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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
2章

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【忍びの極意】②

「ボ……ボス部屋?」

「ああ」


 愕然と俺の言葉を繰り返すユーリに、うなずいて答える。


「『記憶の地図』が使えなくなっている。撤退不可のボス部屋だ。内装から嫌な予感はしていたが……俺たちは、ここのボスを倒さない限り出られなくなった」

「ええっ……! で、でも、ボスなんてどこにもいないじゃないッスか!」

「転移床があんなにあるんだ。きっとここと同じような部屋がいくつもあって……たどっていった先に、ボスがいるんだろう。そういうギミックなんだ。撤退不可のボス部屋には、ギミックがあることが多いから」

「そんな……! あんなトラップでボス部屋に送り込まれるなんて、い、いくらなんでもおかしいッス! 絶対何かの間違いで……」

「残念だが、帰還アイテムが使えないのは事実だ。それに、ボス部屋なら内装ががらりと変わっていることもうなずける。最悪を想定しておいた方がいいだろう」

「ア、アルヴィンさんは、どうしてそんなに落ち着いていられるんスか……!?」

「ちょっとは覚悟していたからな」


 俺は苦笑して答える。

 転移して内装を見た時点で、薄々感づいてはいた。


 ユーリが視線を下に落としながら、押し殺すように言う。


「使えなくなったのは、三つ目の手だけじゃないッス……」

「ん?」

「一つ目の手もッスよ! ここが撤退不可のボス部屋なら、誰かが中にいる時点で扉が開くことはないッス! 助けを待つこともできないじゃないッスか!」

「詳しいな。だけど、それはちょっと微妙なんだ」

「え……?」


 きょとんとするユーリに、俺は言う。


「確かに撤退不可のボス部屋には、後から誰かが入ることはできないが……それは扉が開かなくなっているからだ。俺たちが送り込まれたあの竹筒トラップから、追加で誰かが落ちてくることはありえるんじゃないか?」

「そ……そう、ッスかね?」

「現に、ユーリが完全に転移した後から、俺が入って来られているんだ。それに……もし俺が追いかけてこなかったら、ユーリは一人でボスに挑む羽目になっていただろう? それはいくら何でも理不尽だ。そんなダンジョンはあり得ないと思う」


 ダンジョンは、バランスが取れているものだから。


「案外、元々そうやって攻略するタイプのボスなのかもな」

「え?」

「つまり、即席のパーティーを作って攻略するボスということだ。あのミート・ゾンビに冒険者たちが群がっているおかげで、竹筒に飲み込まれる奴も多そうだし、それに多少息が合わなかろうと、経験値を稼いでいるおかげでみんなレベルが上がっ……て…………」


 俺の言葉は、途中でかき消えてしまった。


 もしかすると――――あのミート・ゾンビは、そのために存在するモンスターなのか。

 冒険者たちのレベルを上げると同時に、このボス部屋へと引き込むための。


 集めた思わせぶりな原典(フレーバー・テキスト)が思い返される。


“城主、答へて曰く、『そのやうな化生なぞ、我が領地から追い出して然るべし。怪しの力は、必ずや(わざわい)をもたらすものなり』”


(おうな)曰く、『決して孤立する(なか)れ。さもなくば(いざな)われん。(まよ)()の戸は、足元に開かれり』”


