表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/92

“魔王”⑦



「えっと、これって……あれですよね?」


 沈黙の中、ココルがぽつりと言った。


寓言書廊(ぐうげんしょろう)の、セイレーンの時みたいな」

「……そうみたいね。要するに、モンスターを倒した後の処理を選ばせてくれるってことなんじゃないかしら」

「なーんだそういうやつかー。身構えて損したよ」


 そう言って、テトが気を抜いたようにナイフを仕舞う。


「でさ……これ、どういう意味だろ?」


 テトがウインドウに表示されたメッセージを凝視しながら言う。


「魔王城をクリア、まではわかるけど……」

「……リセット、という言葉は聞いたことがないな」


 響きからするに、ダンジョン関連の用語である気がする。

 だが、これまでに読んだテキストや聞いた話の中に、こんな単語が出てきたことはなかった。


「わたしも知らないです。でも……今の世界を、って言ってるくらいですから、救済とかそういう意味なんじゃないでしょうか? 流れ的に」

「まさか、明らかにダンジョン関連の言葉よ? そんな意味の用語があるとは思えないわ。それにダイアログって普通、冒険者の意思や利害に関係することを訊いてくるものじゃない? 世界を救うなんて、この場限りの演出なのだし……」

「でもそれなら、今の世界を~って言葉が入ってくること自体おかしいよ。やっぱりこれ、演出関係の質問なんじゃないの?」


 皆で話し合うが、答えは一向に出なかった。

 質問の核になる単語を知らないのだから、無理もない。


「あー、もどかしいですね!」


 ココルが頭を抱えながら言う。


「確かダイアログって、しばらく放っておくと消えちゃうんですよね……? もうそろそろ、答えた方がよくないですか?」

「そうね……重要なダイアログだと、消えてもまた出てくるとは聞くけど……」

「そうなると、もしかしてあの女神がゆーっくり降りてくる演出、また見なきゃいけなくなる!? だるっ! もう選んじゃおうよ、アルヴィン」

「そうだなぁ。このまま悩んでいても、答えは出なさそうだしな」


 俺は同意する。

 気分的にも、いい加減に決めてしまいたくなってきていた。


「今選ぶとしたら……一択ですよね」

「そうね。この状況なら、だいたいの冒険者が同じ選択をするんじゃないかしら」

「というわけで、頼んだよーアルヴィン!」

「ああ、わかったわかった」


 俺は苦笑とともにうなずく。

 やっぱり皆、同じことを考えていたようだった。


 ダンジョンのクリアは、冒険者の目標の一つだ。

 それに報酬はないと言われていたが、クリアすればレアアイテムの一つでももらえるかもしれない。


 俺は、ダイアログウインドウへと手を伸ばす。



****



■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「……なんじゃ、ダイアログを出すための演出じゃったか」


 ゴルグが拍子抜けしたように言い、ハンマーを下ろした。

 俺も、思わず溜息をついてしまう。

 連戦だったらどうしようかと思った。


「いい記念になったのぉ、ヒューゴ」


 ゴルグが、太い笑みとともに言う。


「難関ダンジョンをクリアして解散なんざ、このパーティーの散り方としては上々じゃろう。自慢話にできるわい」

「そうね~。わたしも機会があったら、生徒に話してあげたいわ~。先生は昔、すごいパーティーで冒険者をしていたんですって」


 ライザは穏やかな顔で言う。


「それに……レダンへの、いい(はなむけ)にもなるものね~」

「ふん、いらん気遣いだ」


 レダンは鼻を鳴らし、愛想の欠片もない口調で付け加える。


「……だが、悪くはない」

「……」


 ピケだけは、無言でうつむいたままだった。


「……」


 俺は、ただ黙って仲間たちの顔を見回す。

 こいつらの言う通りだ。

 力を合わせてドラゴンを倒し、難関ダンジョンをクリアして解散。冒険者パーティーとしては、これ以上ないほど華々しい終わり方だ。

 『星狩』の最後としては、上等すぎるくらいだろう。


「……ああ」


 俺は小さくうなずき、女神に向き直った。

 そして、ダイアログウインドウへと手を伸ばしていく――――…………



****



□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 指先が、半透明のウインドウに表示されたボタンに触れた。

