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31話 エピローグ



 邪精霊が街を襲った事件から数日が経過した。


 メリックは実は衛兵から逃れて潜伏していたらしい。

 再び捕まったメリックは自分の身に起きたことを洗いざらい吐いた。


 これは罪の意識に身をさいなまれてということではなく、魔法によって強制的に言わされた。


 メリックは魔法犯罪組織と協力して衛兵から逃れ、潜伏先で邪精霊と契約させられた。

 そしてあの騒ぎが起こったのだという。


 メリックに協力した犯罪組織の構成員も無事捕まった。

 犯罪組織の他の構成員が潜む場所はその構成員を通じて明らかになり、芋ずる式に逮捕されるそうだ。


 邪精霊を暴れさせたこと事件。それは国の重鎮たちをおおいに怒らせた。

 今後は本気で捕まえにかかるから、逃げることはまず無理だ。


 そして、メリックの罪はどうやらそれだけではなく、なんと俺がダンジョンの下層に落とされた件も関わっていたらしい。

 ダンジョンの結果に細工をして下層に通じる道へと行けるようにして、ジェイクに俺を落とさせたのだ。


 それは立派な殺人未遂であり、またダンジョンの結界を解除してまでそれを行ったことから、悪質性がより極まっている。


 そもそもダンジョンの結界に細工をしすることが殺人と同程度とまで言われるほどの犯罪なのだ。

 彼はかなり重い罰がくだるとのことだ。



 それは協力したジェイクやその取り巻きも同じらしく、彼らも衛兵に捕まった。

 自分たちはメリックに無理やり協力させられていたと言っていたらしい。

 だが学園長の魔法でそれが嘘だとわかると、彼らの言うことには信憑性がなくなり、誰も信じなくなったそうだ。

 

 決闘の対価として学園長の前でダンジョンのことを確認しようとしていたのだが、それもやる必要がなくなったな。


 メリックやジェイクたちのその後についてはこんな感じだ。



 そして俺はといえば、邪精霊の暴走を解決した件で褒章を与えられた。

 結構な額の金を与えられたから、使い道に困ってるくらいだ。


 そもそも使う先がないんだよな。

 これまではバイトもそれなりにしてきたが、それは精霊と契約する手がかりを得るために消えていた。

 フィオーネと契約したいま、別に使う必要はない。


 フィオーネに何か欲しいものはないかと尋ねてみた。

 精霊の彼女は人間のような物欲はなく、『マスターと一緒にいられればそれで十分だよ』と嬉しいことを言ってくれた。


 とはいえ死蔵させておくのもなんなので、とりあえずはその一部を打ち上げの費用に使う。

 もっとも、何回か打ち上げした程度で消えるような額じゃないんだけどな。




「それじゃあ、街を救った英雄であるアルバートへ!」



「「「かんぱい!」」」



 馴染みの店で全員でコップを掲げる。

 なんども訪れている安くて美味しい酒場『銀の精霊亭』で打ち上げを行っていた。


 邪精霊によって壊された店は多いが、この店は邪精霊が暴れていたところから遠く、運よく被害がなかったのである。

 


