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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
2章

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【器用さ上昇・小】⑤

 それからは、順調にダンジョンを進んでいった。

 時々変わったモンスターが出たが、注意しておけば俺たちの敵ではない。


 ユーリも、すっかり明るさを取り戻していた。

 パーティーとしては後衛が一人増えてしまった形になるが、ユーリとはレベル差があるし、そもそもそんなに深い階層ではないので問題はない。


 そうしてたどり着いた、二十九層。


「うわぁ……冒険者だらけですね……」


 ココルがあきれたように呟く。


 目的の二十九層は、冒険者であふれていた。

 とは言ってもあちらこちらに人影が見える程度だが、普通は冒険の最中に他の冒険者とすれ違う方が珍しいので、十分異常な人混みだ。


 墓石に竹というダンジョンの内装は変わらないが、こうも人が多いと不気味さも薄れてくる。


「ハメポイント並みの混み具合ね」

「これ、全部レベリング目的で来た人たちでしょうか?」

「そうじゃない? それにしても多いねー」


 テトが周囲を見回しながら言う。

 確かに、異様に多い。


 二十九層ならば、安心して攻略するにはレベル30は欲しい。

 だがここに集まっている連中が、全員そんな高レベルとは思えなかった。


 つまり……危険を冒してここまで潜ってきているのだ。

 冒険者には、そういう命知らずが少なくない。

 ……まあ、俺もあまり人のことは言えないが。


 ふと、テトが言う。


「それで……ミート・ゾンビだっけ? それってどういうやつなんだろ」

「あっ! あれじゃないッスか?」


 と、ユーリがパーティーの一つを指さす。

 どうやら戦闘中らしかった。何か奇妙なモンスターが、前衛である槍使いの刺突を躱している。


「なんだあれは……?」


 思わず呟く。

 そのモンスターは、白い肉の塊といった風貌だった。

 子供くらいの背丈で、あるかないかわからないくらいの短い足で歩行している。全体としては人型のようだが、贅肉のようなものに全身が覆われていて顔も首もわからない。

 そのくせ、妙に素速かった。


 その時、槍使いの槍が肉のモンスターを貫いた。

 すでにHPがある程度削れていたのか、肉塊がエフェクトと共に四散する。


 ドロップしたのは、わずかなコインだけ。

 だが槍使いはそんなこと気にも留めずに、自身のステータスを確認し……そしてすぐに、仲間たちと喜びを分かち合っていた。


「あれが経験値を稼げるっていう、ミート・ゾンビで間違いないようね」

「そのようだな」

「ねえ、アルヴィン……このダンジョンの思わせぶりな原典(フレーバー・テキスト)って、調べてた?」

「ああ、一応は」

「どういうものがあったの? あの……ミート・ゾンビに関係しそうなものはあったかしら?」


 メリナが、心配するような声音で問いかけてくる。

 彼女もあの奇妙なモンスターを見て、いささかの不安を覚えたらしかった。


 俺はストレージから羊皮紙アイテムを取り出し、メモしたテキストを見直す。


「俺が話を聞いた限り、あのモンスターに関係しそうなテキストはこれだけだったな……“(おきな)(いは)く、『その化生(けしょう)は、()つ国の古文書に記されし肉人なり。その肉を一切ればかり食さば、(まれ)なる剛力と仙力を得られしものを』と、たいそう口惜しがりけり。”」


 まだ続きがあった。


「“城主、答へて曰く、『そのやうな化生なぞ、我が領地から追い出して然るべし。怪しの力は、必ずや(わざわい)をもたらすものなり』”……だ、そうだ」

「ふうん……」

「えーっと……どういう意味?」


 眉間に皺を寄せるテトに、メリナが答える。


「たぶんだけど……この城主が、肉人っていうモンスターを領地から追い出しちゃったのよ。それを聞いた翁って人が、『その肉を食べればすごい剛力と仙力を得られたのにもったいなかったな』って言ったら、城主が『そんな気味の悪いものを食べたら、絶対にろくでもないことが起こるだろうから当然の対応だった』って言い返した。そんなテキストだと思うわ」


