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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
3章

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“魔王”⑥



■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 エフェクトが散る中、俺は放心したまま立ち尽くしていた。


「……」


 冒険者の常識を覆すような事実を、発見してしまった。

 先ほどの感覚を忘れないよう、俺は虚空に向け、再び剣を引き絞る。

 その時だった。


「ヒューゴっ!!」

「ぐえっ」


 背中から、小柄な体が抱きついてきた。

 腰を痛めそうな衝撃にたたらを踏むが、なんとか転ばずに耐える。


「お前っ、ピケ……」


 とっさに出そうになった文句を、俺は止める。

 俺の背中に顔面を押しつけるピケは、ぐすぐすとべそをかいているようだった。

 俺は腹に回された腕に軽く触れると、落ち着かせるように言う。


「わかったから、いったん離れろ。な?」


 小柄な体が背中から離れると、俺は振り返ってピケを見た。

 魔導士の少女は、目を赤くした顔でうつむいたまま、俺と視線を合わせようとしない。


「あー、なんだ……」


 俺は頭を掻きながら、言葉を選ぶ。


「やったな、ピケ」

「……」

「ドラゴンを倒した。お前が魔法で削ってくれたおかげだ。ヘイト管理も完全にぶっ壊れてた中、みんな本当にがんばったよ」

「……」

「終わったんだ。もう終わった。だから泣くな。な?」

「……うん」


 ピケが、目元をごしごしと袖でこする。


「ヒューゴっ」


 顔を上げると、ライザが駆け寄ってきていた。

 息を切らしながら立ち止まると、俺を安堵と驚きが入り交じったような表情で見つめる。


「よかった、本当に……」

「おいおい……頼むからお前まで泣くなよ?」

「おう。生きとったか、ヒューゴ」


 のしのしと大股で歩きながら、ゴルグがやってくる。

 その顔には、豪快な笑みが浮かんでいた。


「しぶといのぉ、まさかあの状況で生き残るとは……じゃが、お前さんらしいわい」

「はっ、まあな。俺はそう簡単に諦めねぇ。お前らと違ってな」

「何が起こった?」


 唐突に、ぶっきらぼうな声が投げかけられる。

 問いを発したのは、ゴルグと一緒にやってきたレダンだった。


「なぜ貴様は生きている。あの状況でブレスを防ぎきることなど不可能だったはずだ。被弾の直前、貴様のステータスに妙なアイコンが点灯していたが……あれはなんだ?」


 俺の生還どころか、ボス戦の勝利を喜ぶこともなく、レダンはただ淡々と疑問だけを口にする。

 なんとも腹立たしい、木で鼻をくくったような態度だったが……こいつらしいと言えばこいつらしかった。


 俺は、まるで些細なことであるかのように答える。


「あー、そんなもんステータス見りゃわかんだろ……って、もう消えてたか」


 例のバフのアイコンは、すでにステータス画面から消えていた。

 あれだけ強力な効果なのだ、持続時間も短いに決まっている。


「まあ、あれだ……【残心】の効果だな。アイコンはきっと《無敵状態》のやつだ。名前は見てないが、ブレスのダメージも喰らわなかったしな」

「……どういうことだ?」


 レダンが眉をひそめる。


「貴様のスキルは、武器スキルがなければ発動できないものだったはずだ」

「それが、実はできたっつーか……」


 俺は頭を掻きながら続ける。


「武器スキルの技は……なんつーか、武器スキルなしでも発動できるみたいなんだよ」

「……は?」

「そもそも、特定のスキルを持ってなきゃ発動できないスキルなんておかしいだろ? だから【残心】を発動させる方法が、絶対なんかあるはずだってずっと思ってたんだが……さっき試しに、【剣術】スキルの“強撃”を真似てみたらできた」

「……」

「つまり、そういうことだ。武器スキルっつーのは、実際には特定の効果を発揮するモーションを、ただアシストするだけの効果なんじゃねーのか? モーションさえ正確にできれば、本当は誰でも武器スキルの技を使えるんだよ」

「……信じられんのぉ」


 難しい顔で言ったのは、ゴルグだった。


「そんな話、聞いたこともない。理屈を知ったところで他に実践できる者がいるとも思えん」

「すごいこと見つけちゃったわね~、ヒューゴ。他に知っている冒険者なんて、いないんじゃないかしら~」


 ライザも、そう言って頬に手を当てる。


「……貴様がそう考えるのならば、そうなのだろう」


 レダンだけは、自分から訊いてきたくせにつまらなそうに言う。


「最後の最後、土壇場になってようやくそれを知るところが貴様らしいがな。もっと早くに見つけていれば、オレたちの負担も減ったものを」

「まあそう言うな。いいじゃねぇか……勝ったんだから」


 そう言って、俺は凍り付いた地底湖の景色に目を向ける。

 勝利の景色と言うには、ずいぶんと寒々しかったが……それでも、やり遂げた感覚があった。

 このパーティーで見る最後の景色としては、悪くない。


「でも結局、このダンジョンのことはよくわからないままだったわね~」


 ライザが残念そうに言う。


「魔王を倒せば、何かしらあると思っていたのだけれど……」

「そう言われれば……そうだな」


 夢中で気づかなかったが、確かにそれらしい演出はまったくなかった。

 ドラゴンが最後に喋っていた台詞も、普通のボスモンスターとしてならそう違和感もないが、魔王城の締めとしてはだいぶ物足りない。


「そもそも、あのドラゴンは魔王だったのか?」


 レダンが硬い声音で言う。


「演出の台詞の中で、魔王という単語は一度も出てこなかった。それ以前の、根本的な疑問もある……あれは、魔王城のボスだったのか? オレたちは本当にこのダンジョンをクリアできたのか?」

