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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
3章

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“トロメーア”④



「――――やったーっ!! やりましたよっ! わたし、中ボスのキルをとったのなんて初めてです!!」


 突然、ココルが大きな声を上げた。

 俺は少々驚きながら振り返る。

 神官の少女は、心から満足げな笑みを浮かべていた。


「前から一度、やってみたかったんですよね……!」

「……はあ。驚かせないでよ、まったく」


 隣のメリナが、どこか呆れたように言う。


「さっきはうまくいったけど……あの場面なら、アルヴィンとテトが攻撃を受けてから治癒(ヒール)をかける方が確実だったんじゃないの? 別にあんな無茶をする必要なんてなかったでしょう」

「無茶じゃないですよっ」


 ココルが胸を張って言う。


「アルヴィンさんとテトさんのダメージから、攻撃力の程度はなんとなく掴めてました。神官は元々STR(筋力)が高めですし、それにVIT(耐久)上昇バフもかかってましたからね! ぜったいうまくいくと思ってましたよ!」

「まあなあ……」


 俺は苦笑交じりに呟く。

 回復職(ヒーラー)のイメージが強い神官だが、実は装備によっては前衛がやれるくらいSTR(筋力)が高くなる。ココルのレベルや、妙に上手いメイス(さば)きを考えれば、確かに決して無茶ではなかっただろう。

 ただ……。


「でもびっくりするから、今後はなるべく控えてくれな……」

「そうそう! 万が一ココルが倒れたらパーティーが崩壊するんだからねー!」

「はい、そうですよね。もうやめておきます……今回ので満足しましたし」


 ココルがしれっと付け加える。

 やっぱり、やってみたかったというのもあったらしい。


 テトがステータス画面を見ながら呟く。


「それにしてもさ、なんだったんだろーね。ココルについてたバフ」


 俺も釣られて、パーティーメンバーの簡易ステータスを確認する。

 ココルに三つ付いていた謎のVIT(耐久)上昇バフ、《戦犯の証》は、時間経過で消えたためか今は一つになってしまっている。


「確かバフォメットの方じゃなくて、普通のゾンビを誰かが倒すと、自然とかかってたよね。でも倒した人ならともかく、戦闘に関わりなかった回復職(ヒーラー)にかかるって……どういうこと?」

「難易度調整のための救済措置じゃないのか?」


 俺はなんとなく考えていたことを話す。


「あのゾンビは、湧出(ポップ)するたびに少しずつ数が増えていただろう? 攻略法をなかなか見つけられないとすぐに詰みかねないから、回復職(ヒーラー)を守るための措置だったとか」

「うーん、回復職(ヒーラー)だけVIT(耐久)あげても意味あるかなぁ……」

「えーっと……あのゾンビは、インフラマブル・ゾンビって名前だったみたいですね」


 討伐ログを見つめながら、ココルが言う。


「名前から何かわかるかもと思ったんですが、何もわかりませんね」

「初めて聞く名前だな」


 おそらく、ここでしか出てこないモンスターなのだろう。

 その時、口元に手を当てて考え込んでいたメリナがおもむろに言った。


「たぶん……私たち、勘違いしてるんじゃないかしら」

「えっ、何がですか?」

「あのバフ、きっと本来は回復職(ヒーラー)に付与されるものじゃないのよ」


 メリナの言葉に、俺は首をかしげる。


「どういうことだ?」

「戦闘に関わりなかった人にバフがかかるって、やっぱりおかしいわ。私たち、こう言ってはなんだけど変なスキルが多すぎて、攻撃パターンの意図がわかりにくくなってるんじゃないかしら」

「まあ、変なスキルは確かに多いが……」

「あのバフ、本当はインフラマブル・ゾンビを倒して、群れを怒らせてしまった人にかかるものだったとしたらどう?」

「ええ……?」


 俺は思わず眉をひそめた。

 確かにその方がまだ納得しやすいが……。


「だが最初にキルをとったテトにも、次に倒した俺にもバフはかかってないぞ」

「デバフがテトさんに集中するんだったらわかるんですけど、バフがわたしに集中するって……別にそんなスキルは持ってないんですが……」

「何言ってるのよ。持ってるじゃない」

「え?」

「【首級の簒奪者】の効果よ」

「え? あーっ! そういうことですか!」


 遅れて、俺もようやく気づく。


「そうか。インフラマブル・ゾンビはすべて、ココルがキルした扱いになっていたから……」

「バフが全部わたしにかかってたんですか!」


 俺は思い出す。そういえばココルのマイナススキルは、パーティーメンバーがキルしたモンスターを自分がキルしたものと見なすものだった。

 今まではキルボーナスの独占と、キルした際に発動するスキルの抑制くらいしか気にしたことがなかったから、元々そういう効果だったことを忘れていた。


「それはわかったけどさ……」


 テトが難しい顔をして言う。


「結局、バフがかかるのってなんでなの? アルヴィンが言うように救済措置?」

「それもあると思うわ。前衛のVIT(耐久)が上がれば、ゾンビが多少増えても楽になるしね。でも、たぶんそれだけではないと思う」


 メリナが神妙な顔で言う。


「そのバフ……きっと、ミスした人を晒し上げるためのものなのよ」

「晒し上げる……?」

「バフの名前、《戦犯の証》でしょ? それに付与されるのは、うっかり普通のゾンビを倒して群れを怒らせた人だわ」

「……そうか。それで戦犯か」


 俺もなんとなく意図がわかってきた。

 メリナが続ける。


「バフが誰についたかは、簡易ステータス画面を見れば誰でもわかる。それにVIT(耐久)が上昇すると、一人だけ被ダメージが減ることになるでしょう? それを見た仲間はどう思うかしら」

「腹を立てる、かもしれないな……」


 ミスした上に一人だけ安全になるなんて、周りからしたら冗談じゃないだろう。

 まさに戦犯だ。


 テトが訊ねる。


「じゃああのバフ……仲間割れを誘うものだったってこと?」

「ええ。そう思うわ」


 メリナがうなずいて言う。


「だってあれ、内乱がモチーフのモンスターだったでしょう?」


 確かに、そう考えた方が何もかもしっくりくる。

 まさか、こんな盤外戦術を仕掛けてきていたとは……。


「なんと言いますか……」


 ココルが微妙な顔で呟く。


「ずいぶんせこいことしてくるモンスターだったんですねー!」

「デーモン系って、もっと正々堂々戦ってくるイメージだったんだけどなー」

「挙げ句、バフを全部ココルに吸われてたら世話がないわね」

「本体はけっこう強かったのにな。最初から普通に剣で戦われてた方が厄介だったんじゃないか?」


 皆でバフォメットをボロクソに言う。

 変なモチーフを押しつけられていない普通のバフォメットの方が、もしかしたら強かったくらいかもしれない。


「まあ、たとえ【首級の簒奪者】がなくても、関係なかったですね!」


 ココルはにっこり笑って言う。


「わたしたちに内輪揉めとかあり得ませんから!」

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