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マイナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件  作者: 小鈴危一
2章

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【スキル封印・小】⑤

 店の裏手は、武器を試すための広い庭になっていた。

 もちろん、弓を射る場所もある。

 武器のステータスだけを客に見せる武器屋も多い中で、この店は珍しかった。


「今日晴れててよかったッス! 最近雨ばかりだったッスからねー」


 例の弓を手に、矢筒を背負ったユーリが、空に手をかざしながら言う。


 なんとなく俺たちも、彼女と一緒に庭へ出てきていた。

 俺は隣のテトへと問いかける。


「ユーリさんは、そういえば弓が上手いんだったか?」

「うん」


 テトがうなずく。


「アルヴィンは、弓使ったことある? あれ、狙ったところに飛ばすのけっこう難しいんだよ。ダンジョンの外だと、軌道予測線が出ないからどこに飛ぶのか全然わかんないし。でもユーリは……普通に当てちゃうんだ」

「ふうん……」


 弓や投剣、放射系の魔法などは、放とうとする瞬間に飛ぶ軌道を示す線が現れる。

 それを目安にモンスターへ当てるのが常道なのだが……ダンジョンの外ではそれが出ないのだ。

 ダンジョンの外で弓を当てられるのが、経験を積んだ腕の立つ弓手なのだとよく言われる。


 ユーリが矢筒から矢を取り出し、静かにつがえた。

 俺は少し驚く。

 その構えはなかなか堂に入っていた。


 かんっ、という空気を叩くような音と共に、矢が飛ぶ。


 それははるか先に置かれた的の、中心からわずかに下へと綺麗に命中した。

 残身の姿勢を取るユーリの後ろで、おおー、と皆がどよめく。


「すごい! 当たりましたね!」

「初めて使う弓で、しかもダンジョンの外なのに、よく当てられるわね」

「いやあ、引いてみるとなんとなく感じがわかるッスから……」


 と言って、ユーリは俺に弓を差し出してくる。


「いい弓ッスね、アルヴィンさん! 貰い手が見つかるまでは、どうか大事にしてやってほしいッス!」

「あ、ああ……」


 俺は、少し迷って訊ねる。


「なあ、ユーリさんは、もしかして冒険者になる前から弓を触っていたのか?」

「え?」


 ユーリはきょとんとした表情を浮かべた。

 俺は続けて言う。


「なんとなくだが、これまで見てきた弓手とは構えが違う気がしたんだ。だから、冒険者でない者から教わったんじゃないかと思ったんだが……」


 変に詮索するのもどうかと思ったが、幸いユーリは気を悪くした風もなく、こくりとうなずいた。


「えと、はい、そうッス。実はじいちゃんが狩人で、山で獣を捕って暮らしてたッス。母は小さい頃に死んで、父は出稼ぎでずっと家に居なかったんで、昔はじいちゃんと一緒によく山に入ってたッス。弓は、その時に教わりました」

「なるほどな。どうりで構えに迫力があるわけだ」


 STR(筋力)を頼りに引き、軌道予測線を頼りになんとなく当てればダメージ判定になる冒険者の弓とは違い、狩人の弓は複雑で繊細で、しかも厳しいと聞く。

 一撃で仕留めなければ逃げられるか、手痛い反撃を喰らう。手負いの獣は、ただの鹿でさえ恐ろしいという。


 その分下級冒険者よりは稼げるらしいが、狩人とは過酷な職業だった。


「いやあ、ウチなんて全然ッス」


 ユーリが、たははと笑いながら言う。


「狩人としては半人前のまま村を出てきちゃいましたし、それにダンジョンの外で弓が引けるからって、冒険が上手いわけでもないッスからね。冒険者の弓は……いろいろ違うみたいなんで」