 俺はうなずく。


「ああ。俺もそんな感じだろうと思う」

「へ~……で、これ何が関係あるの?」


 首をかしげるテトに、メリナがさらに説明する。


「つまり、この肉人っていうのがミート・ゾンビなのよ。剛力と仙力っていうのは、きっとSTR(筋力)WIS(魔力)のことで……倒すとレベルが上がるってことを言っているんだと思うわ」

「えっ、それだけのことをこんな長々と?」

「テキストってそういうものでしょ」

「そうだけどさぁ……」

「あの……(わざわい)ってなんでしょうか?」


 ココルが気になったように言う。


「ミート・ゾンビを倒すと、それが起こるんですよね。それって、何かギミックのことを言ってるんじゃ……」

「それは、城主が適当言っただけじゃないッスか?」


 ユーリが軽い調子で言う。


「城主は、肉人がなんなのか知らなかったんスよね? だったら悪いことが起こるなんて、城主にわかるわけないッス」

「そう言われれば……」

「翁って奴にもったいなかったなんて言われて、ムッとしてつい言い返しちゃったんスよ! つまり、ただの負け惜しみッス!」


 ユーリの言うことには、筋が通っている気がした。

 確かに、普通に読めばそういう解釈になる。


「あー、なんかさ、そういう昔話あったよね」

「そうね……なら、そこは気にしなくてもいいかしら」

「そうッスよ!」


 ユーリは明るく言う。


「これまでに何人も冒険者がここでレベル上げして、なんともなかったんスよね? なら平気ッス! それより、早くミート・ゾンビを倒しましょーよ!」

「うーん……確かに、いつまでもこうしていたって仕方ありませんね。せっかく来たんですし、まずはあのゾンビを探しに行きましょうか!」

「ああいうモンスターって、なかなか出くわさないのよね」

「モンスターが寄ってくるマイナススキルがあればよかったのにねー。【隠密】の逆みたいな……」


 わいわいと賑やかに歩き出す皆を、俺は少し遅れて追う。


 実のところ……俺の中にはまだ、嫌な感覚がわだかまっていた。

 奇妙なテーマに、初めて見るモンスターたち。それらも要因の一つだったが……集めた中に、まだ皆に言っていない、気になる思わせぶりな原典(フレーバー・テキスト)があったのだ。


 羊皮紙をストレージに仕舞う前に、俺はもう一度、自分の書いたメモを見直す。


(おうな)曰く、『決して孤立する(なか)れ。さもなくば(いざな)われん。(まよ)()の戸は、足元に開かれり』”


 普通に考えれば……これは、転移床を注意するテキストだ。


 転移床はそれ自体に危険のないギミックだが、それでも時には事故に繋がることもある。

 ダンジョンは内装がどこも似通っているので、そのせいで転移床を踏んで別の場所に飛んでも、すぐに気づけないことがあるのだ。

 いつの間にかパーティーが分断されていた……そんな事故が、転移床のあるダンジョンではたまに起こる。


 だからなのか、それを注意するようなテキストは、これまでに何度も見かけた。

 普通に考えれば、このテキストもその類のものだ。

 皆に話したところで、同じような意見が返ってくるだけだろう。


 転移床自体に何かあるのかとも思ったが、先ほど皆で乗った時も何も起こらなかった。

 そもそも、妙なギミックがあるのだとしたら噂になっていなければおかしい。

 攻略パーティーや、経験値目当てに押し寄せた他の冒険者たちが無事な時点で、そんなものはないと考えるのが妥当だった。


 考えすぎだと、あらためて自分の中で結論づける。


 わずかに残ったもやもやを抱えながら、俺は皆の後に続いた。

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