第97話 「雪村春風」について・6
「地球の神々」は、自分達が「エルード」に召喚されるのを認めてないかもしれない。
純輝が放ったその言葉によって、謁見の間内が緊張に包まれた。
誰もがタラリと汗を流しながら黙り込む中、
「ちょ……ちょっと待てよ正中!」
最初に口を開いたのは、進だった。
進は純輝の胸ぐらを掴むと、
「お、お前! 幾らなんでもそりゃ有り得ねぇだろ! 俺達の世界の神々が、俺達がこの世界に召喚されるのを認めてないって、そんな馬鹿な話があるかよ!」
と、ユッサユッサと揺さぶりながら怒鳴った。
その怒鳴り声を聞いて、
「こ、近道君! 落ち着いて……!」
と、ハッとなった水音はすぐに2人のもとに駆け寄り、進を純輝から引き剥がそうとした。
勿論、水音に続くように、爽子と他のクラスメイト達も、
「や、やめろ近道!」
「そ、そうだよ進君!」
と、進を純輝から引き剥がそうとしたが、進は手を離さないどころか、ますます純輝の胸ぐらを掴む力を強くした。
ただよく見ると、その手はかなり震えていたうえに、進自身の表情は真っ青になってたので、
(こ、近道君、凄くショック受けたんだろうな)
と、水音は心の中でそう呟いた。
すると、
「……僕だって」
『?』
「僕だって、有り得ないことを言ってるのはわかってるよ。だって、もしそうなら、僕達はこの世界の神々……いや、最悪の場合はこの世界の人達まで信じられなくなってしまうんだから!」
と、純輝は胸ぐらを掴まれた状態のままそう怒鳴った。よく見ると、その表情は進と同じく真っ青にしていたので、思わず水音達は何かを察したのか、皆、「あ……」と声をもらした。
しかし、そんな水音達を前に、
「でも! それ以外に雪村君の行動の意図が何も浮かばないんだよ! 他に何かあるなら教えてよ!」
と、純輝は震えた声で進に向かってそう怒鳴り、それを聞いた進はというと、
「う……そ、それは……」
と、更に顔を真っ青にしながら純輝の胸ぐらから手を離した。
するとその時、
「はいはーい、みんな注目ー!」
と、ヴィンセントが手をパンパンと叩きながらそう口を開いたので、それに水音達が「っ!」と反応すると、
「お前さん達、ショックを受ける気持ちはわかるが、ここは一旦落ち着こうや」
と、ヴィンセントはニヤリとしながらそう言ったので、それに水音は無言でコクリと頷くと、皆、少し広がってヴィンセントに視線を向けた。
それを見て、
「うんうん、みんないい子だ!」
と、ヴィンセントはニヤリとした表情のままそう言うと、すぐにスッと真面目な表情に変わって、
「まずは、取り敢えず仮に純輝、お前さんの考えが正しかったとしよう」
と、純輝を見ながらそう言った。
その言葉に純輝だけでなく爽子や水音達もゴクリと唾を飲むと、
「お前さんの考えをもとに話を纏めると、あの日、ルーセンティア王国で、5柱の神々より授かった『勇者召喚』を実行にした。ここまではいいな?」
と、水音達だけでなくウィルフレッドとマーガレットを見ながらそう尋ねたので、それに水音達が無言でコクリと頷くと、
「だが、それはお前さんらの故郷『地球』の神々が認めてない、いわば許されざる行いだった。そのことを知った『地球』の神々は、偶然『勇者召喚』に抵抗していた雪村春風に出会い、そいつに『ちょっと困ったことが起きたから、向こう行って調べてきてくれ』みたいなことをお願いした。その後、『お願い』を受けた雪村春風は、恐らくその時目覚めたであろう『固有職能』の力と共にこの世界に来た……ということになるだろう」
と、ヴィンセントは純輝の言葉から考えられた答えのようなものを説明した。
その説明を聞いて、
(え? それってつまり……)
と、水音は何かに気付いたかのような表情になると、
「待ってくれヴィンス! その説明が正しければ、つまり……」
と、ウィルフレッドが顔を真っ青にしたので、それにヴィンセントは「ああ……」と頷くと、
「もしかするとだが……雪村春風は勇者召喚に巻き込まれた人間じゃねぇ。異世界『地球』の神々によって、この世界に送り込まれた人間ってことになるだろうな」
と、真剣な表情でそう言った。
その時だ。
ーー異界の神々と契りを結びし……
「っ!」
突然、ウィルフレッドの脳内にとある「言葉」が浮かび上がり、その後、ウィルフレッドは自身の胸をガシッと掴んだので、
「え!? ど、どうしたんですかウィルフレッド陛下!?」
と、それを見た爽子は驚きの声をあげたが、
「だ、大丈夫だ爽子殿、心配しないでくれ」
と、ウィルフレッドは爽子に向かってそう言うと、ゆっくりと深呼吸しながら、胸から手を離した。
その後、
「ウィルフ、本当に大丈夫か?」
と、ヴィンセントがそう尋ねてきたので、
「ああ、問題はない。話を続けてくれ」
と、ウィルフレッドは真っ直ぐヴィンセントを見ながらそう答えた。
その答えにヴィンセントは「わかった」と返事すると、
「で、無事この世界……というか謁見の間に降り立った雪村春風は、ウィルフからこの世界の現状と『勇者召喚』を行った理由を聞いた後、例の質問を始めた。で、その質問が終わると、『ああ、駄目だ。このままここにはいられないな』と考えて、ここを出て行くことにした……まぁ、こんなところだろうな」
と、そう説明した。
その説明を聞いて、
「そ、それでは、雪村は一体何処に……?」
と、爽子が恐る恐るそう尋ねると、
「そりゃあ爽子センセ。もし本当に雪村春風が固有職保持者なら、5柱の神々に頼ることは出来ねぇだろ。なら、何処に向かうか……わかるよな?」
と、ヴィンセントにそう尋ね返されたので、それに爽子は「え……」と声をもらすと、少し考えて、
「まさか……封印から目覚めた『邪神』……ですか?」
と、再び恐る恐るヴィンセントに向かってそう尋ねると、
「そうだ。5柱の神々に頼れない以上、雪村春風は別の神……即ち『邪神』と接触する気なんだろう」
と、ヴィンセントはコクリと頷きながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「そんな! 何処にいるかもわからないっていうのに無謀過ぎます!」
と、ショックを受けた爽子がそう怒鳴ると、
「おいおい落ち着けって爽子センセ。『邪神』の居場所を知ってそうな人物なら、1人だけいるじゃねぇか」
と、ヴィンテージは落ち着いた表情で右手の人差し指を立てながらそう言ったので、その言葉に爽子が「え?」と首を傾げると、
「……レナ・ヒューズ……だな?」
と、ウィルフレッドがそう尋ねてきたので、
「ああ、そうだ。そして、こいつは俺の勘だが……恐らくそのレナ・ヒューズって奴は、邪神となんらかの繋がりがあると思う」
と、ヴィンセントは真面目な表情でそう答えた。