 『いいえ』のボタンに。


 微かな感触とともにボタンが押下されると、ほどなくしてウインドウが消え去った。

 俺は振り返り、仲間たちへとうなずいてみせる。


「こういうことだよな」


 皆も、同じくうんうんとうなずいていた。


「当然です! クリアなんてするわけありませんよ!」


 ココルがうなずきながら言う。


「だってまだ、正規ルートを見てないですからね! クリアするならそっちも奥まで進んでからです!」

「リセットの意味を調べて、出直してくるっていうのもありね」


 メリナもうなずきながら言う。


「クリアはその後でも遅くないわ」

「ろくな報酬もないまま終わるなんて悔しいしね」


 テトもうなずきながら言う。


「せめて、ここまでのマッピング情報を売るでもしないと納得できないよ!」

「うんうん、そうだよな」


 俺もうなずく。

 多くの冒険者が、きっと同じような感覚を持っているはずだ。

 ――――中途半端なままでは、冒険は終われない、と。


「あ、でも……これだと世界、救われなくなっちゃいますよね」


 苦笑しながら言うココルに、俺も釣られて笑ってしまう。


「確かにな。でも……いいじゃないか」


 言いながら、女神へと向き直る。


「嫌なことばかりな世界でも――――がんばり続ければ、意外といいことだって起こるもんだしな」


 腐ったまま冒険者を続けているうちに、幸運にもいい仲間と巡り会い、それまでの努力が実ってドラゴンまで倒せてしまったように。

 絶望に満ちた世界にも、きっと何かしらの希望はあることだろう。


『――――選択を受諾しました』


 その時、女神がわずかに口を開いて、そんな言葉を響かせた。


『この(たび)の世界には、どうやらまだ希望が残されているようですね』


 それから、その光を放つ体が徐々に上へと昇っていく。


『以上をもって、十二度目の魔王城イベントを終了します。次回のイベント発生は、システム時間において一五〇〇〇〇〇〇〇〇秒後となります』


 俺たちが首を傾げながら聞く中、テトがメリナに訊ねる。


「十五億秒、ってどれくらい?」

「ええと……だいたい五十年弱ってところかしら?」


 もはや見上げる高さに浮かんだ女神が、そのとき小さく笑った。


『よりよく生きなさい、箱庭の子らよ。この度の世界は、どうか長く続きますように――――』


 天井に、光が満ちた。

 暗闇が、一面の白に塗りつぶされる。

 それだけではない。凍り付いた湖面が、その周囲の岩肌が、目の前の空気すらも、白い光へと変わっていく。

 やがて――――、



****



■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 俺は――――『いいえ』を押していた。


「……なんてな」


 ぽかんとする仲間たちを振り返る。

 そして、誤魔化すような笑みとともに告げる。


「悪ぃな、お前ら。俺は……俺だけは、まだ冒険者を続けるよ」


 自分の(てのひら)を見る。

 そこにはまだ微かに、“強撃”を放ったときの感覚が残っていた。


「使えるスキルのない俺は、どれだけ努力したところで、この辺りのレベルが限界かと思ってた。だが……まだ先があったんだ。今の、この先が」


 【残心】は、単純なようで奥深いスキルだ。少し考えただけでも、様々な使い道が思い浮かぶ。

 攻撃後の隙を消すことはもちろん、先ほどのように盾職(タンク)代わりにだってなれるだろう。味方の大魔法だって喰らわなくなる。溶岩の地形ダメージも受けないし、毒沼などを踏んでも状態異常にならない。《無敵状態》というバフには、それだけの可能性が詰まっている。


「だから――――クリアなんてしてられねぇよ。ようやく冒険者がおもしろくなってきたんだ。この変なダンジョンだって、中途半端には終われねぇ」


 女神が後ろで何かを喋っている。

 だがもはや、そんなことはどうでもよかった。


「俺は冒険者を続ける。お前ら以外の連中と組んででも……いやたとえ一人だって、冒険者を続けてやるよ。技術(スキル)を極めて、体が動かなくなるまで冒険者を続けて、引退したら弟子に俺のすべてを伝える。それが俺にとっての“次”だ」


 自分の中で、ようやく答えが出たという確信があった。

 笑って続ける。


「だから、悪ぃな。残念ながらお前らには、自慢話も(はなむけ)もくれてやれねぇ。ま、ここは最後のリーダー特権ってことで許してくれ」

「ふっ……やはり、オレの予想通りだったな」


 レダンが鼻を鳴らして言う。

 その口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。


「冒険者をやる以外には、能のない貴様のことだ。最後にはそう言うと思っていた。……せいぜい死ぬなよ、ヒューゴ」

「おう、てめぇもな! 狩人の方が危ねぇんだから、さっさとくたばるんじゃねぇぞ」

「……元気でね~、ヒューゴ」


 ライザもまた、穏やかな笑みとともに言う。


「あなたなら、きっとできると思うわ~。ずっと、応援してるから」

「ありがとよ。お前も神学校で達者にやれよな。もう金は貸してやれねぇんだから、賭けも無駄遣いもほどほどにしとけ」

「儂との縁は、残念ながらまだ続きそうじゃのぉ。ヒューゴ」


 ゴルグが、にやりと笑って言う。


「武器ならなんでも売りに来い。お前さんに売りつける商品を用意して待っとるぞ」

「頼むぜゴルグ。店ができたら冷やかしに行くからな」

「ヒューゴ……」


 ピケだけは、笑っていなかった。

 俺の名前を呼んだきり、泣きそうな顔でうつむいてしまう。

 俺は魔導士のフードの上から、その小さな頭に手を乗せる。


「よお、ピケ。お前もがんばれよ」

「……」

「朝ちゃんと自分で起きて、飯も食うんだぞ」

「……うん」

「親にもあんま心配かけんなよ」

「……うん」

「学園にもちゃんと通って、できれば友達も作っとけ。お前なら勉強は心配ないだろうからな」

「……うん」

「よし。なら大丈夫だ」


 十一度目の魔王城イベントを終了します、という女神の声が響いている。

 演出が続く中、俺はピケの頭を乱暴に撫でる。


「じゃあな、ピケ。帰ってからも元気でやれよ」

「……うん」


 ピケは泣き出しそうな声で……それでも顔を上げ、笑って言った。


「バイバイ、ヒューゴ……私、ぜったい忘れないから」


 その時、天井に光が満ちた。

 暗闇が、一面の白に塗りつぶされる。

 それだけではない。凍り付いた湖面が、その周囲の岩肌が、目の前の空気すらも、白い光へと変わっていく。

 やがて、視界のすべてが白に覆われてしまう。


 その後には――――何も残っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作公開中!
少年辺境伯が「婚約」を頭脳で拒絶――
シリアス×笑い×政略バトルが好きな方に。

『冷血貴族の婚約拒絶録 ~オレは絶対に、結婚などしない~』





ツイッター作者Twitter

書籍版が発売中です!(完結)

表紙絵1

コミカライズされました!

表紙絵コミック
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