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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
2章

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【器用さ上昇・小】⑦

「ふう、これで十体目か」


 ドロップしたコインの前で剣を下ろし、俺は息をついた。


 キリの良い数字まで来たせいか、やり遂げた感がある。

 一応コインを拾っていると、後ろからココルの声がかかった。


「お疲れ様です! ちょっと休みますか?」

「そうだな、けっこう長く歩き回ったことだしな」

「セーフポイントまで行くなら、少し戻ることになるわね」

「えー、いいよーめんどくさい。ここ、ミート・ゾンビしか出ないしさ」


 と言って、テトが墓石の一つに飛び乗って腰掛ける。

 それもそうだということで、皆それぞれ適当に腰を下ろす。


「最初は少し手間取ったけど、コツを掴んだらすぐ倒せるようになったわね」

「レベルがレベルですからねぇ。ミート・ゾンビはVIT(耐久)もHPも高くないようですし、誰かが一発当てたら終わっちゃいますし」

「でも……みなさん本当にすごいッス」


 ユーリが感動したように言う。


「あのモンスター、普通はパーティーで連携しながら倒すようなやつッスよね? それを、みなさんほとんど一人で倒しちゃってて……」

「ココルはともかく、俺やメリナやテトはソロも長かったからなぁ」

「一人でなんとかできないとやっていけなかった部分はあるわね」

「なんか……申し訳ないッス。ウチ、全然役に立てなくて……」


 ユーリが顔をうつむかせる。


 本人の言う通り、ユーリの出番はあまりなかった。

 技術の問題ではなく、単純にレベルと職業(ジョブ)のせいだ。苦労して一矢当てても、さすがに威力が足りずそれだけで倒せない。それなら俺やテトや、ココルのバフをもらったメリナが倒す方がずっと早かった。


「斥候の仕事も、テトせんぱいがやってくれてましたし……」

「ん? そりゃあユーリは【気配察知】持ってないし」

「そう、なんスよね……せめて、何かできればよかったんスけど……」

「まあ、仕方ないさ」


 俺は元気づけるように言う。


「たとえ【弓術】スキル持ちの弓手だろうと、“速射”でも使わない限り一人で倒すのは難しかっただろう。弓とは相性が悪い相手だっただけだ」

「あのモンスター、矢も避けるもんねー。普通にしてたら後衛は陽動くらいにしかならないよ」

「速射……」


 ユーリは小さく呟くと、次いで明るい声を出す。


「なるほど! 次はそうしてみるッス!」


 何か勘違いしているのか、ユーリはそう言った。

 “速射”は【弓術】スキルがないとできないが……まあ前向きなのはいいことだ。


「それにしても、みなさんのおかげでだいぶ経験値を稼げたッス。ウチ、今日だけで3つもレベル上がったッスよ!」


 ステータス画面を開きながら、ユーリは言う。


「キルボーナス抜きでこれッスからね。二十九層はやばいッスね!」

「あ、ユーリ……実はユーリにもキルボーナスは入ってるんだよ」

「え?」

「四分の一だけどね」

「え? どういうことッスか? ウチ、一体もキルしてませんけど……」


 テトの言葉に戸惑うユーリに、メリナが説明する。


「私のマイナススキルの効果よ。キルした人からキルボーナスを没収して、他のパーティーメンバーに均等に振り分けるの」

「ええっ、そんなスキルがあるんスか!」

「残念ながらね。しかもキルした人には代わりに、ステ減のデバフまでプレゼントするっていう鬼畜仕様よ」

「うわ、えぐいッスね……でもそれじゃあ、みなさんけっこうしんどいんじゃ……」

「そんなことないですよ! むしろメリナさんのスキルがないと、わたしが困るんです」


 堂々と言うココルに、ユーリが不思議そうに訊ねる。


「マイナススキルがないと困る……ってどういうことッスか?」

「メリナさんがいないと、わたしが全員分のキルボーナスを独占してしまうことになるんですよ」

「ええっ、独占?」

「パーティーメンバーが倒したモンスターは、わたしが倒した扱いになる……っていうのがわたしのマイナススキルなので。メリナさんのスキルがないと、経験値が皆さんに回らなくなっちゃうんです」

「そ、それはまた、なんというかずるいスキルッスね……。でもそれじゃあ、ココルさんのマイナススキルは今、ほとんど無いことになっちゃってるんスね」

「それだけじゃないぞ。俺のマイナススキルも、ココルのおかげで無意味なものになっているんだ」


 俺は言う。


「俺のマイナススキルは【ドロップ率減少・特】だからな」

「え!? ア、アルヴィンさん、えぐいマイナススキル持ってたんスね……。だけど、キルした時に判定されるスキルなおかげで、ココルさんが倒した扱いになるとただ持っているだけに…………あれ、【ドロップ率減少・特】?」