 冒険者に都合がいいだけのダンジョンなんて、あるわけがない。

 俺は……思えば最初から、気を抜きすぎていたのかもしれない。


 内心苦々しく思う俺とは対照的に、ユーリの声は明るくなる。


「そ、それじゃあっ、テトせんぱいたちが助けに来てくれるかもしれないってことッスか!? そしたら、ボスだろうと絶対負けないッス!」

「いや……そう都合よく考えない方がいいだろう。まずトラップの条件が不明だし、そもそも三人は、俺たちがボス部屋で遭難していることさえわからないんだ」

「そ、そうッスよね……。なんとか、ここにいることを伝えられればいいんスけど……」


 残念ながら、ステータス画面には伝言を届けるような機能はない。

 伝えられるのは、現在のHPや状態異常などの、簡易ステータスだけだ。


「…………ああっ!!」

「うひゃあっ! ど、どうしたんスかアルヴィンさん。大きな声だして……」


 俺は、唐突に思い出した。


「現在地を伝える方法があった……」

「えっ!?」

「あったんだが……うーん……」


 唸る俺を、ユーリが問い詰める。


「どんな方法ッスか!? あるならやってくださいよ!」

「いや、事前に打ち合わせが必要で……ただやっても意味不明なだけなんだ。まあ、だが……一応やってみるか」


 俺は元冒険者だった村のじいさんから教わったのだが、もしかしたら三人のうちの誰かが、同じ方法を知っているかもしれない。


「これはダンジョン内で遭難してしまった時に、パーティーメンバーに自分の居場所を伝える方法なんだが……」


 言いながら、俺はストレージからアイテムを取り出していく。

 使うのは『ポイズントードの毒液』と『ライムトードの麻痺液』、あとはそれぞれの回復用ポーションだ。


「昔に教わって、ずっと忘れていたんだ。だが、以前テトに『ライムトードの麻痺液』を飲まされた時、ふと思い出して……それから一応、必要な物を買い揃えていたんだよな」

「テトせんぱい、そんなことしたんスか……。でも、それでどうやって今の場所を伝えるんスか?」

「うーん、説明が難しいんだ。要は、階層数を二つの状態異常で表すんだが……」


 言いながら、羊皮紙とペンのアイテムで計算する。


「ええと、麻痺、麻痺、麻痺、麻痺、毒か……よし。それじゃあこれを持っていてくれ、ユーリ」


 そう言って、俺はユーリに麻痺回復用のポーションを、四つ手渡す。


「え、なんスかこれ」

「俺が麻痺したら、五秒後にそれを使って回復させてほしいんだ。別に自然回復を待ってもいいんだが、少し時間がかかるからな。二人以上いるときはそうした方が効率がいい」

「はあ……。いいッスけど……」

「よし、じゃあ行くぞ」


 言うと同時に、俺は小瓶に入った『ライムトードの麻痺液』を飲み干した。

 だいたいのポーションと同じように、味はほぼしない。

 一瞬の後、俺のステータス画面に麻痺のアイコンが点灯。視界の隅に《状態異常:麻痺》の文字が現れ、俺は床に倒れ込んだ。


「わっ、ほんとに自分で麻痺したッスこの人! もうなんなんスか……。ええと、五秒待つんだったッスよね……」


 きっかり五秒後、ユーリは麻痺回復用のポーションを振りかけてくれた。

 麻痺から回復した俺は体を起こすと、ユーリへと言う。


「ばっちりだ。あと三回頼むぞ」

「へ?」


 ユーリに念を押すと、俺は再び『ライムトードの麻痺液』を飲み干して、床に倒れる。


「さ、さすがに意味わかんないッス……」


 困惑したようにそう言いながらも、ユーリは残り三回、しっかり仕事をこなしてくれた。

 四回目のポーションを浴びて起き上がった俺に、ユーリは恐る恐る問いかける。


「ええと、これで終わりッスか?」

「いや。あとは最後に一度だけ、毒になる」


 俺はそう言って、今度は『ポイズントードの毒液』を飲み干した。

 ステータス画面に毒状態を表す髑髏(ドクロ)マークのアイコンが点灯し、HPの残量バーが赤く点滅しながらじわじわ減り始める。


「……あの、HP減ってるッスけど。回復しないんスか?」

「これも五秒くらいは待たないといけないんだ。麻痺もそうだが、あまり早く回復するとココルたちが見逃す可能性があるからな」


 言い終わるくらいのタイミングで、俺は毒回復用のポーションを飲んだ。

 アイコンが消え、HPの減少が止まる。


 それから、今度はHP回復用のポーションをストレージから取り出し、飲み干した。

 毒で微減していたHPが、それで上限まで回復する。


「よし」

「こ、これで全部ッスか?」

「いや。念のため、今のをもう一度繰り返すぞ」

「えーっ! またやるんスか!?」

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