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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
2章

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【忍びの極意】⑥

「はぁ……はぁ……」


 俺は荒い息を吐きながら、散らばったアイテムやコインを呆然と眺める。

 危ないところだった。


 このくらいのモンスターなら、ソロでも何度か倒したことがある。

 いくら他より多少強いとは言え、三十層の中ボスだ。レベル【45】の剣士に倒せない理由はない。


 だが……初見で事前情報もなく、さらにユーリを守りながらとなると、相当にキツかった。


 俺は剣を収め、振り返る。


「……」


 ユーリは矢をつがえかけた姿勢のまま、サイクロプスの消滅したあたりをじっと見つめて突っ立っていた。


「ユーリ……ユーリっ!」

「えっ、あ……アルヴィンさん……」


 ユーリがはっとしたように顔を上げた。


「あ、えっと……ドロップ、拾うッスか?」

「……俺が拾うよ。ユーリは休んでいてくれ」

「いえ、手伝うッスよ」


 ユーリと手分けして、サイクロプスのドロップを回収していく。

 一通り拾い終わってユーリの方を見ると、ちょうど彼女もアイテムをストレージに仕舞い終えたようだった。

 矢筒の位置を細かく直すその姿は、一見何事もないように見える。


「ユーリ……大丈夫か?」

「え……? はい、大丈夫ッス」


 きょとんとした顔で、ユーリがうなずく。


「転んじゃったッスけど、怪我はしなかったッス。あ、HP……結構減っちゃってたッスね。へへ」


 そう言って、ユーリが笑みを漏らす。

 しかし、どこか放心しているようにも見えた。


「……俺もだ。ポーションは持ってるか?」

「はい。いっぱいあるッス」

「今のうちに飲んでおこう」

「そうッスね」


 そう言って、ユーリはストレージからポーションを取り出した。

 その様子を横目で見て、俺は小さく呟く。


「持ってるじゃないか……」


 ポーションがないわけではなかったらしい。

 やがて二人共にHPを上限まで回復し終えると、ユーリが言った。


「じゃあ、行きましょうか。アルヴィンさん」

「……待て、もう進むのか? もう少し休んだ方がいいと思うが……」

「どうしてッスか?」


 きょとんとした表情で、ユーリが不思議そうに訊ねる。


「さすがに休憩には早くないッスか? あの部屋から、まだあんまり時間経ってないッスよ」

「しかし……」

「助けをじっと待つんじゃなく、マッピングとレベル上げをするって決めたんスから、体力の残ってるうちに動いた方がいいんじゃないッスか?」

「……」


 俺は、ユーリの顔を見た。


 冒険者の中には、危機に陥るとパニックを起こす者もいる。俺も何人か、そんな駆け出しの冒険者を見たことがあった。

 しかし、ユーリにそんな気配はない。

 やや様子がおかしい気もするが、受け答えはしっかりしているし、ドロップを拾ったりアイテムを使ったりといった行動にも妙なところはない。


 何より……体力の残ってるうちに動いた方がいいのは事実だ。


「……わかった。だが、無理そうなら言ってくれ」

「大丈夫ッスよ」


 俺たちは部屋を横切り、転移床に乗った。



****



 暗転した視界が晴れると、そこはなんの変哲もない部屋だった。


「ふぅ……」


 俺は思わず息を吐く。

 連続で中ボスが来たらどうしようかと思った。


「……おそらく、また竹筒が出てくる。たとえモンスターでも中ボスほどは苦労しないだろうが、油断せずに行こう」

「はい、了解ッス」


 対角線上に位置する転移床に向けて歩いていく。

 部屋の中央付近に差し掛かった時、案の定光る竹筒が現れた。


「さあ、何が来る……」


 その時――――竹筒の(へり)に、太い五指がかかった。

 五指の主は、巨大な竹筒をさらに広げながらぬうっとその姿を現す。


「……今度はオーガ、か」


 竹筒から這い出たのは、オーガ系モンスターの一種であるようだった。

 ただし、鮮やかなほどの赤い肌と、黄色と黒の縞模様になっている腰布は初めて見る。はっきりとしたモンスター名はわからない。


 俺は剣を構える。


「よし。ユーリ、さっきと同じように……」


 俺の頭上を、空を裂くように矢が飛んだ。

 オーガの頭に突き立ったそれを見て、俺は愕然と振り返る。


「ユーリ! まだダメだ、何やって……!」


 無言で矢をつがえるユーリの顔を見て……俺はやはり、彼女の様子がおかしいことを確信した。

 目を見開いて唇をひき結び、まるで追い詰められたような表情で弓を引いている。


「っ……!」


 俺は迷った末、オーガへと斬りかかった。

 まずはこいつにダメージを与えなければ。


「ユーリっ、やめろ! ユーリ!!」


 剣を振りながら叫ぶ。

 だが、やはり矢は止む気配がない。


 鋭い爪の振り下ろしを躱し、噛みつきを“パリィ”でいなしつつ攻撃を加えていると、やがてオーガは苦鳴と共に膝を突いた。


 その瞬間、俺はすぐさま踵を返し、ユーリに向かって床を蹴る。


「ユーリっ!!」


 そして弓を引く少女の前に立ち塞がると――――その矢を止めるように腕を広げた。

 肩に衝撃。同時に、熱い痛みが生まれる。


「っぐ……!」

「ア、アルヴィンさん!?」


 ユーリがはっとしたように身を強ばらせた。

 俺は矢筒へ伸ばすことなく宙を彷徨っていた彼女の右手をとる。

 肩の痛みが増すが、今は無視だ。


「逃げるぞ!!」


 俺はユーリの手を引き、全力で逃げ出した。

 さすがに斥候らしく、ユーリは俺の全力についてこられているようだったが、手からは戸惑いが伝わってくる。


 幸いにもオーガはAGI(敏捷)が低いのか、後ろから追撃してくる気配はない。


 やがて俺の足が、転移床を踏んだ。

 視界が暗転する。

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