 その時、ユーリが気づいたように呟いた。


「それじゃあ、テトせんぱいの【ミイラ盗り】は……」

「そそ」


 干した果実を噛みながら、テトが言う。


「報酬獲得率が下がるから、逆に小ランクのデバフまで無効になるんだよねー、アルヴィンのおかげで」

「そしてテトのおかげで、私のステ減デバフも無効になる。だから――――このパーティーでは、マイナススキルがうまく噛み合って消えてるのよ」

「むしろちょっとプラスになってますよね。メリナさんのステ上昇効果とか、テトさんのデバフ無効効果の分」

「全ステ10%上昇と小ランクデバフ無効は、ちょっとプラスではないけどな」


 聞いていたユーリが、驚いたように言う。


「マイナススキルの相乗効果(シナジー)……!? そ、そんなことあるんスね……」


 『暁』が全員マイナススキル持ちだということは結構広まっているようだったが、さすがにシナジーのことは噂になっていなかったらしい。

 まあ誰もベラベラ喋ったりはしていないだろうから、当たり前ではあるが。


「『暁』の秘密が、わかっちゃったッス……。全員たくさんスキルを持っていて、しかもマイナススキルまでプラスになっているのなら、そりゃ強いに決まってるッスよ。みなさんがパーティーを組んでるのって、そういう理由があったからなんスね……」


 ユーリの言葉に、皆一瞬きょとんとして……それから、言葉に迷うような笑みを浮かべた。

 代表するように、俺は言葉を口に出す。


「もちろん、マイナススキルのシナジーも理由の一つではあるんだが……少なくとも俺がこのパーティーにいる一番の理由は、みんなのことを尊敬しているからなんだ」

「え、尊敬……ッスか?」


 俺は続ける。


「ココルもメリナもテトも、俺にはできない、すごい技術(スキル)を持っている。目標に向かって努力できる心を持っている。冒険者として尊敬しているから、俺は今このパーティーを組んでいるんだ」

「もちろんアルヴィンさんだってすごいんですよ! アルヴィンさんがいなかったら、『暁』は絶対に生まれてませんでした!」

「私たちのリーダーだものね。他の誰であろうと、こんなにまとまっていなかったと思うわ」

「……」


 テトは黙ったままだ。

 だが、おそらくは似たようなことを、普段からユーリに喋っているんだろうと思った。


 俺たちの言葉をぽーっと聞いていたユーリは、何かを誤魔化すように笑って、そのまま顔をうつむける。


「あはは……なんか、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるッスね……。でも、うらやましいッス。ウチは今まで、他の冒険者を尊敬できたことなんてなかったッスから……」

「ユーリさんも、そのうちきっといいパーティーに巡り会えますよ~」

「……。あはは、そうだといいんスけど……」

「もー、いいよこの話ー」


 テトがむず痒そうに言う。


「それよりさ、ここから下の階層ってどうなってるんだろ。下にもミート・ゾンビが出るのかな」

「聞いたところでは、まだ攻略が進んでいないようだ。みんな経験値稼ぎに夢中なのかもな」

「へー。じゃあボクたちで先進んじゃう?」

「攻略の準備なんてしてきてないわよ」

「レベル帯的には、問題ないかもですけど……」


 俺たちが話していると……不意に、ユーリが立ち上がって言う。


「あー、それじゃあウチは、この辺で失礼するッス!」

「え、ユーリさん?」


 驚いたようにココルが顔を上げる。

 ユーリは、困ったように頭を掻きながら言う。


「これ以上、みなさんのお邪魔をするのも悪いですし」

「別に気にすることはないが……本当に帰るのなら、上の層まで送っていくぞ」

「いやいや、平気ッス! 結構レベルも上がりましたし、それにウチ斥候ッスから。適当にモンスターに見つからないように帰りますよ」

「えー、そう? じゃあ、ボクたちも帰ろうよ。ミート・ゾンビも倒し飽きたし」

「それもそうね。元々、この階層の見物に来たようなものだったのだし」

「そんな、大丈夫ッスよ! みなさんは冒険を続けてくださいッス!」


 と勢いよく言って、ユーリは踵を返す。


「じゃ、みなさん、また店にも来てくださいね!」

「ああっ、ユーリさん!」


 ダンジョンの道を走り出すユーリ。その背中が小さくなっていく。


 立ち上がりかけたココルを制止して、俺は皆に言った。


「追いかけてくるよ。ちょっとここで待っていてくれ」

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