第105話 水音、決意する
そして、時は現在に戻る。
「話は聞きましたよぉ! そして、酷いじゃないですか父様ぁ!」
と、謁見の間の玉座近くの扉がバァンと乱暴に開かれ、その向こうから現れたエレクトラ。
そんな彼女の怒鳴り声を聞いて、
「え、エレン!? お前、もう復活したのか!?」
と、ヴィンセントがギョッと目を大きく目を見開きながらそう尋ねると、
「ええ、ここの回復魔術のおかげで、見事復活しましたよ!」
と、エレクトラは「ふふん!」とドヤ顔でそう答えたので、
「ちぇ。もうちょっと気を失ってくれれば可愛いものを……」
と、ヴィンセントは小声でおよそ父親とは思えないセリフを吐いた。当然、そのセリフは近くにいた人達には聞こえたので、
『おいおい……』
と、皆、呆れ顔になった。
しかし、そんなヴィンセントを無視して、
「そんなことより父様! 私達抜きで楽しい話し合いとは酷いではありませんか!」
と、エレクトラがそう怒鳴ってきたので、
「あん? 『楽しい話し合い』ってお前……」
と、ヴィンセントがそう反応したが、すぐに「ん?」となって、
「……あれ? おかしいな。ここの話は外に漏れないようにしてたんだが?」
と、「どうなってんだ?」と言わんばかりに首を傾げると、
「まったく! ここに着いたら何故か扉が開かなくて、何やら不自然だなと思って調べてみたら、案の定『結界』が張られてたとは!」
と、エレクトラはそう言うと、「私は悲しいです」と言わんばかりに「ヨヨヨ……」と嘘泣きをし始めたので、
「あ、やっぱちゃんと結界張れてるよなぁ」
と、ヴィンセントはそう呟いたが、再び「ん?」となって、
「ちょっと待て。じゃあ、なんで話をしてるのがわかったんだ? ここで話し合ったことは外の連中には聞こえない筈なんだが……」
と、エレクトラに向かってそう尋ねると、
「それはですねぇ……」
と、エレクトラはそう言うと、自身の懐に手を入れて、そこから掌サイズの小さな鏡のようなものを取り出し、
「これを使ったのです!」
と、ヴィンセントに見せつけるようにそれを差し出した。
その小さな鏡のようなものを見て、
(ん? 何だあれ……?)
と、水音が首を傾げていると、
「げげ! そ、それは……!」
と、ヴィンセントがちょっと大袈裟な感じに驚いていたので、
「え? ヴィンセント皇帝陛下、何か知ってるのですか?」
と、爽子が恐る恐るそう尋ねると、
「あ、あれは、ストロザイア帝国で開発された、『試作型対結界用魔導具』。使用者が自身の魔力を流すことによって、結界内の様子を見たり、そこでの会話を聞き取ることが出来るんだ。まさか、エレンがそれを持っていたとは!」
と、ヴィンセントは驚きに満ちた表情のまま、エレクトラが持つその小さな鏡のようなものについてそう説明した。
その説明の後、エレクトラは「ふっふっふ……」と笑うと、
「そうです! これを使ってここの会話をずっと見て、聞かせてもらいましたよ!」
と、自身の腰にその「試作型対結界用魔導具」を持つ手とは反対の手をあてながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「ぐぬぬ、エレン! ストロザイア帝国の皇女でありながら覗き見や盗聴なんてはしたないことするんじゃあない! お父さんは悲しいぞ!」
と、ヴィンセントはエレクトラに向かってそう叱った。
そんな彼の言葉に、
『おお、ヴィンセント皇帝陛下が、お父さんのようなセリフを!』
と、爽子ら勇者達は感心したが、
「いやいや、勇者達よ。ヴィンスは本当に『お父さん』なんだからな」
と、ウィルフレッドにそうツッコミを入れられてしまった。
すると、
「いやいや父様、皇帝でありながら日頃からはしたない行いをしてきたあなたに言われたくはありません」
などとエレクトラ言われてしまい、
「ぐっはぁ!」
と、ヴィンセントはショックでその場に膝から崩れ落ちてしまった。
それを見て、
(え、この人普段から何をしてるんだ?)
と、爽子ら勇者達は、まるで別の生き物を見るかのような視線をヴィンセントに向けて、
「「はぁ、まったく……」」
と、ウィルフレッドとマーガレットは手で顔を覆いながらそう呟いた。
ところが、
「……ん?」
と、ウィルフレッドが何かに気付いたかのような表情でそう声をもらすと、
「ちょっと待ってくれエレクトラ」
と、エレクトラに向かってそう声をかけたので、
「む? 何でしょうかウィルフ様?」
と、エレクトラはウィルフレッドをニックネームじみた呼び名を言いながらそう返事すると、
「さ、先程其方は、『私達』と申したな? まさか……」
と、ウィルフレッドは恐る恐るそう尋ねたので、
「ああ、勿論……」
と、エレクトラはそう返事すると、自身の背後に視線を向けた。そして、それにに続くように、ウィルフレッドとマーガレットも、エレクトラの背後に視線を向けると、
「「……」」
そこには、暗い表情を浮かべた2人の娘、クラリッサとイヴリーヌがいたので、
「く、クラリッサ……」
「イヴリーヌ……」
と、ウィルフレッドとマーガレットは顔を真っ青にした。当然、
(ま、まずい……)
と、爽子ら勇者達も、ウィルフレッドとマーガレットと同じように顔を真っ青にした。
その後、
「え、エレクトラよ。因みにだが、何処から話を聞いていたのだ?」
と、ウィルフレッドがエレクトラに向かってそう尋ねると、エレクトラは「そうですねぇ……」と呟いて、
「其方の桜庭水音の先祖あたりから、もう1人の異世界人『雪村春風』について、更にはその『雪村春風』と戦う為に父様から『ストロザイア帝国に来ないか?』と誘われた……といったところでしょうか?」
と、ウィルフレッドに向かってそう答えると、最後に「まぁこんなところですね」と付け加えたので、
『ほぼ全部やないかぁあああああい!』
と、水音は勿論、爽子ら勇者達も、エレクトラに向かってそうツッコミを入れた。
そんな彼らを前に、
「はっはっは、安心しろ! 私はこれでも口は硬い方なんだ!」
と、エレクトラは腰に手をあてた状態のまま、豪快に笑いながらそう言ったが、
「さて、桜庭水音」
と、すぐに真面目な表情になって水音に向かって声をかけたので、
「は、はい、何でしょうか!?」
と、水音は身構えながらそう返事すると、
「ああ、そんなに警戒することはない。確かにお前負けたことは悔しいし、すぐにでも再戦したいとも思ってる」
と、エレクトラは真面目な表情のままそう言ったので、その言葉に水音は「うぅ」と更に身構えたが、
「だが、ストロザイア帝国第2皇女としては、お前がストロザイア帝国に来るのは大賛成だ。私達は、お前がその『雪村春風』という男と戦う為の手助けをしたいと思ってる。父様の悪企みは抜きにしても、だ」
と、それでもエレクトラは真面目な表情を崩さずにそう言った。
その言葉を聞いて、
「ぼ、僕は……」
と、水音は顔を下に向けながら、自身の胸をグッと掴んだ。そして、そんな水音を、
『さ、桜庭……』
『桜庭君……』
と、爽子やクラスメイト達が心配そうに見つめた。
すると、水音は胸を掴んでいた手を離し、ゆっくりと顔を上げると、
「僕は……行きます」
と、真っ直ぐエレクトラを見つめながらそう答えた。