「……」


 俺は思わず沈黙を返してしまう。

 そうだと自信をもって言える根拠は、確かに乏しかった。


「……いや、モンスター名の自動表示は、ちゃんとボスモンスター用のデザインになっていたはずだ。それに、あれだけの強さでボスじゃないなんてことありえるか……?」


 断言できるほどの確信はない。

 魔王城は、それだけ奇妙なダンジョンなのだ。このルートを見つけたのだって、元を正せば偶然に過ぎない。

 俺は溜息をついて、思考を打ち切る。


「まあなんだ、とりあえず戻ろうぜ。いつまでもこんな寒々しい場所にいたくねぇよ」

「あの螺旋階段を上るのかと思うと、億劫じゃのぉ」


 ゴルグが渋い顔をして言う。


「ボスドロップがあれば、帰還アイテムが落ちたかもしれなんだが……」

「そう言うな。いいじゃねぇか」


 実のところ、帰還アイテムなど全員がストレージに入れている。

 しかし誰一人として、それを使おうとは言い出さなかった。

 これで最後なのだ。

 魔王城をクリアしていようといまいと、これで。

 冒険の終わりを、誰も急ぎたくはなかったのだろう。


「ふふ。戻るまでに、一時間経っちゃいそうね~」

「当然そうなるだろう。別に構わん。それでダンジョンがクリアできたかはっきりする」

「一時間経った時点でクリアされたダンジョンは消滅し、中の冒険者は外に排出されるからのぉ。楽できて助かるわい」


 そんなことを話しながら凍った湖面を歩き始めた――――その時。

 天を満たす暗闇の中に、眩い光が生まれた。


「っ……!!」


 全員が武器を構え、即座に陣形を整える。

 そして頭上で白い光を放つ、謎の発光体を注視する。


「なんだよ、ありゃ……モンスターか?」

「馬鹿な、連戦だと……? ありえない、ドラゴンの後だぞ。いくらなんでも理不尽に過ぎる」


 レダンの声音には、言葉とは裏腹に身構えるような響きがあった。

 ありえない。そうだ、俺もそう思う。

 だが、普通のダンジョンでは起こらないことが起こっているのだ。何事も否定しきれない。


 発光体は、少しずつ俺たちの(もと)へと降下していた。

 次第に、その正体が明らかになる。


 それは人の形をしていた。波打つ亜麻色の長い髪を垂らし、古風な意匠の白いドレスに身を包んでいる。どうやら、女性のようだ。だがその背格好はずいぶんと大きい。目算で二メートルは超えていそうだった。


 その姿を見て、俺はとある存在が頭に浮かぶ。

 同時に、ライザが呆然と呟いた。


「――――女神?」



****



□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「――――女神?」


 呆気にとられたように、ココルが呟く。

 油断なく剣を構える俺の脳裏にも、同じ存在が浮かんでいた。


 女神。

 子供向けのおとぎ話などでよく描かれる、至高神を擬人化した存在。

 光を放つその女性は、まるでそのような姿をしていた。


「……何が起こってんのさ、これ」


 警戒を解かないまま、テトが言う。


「わからないわ。でも……モンスターとも、違う気がする」


 緊張を纏った声で、メリナが答える。


「もしかして……演出の続き、なのかしら」


 女神は少しずつ降下すると、やがて俺たちの前方、やや上の空中で静止する。

 あらためて見ると、容姿はほぼ人間だった。

 強く光を放っていることと、空中に浮遊していること、あとやたらとでかいところはいくらか人外じみていたが、それ以外は普通の人間と変わらない。


 その動向を注意深く見守っていると、やがて女神が薄く目を開け、微笑とともに声を発する。


『よくぞ魔王を倒してくれました、勇者たちよ』


 俺は、わずかに剣を下ろす。

 少なくとも、戦闘が始まる様子ではなさそうだった。

 女神の言葉は続く。


『病を乗り越え、飢えに耐え、争いの疲弊の中で仲間と共に立ち上がり、魔王へ挑んだその勇気はいったいどれほどのものだったでしょう。災厄の根源は滅びました。勇者たちよ、あなた方は成し遂げたのです』


「あれ、この話し方……」


 聞こえるかどうかくらいの声量で、ココルが微かに呟いた。

 演出は続く。


『これで、世界の救済が可能となりました。あなた方には選択肢が与えられたのです。今の世界を解き放ち、原初の頃の、可能性と希望に満ちたあの時へと還す選択肢が』


「ん……?」


 俺は、思わず眉をひそめた。

 妙な物言いだった。災厄の根源である魔王は倒したと言っているのに、世界が救われるのはこれからなのか……?


『絶望に満ちてしまった世界は、もはや再帰の救済によってしか希望を取り戻す(すべ)はありません。悲しいことですが、世界中に散らばってしまった不幸は(システム)にすら消し去ることはできず、災厄の連鎖はこの先も続くでしょう。だからこそ――――』


 女神は、わずかにも表情を変えることなく続ける。


『――――やり直すのです、すべてを初めから。次の世界こそは、平和で豊かな時が永遠に続くと信じて』


 女神が話す内容は、抽象的でよくわからない。

 ただ、本題に差し掛かっていることだけは理解できた。


『この世界の出来事は聖典に記し、新たな世界の住民たちへと残しましょう。それが、よりよい世界を作るための(いしずえ)となることを願って――――さあ、選ぶのです。勇者たちよ』


 女神が俺たちへ、手を差し伸べる。


『あなた方は、この世界を救いますか?』


 その時――――目の前に、半透明のウインドウが出現した。

 思わず目を見開く。

 それは、ダイアログメッセージであるようだった。

 これまでの演出とは対照的な、無機質とも思える問いが、簡潔に表示されている。



『魔王城をクリアし、今の世界をリセットしますか?  はい/いいえ』

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