな……」
と、少し離れた位置でエレクトラが何故か恨めしそうに見つめていた。
一方その頃、王城内のとある1室では、
「……じゃ、そういうことで、よろしくな」
と、ヴィンセントが手に持っている鏡に向かってそう言い、その鏡から、
「はい、わかりました」
と、何やら若い女性のものと思われる声がした。
その後、ヴィンセントはその鏡を部屋に備え付けられたテーブルに置くと、
「アーデとの話はついたぜ、ウィルフ」
と、部屋に備え付けられた椅子に座るウィルフレッドに向かってそう言い、
「そうか」
と、ウィルフレッドは少し弱々しそうな笑みを浮かべながらそう返事した。
そう、ここは王城内にあるヴィンセントの為に用意された部屋で、現在、部屋の中にはヴィンセントとウィルフレッドの2人だけだ。
「はー、しっかし、今日は色々とあったなぁ」
と、ヴィンセントが空いているもう1つの椅子に座りながらそう言うと、
「ああ、そうだな」
と、ウィルフレッドは何故か表情を暗くしながらそう返事したので、
「ん? どしたウィルフ?」
と、気になったヴィンセントがそう尋ねると、
「……ヴィンス。彼女のこと、覚えてるか?」
と、ウィルフレッドが暗い表情のままそう尋ね返してきたので、
「お、おいおい、いきなりなんだ? 俺らお互い既婚者だぞ?」
と、その質問を聞いたヴィンセントは驚きながらそう返事した。
しかし、ウィルフレッドは表情を変えることなく、
「……」
と、無言でジッとヴィンセントを見つめてきたので、その視線を受けたヴィンセントは真面目な表情になると、
「ウィルフレッド。お前、昼間少し様子がおかしかったな」
と、ウィルフレッドをニックネームではなく本名で呼びながらそう言った。
その言葉にウィルフレッドは顔を下に向けたが、すぐにゆっくりと顔を上げながら、
「春風殿についての話の最中、彼女の顔が浮かび上がった」
と、口を開き、
「ヴィンセント、覚えてるだろ? 17年前、俺達が聞いた『本当の予言』を。そして、その予言を遺して殺された彼女ーーグラシア・ブルームを」
と、ヴィンセントに向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、ヴィンセントも表情を暗くすると、
「……忘れるもんかよ。あの日のことをよ」
と、ウィルフレッドに向かってそう答えたので、
「そうだな。忘れられる訳がない」
と、更に表情を暗くしながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「雪村春風の話の中でそれを思い出すっつうことは、お前……」
と、ヴィンセントが何かに気付いたかのようにそう言うと、
「ああ。もしかすると、俺達ルーセンティア王国は、許されない過ちを犯したのかもしれない」
と、ウィルフレッドはコクリと頷きながらそう言い、
「そして、あの予言が正しければ……ルーセンティア王国……いや、この世界の歴史は、俺の代で終わるだろう」
と、最後に拳をグッと握り締めながらそう付け加えた。
そんな様子のウィルフレッドを見て、ヴィンセントが「はぁ」と溜め息を吐くと、スッと椅子から立ち上がってウィルフレッドに近づき、
「しっかりしろ親友!」
と、ウィルフレッドの背中バンッと叩きながら言って、
「お前がそんな様子じゃあ、お前の家族はおろか、臣下や国民、そして、お前が巻き込んだ勇者達が不安になるだろが!」
と、叱った。
それを受けて、ウィルフレッドが「あ……」と呆然としていると、
「それによ、もしもの時の為に、この俺がいるじゃねぇかよ。な?」
と、ヴィンセントがニヤリとしながらそう尋ねてきたので、
「……そうだな。頼りにしてるよ、親友」
と、ウィルフレッドは「はは」と小さく笑いながらそう返事した。
次回、今章最終話(予定)です。