「それは、そうだろうが……」

「でもよくわかったッスね。ウチ、今までそんなこと言われたことなかったッス」

「弓手は数が少ないからな。一緒に冒険に行ったことがなければわからないだろう。俺が気づいたのもたまたまだ」

「へ~、経験豊富ってことなんスね。さすが、『暁』のリーダーッス!」


 ユーリが親指を立ててくる。

 俺はなんと言ったものかわからない。


「ふうん、珍しい経歴なのね」

「言ったでしょ? ユーリは弓が上手いんだって」

「あの、ユーリさんは」


 ココルが控えめに訊ねる。


「斥候じゃなくて、弓手になることは考えなかったんですか? そんなに扱い慣れてるなら……」

「あー、ウチも、最初はそう考えてたんスけど」


 ユーリが、困ったように笑って答える。


「ウチ、【弓術】スキル持ってないんスよねぇ」

「え、それくらい……」

「弓手職は、【弓術】スキルがないと一線では活躍できないんだよ」


 首をかしげるココルへ、テトが説明する。


「弓は魔法に比べてどうしても火力が低くなるから、【弓術】スキルの“速射”や“貫通矢”、弱点部位を狙いやすい“曲射”なんかでダメージを稼げないと、弓手は魔導士の劣化になっちゃうんだ」


 弓手が少ないのは、それが理由の一つでもあった。

 いくら弓の腕があろうと、ステータス上の数値やスキルまでを補えるわけじゃない。


「そうだったんですか……」

「あはは、みたいッスね。それが後衛の常識だって、この街に来たばっかりの時に教わりました。それに純粋な後衛になると、せっかく持ってる【忍びの極意】があんまり意味なくなっちゃいますからね。もったいないッス」


 スキルは大事ッスから、とユーリが付け加える。


 そう考えると、弓型斥候というのは上手い選択だったのかもしれない。

 弓の腕と【忍びの極意】、どちらも生かせるのはこの構成(ビルド)しかなかっただろう。


 ココルは難しい顔をする。


「うーん、さっきはうらやましいと言いましたけど……スキルというのはままならないものですねぇ……」

「スキルを得られるダンジョンがあればいいのにな」

「消すダンジョンすらなかったのに、そんな都合のいいものないわよ」

「残念ながら、配られた手札で勝負するしかないッス……幸いウチは、こうやって早めにレベルを上げられるようなスキルをもらえましたからね。文句は言えないッスよ」

「…………あっ、今の流れで思い出したんだけど」


 と、唐突にテトが言った。


「なんか、めちゃくちゃレベリングに向いたダンジョンが見つかったらしいよ」

「レベリングに向いたダンジョン?」


 俺が訊き返すと、テトが説明し始める。


「見つかったっていうか、前からあったダンジョンの、新しく攻略された階層なんだけどさ……なんでも、アイテムもコインもさっぱり落とさない代わりに、ものすごく経験値がもらえるモンスターが出るんだって」

「へえ、なんていうモンスターなんですか?」

「なんだっけ? 確か、ミート・ゾンビとか言ったかな」

「アンデッド系ですか? 初めて聞きました」

百鬼怪道(ひゃっきかいどう)っていうダンジョンなんだけど、他の階層でもけっこう変わったモンスターが出るらしいよ」

「おもしろそうね。今度の冒険はそこにしてみましょうか」

「その新しく攻略された階層って、何層なんスか?」

「二十九層だって」

「二十九層ッスかぁ……ウチじゃ厳しいッスねぇ……」

「ミート・ゾンビは全然攻撃してこないらしいし、他の階層も地図さえあれば通り抜けられそうだけど……やめておいた方がいいだろうね。転移床もあるみたいだし」

「まだレベル【19】なら、その方が無難だな」


 ダンジョンでは、何が起こるかわからない。

 万一があってからでは遅いのだ。


「高レベルになると、そういうおいしいダンジョンにもありつけるようになるんスね……。ウチももっとがんばるッス!」


 ユーリが意気込んで言う。


「あ、そうだ。弓なんスけど、今度店に弓手のお客さんが来たら、アルヴィンさんたちのこと伝えてみるッス。興味を持ってくれる人がいるかも」

「そうか、それは助かる」

「店長には黙っておいてねー? うちの店で手前の武器を売ろうとすんな! ってまたボクが怒鳴られるからさー」

「あはは、わかってるッス」


 結局例の弓は俺のストレージに戻ったものの、これで少し希望が増えた。

 譲るにふさわしい人物が現れるまで、気長に待つとしよう。


 次の冒険の行き先も決まった。

 百鬼怪道だ。

 まずはまた、地図集めから始めないとな。

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