「おいローランド。乾杯の挨拶で恥ずかしいことを言うなよ」


「あん? なんも恥ずかしくねえだろ。邪精霊を倒して街を救ったんだぞ」


「そこじゃなくて英雄ってところだよ。そういう呼ばれ方は恥ずかしくてしょうがない」


 百歩譲ってこのメンバーだけならばまだしも、この店には他にも客がいる。

 周りの目もあってそういう呼ばれ方は恥ずかしさがある。


「なんだよ持ち上げ甲斐のない奴だな。俺こそがこの国の英雄だくらい言って見せろ!」


「そんな魔王を倒した勇者じゃあるまいし……」


「はっはっは! 勇者か。それはいい、アルなら魔王でも倒せるかもな」


 何が面白いのか、ローランドは馬鹿笑いしていた。

 魔王って、そんなおとぎ話の存在を……。



「魔王ではないけど、街を襲った邪精霊を倒したのは事実よ。それは誇っていいこと」


「そうだよ。すごいことしたんだからもっと自慢してもいいと思うけどなー」


 クーデリアとエリザもそう言ってくる。


『マスターがみんなから褒められてわたしも嬉しい! マスターはすごいよ!』


 フィオーネまで乗っかって褒め始めた。

 すごいすごいとフィオーネは連呼する。


「あはは……。ありがとみんな」


 皆からねぎらわれるのは、恥ずかしさはあるが悪い気はしなかった。


「今日はアルのおごりだからな! 飲みまくるぜ!」


「なんでアルを祝う会なのにアルがおごることになってるんだろ。普通逆じゃない?」


「いいんだよ。他に使い道はないし、こういう時にでも使わせてくれ」


「でもこの間も服を買ってもらっちゃったし」


「別に気にすることはないぞ?」


「ううん。気にするの。もらってばかりじゃなダメ。ということで、はい! 私からアルに贈り物。これは助けてくれたお礼!」


 エリザは小さい箱を取り出し、俺に手渡す。


「あのとき、アルが助けてくれたおかげで命が助かった。本当にありがとう。これが命を助けてくれたお礼になるかはわからないけど、アルに渡したくて」


「……考えることは同じね。私も用意してる」


 クーデリアもエリザと同じように小さい箱を取り出した。


「アルバート。この間は本当にありがとう。あの時は……死ぬかと思った。貴方が来てくれなかったら絶対に死んでたと思う。私が生きているのは貴方のおかげ。だから、その。これを受け取って欲しい。きっと喜んでくれると思うから」


 クーデリアの言葉の後、俺は二人から贈られたプレゼントを受け取る。


「二人ともありがとう。プレゼントをもらったのは久しぶりだよ、ほんとうに嬉しい」


「おいおい。二人ともサプライズでプレゼントを持ってきてたのかよ。俺だけ何も用意してねえ。悪い」 


「いや、別にそれは構わないけど」


「ちなみに中身はなんなんだ?」


 ローランドが二人に尋ねる。


「それはアルが開けてのお楽しみだよ。ネタバレはダメ」


「部屋で開けて欲しい。ここだとちょっと照れる」


 クーデリアが頬を赤らめながら横を向く。


「クーデリアさん。何をあげたの……?」


「へ、変なものはあげてない。こういうのは慣れてないから、アルバートの反応が気になるっていうだけ」


『二人ともずるーい。わたしもマスターに何かあげたい!』


「フィオーネちゃんはお金をもってないからプレゼントはできないと思うけど」


『ならそこにあるものをあげるね!』


 はい、とフィオーネはお皿にあった料理を手で取って俺に差し出す。


『これ私からのプレゼント。受け取ってマスター』


「はは。ありがとうフィオーネ」


 パクリ、とフィオーネの手にある料理を食べる。


『美味しい? マスター』


「とっても美味しいよ」


 これはプレゼントなのかという疑問はわくが、細かいことはどうでもいいだろう。

 大切なのは気持ちだ。うん。


「これは俗にいう『あーん』という奴なのでは?」


 俺とフィオーネの光景を見ていたローランドがぼそりと呟く。

 それを聞いたとたん、エリザとクーデリアがお互いの目の前にある料理をフォークで取って、俺にずいと差し出して来る。



「わ、私からもこの料理をプレゼントするよ。はい、アル。あーん」


「じゃあこれは私から。受け取って。アルバート」



 そして、エリザとクーデリアの二人が手にした料理が一度に目の前に。



「これはどっちから先に食べれば?」



「「私の方」」



 二人の声が重なった。

 お互いに一歩も譲らず、自分の方を先に食べて欲しいと目で圧力をかけてくる。


 たかが料理を食べるだけなのに、なんだこの圧は。 


 ていうかこれ、俺に対するプレゼントという位置づけじゃないの?

 なんでこんな追い詰められる形になっているんだ。



「あ、そうだ。空間魔法で両方の料理を一緒に口に入れれば」


「それしたら怒るからね!」


「あーんの意味がない。料理に対しても失礼」


「じゃあどうすればいいんだよ」


「アルよ。好きな方を先に食べなさい。たぶんそれはこの先に待っている何かの先触れになると思うが」


 ローランドはがニヤニヤと笑いながら言う。


「何かの先触れとは!?」


 問いかけるも、ローランドは言うだけ言って満足したのか、こちらの問いには答えずに笑いながら酒を飲んでいた。



「「どっちを食べるの?」」


 

「あはは……どっちにしよう」


 どっちも選ぶことはできず、俺は曖昧に笑うしかなかった。


 見かねたフィオーネが『マスターが困るくらいならわたしが食べちゃうよ』と料理を口の中に入れるまでその状況は続いた。





 そんなこんながありつつも、その日は四人とフィオーネの皆で酒場で楽しく騒いだ。


 当たり前のように楽しく騒ぐが、それは決して当たり前のものではない。

 一歩間違えばこの光景がなくなることもまたあり得たのだ。


 空間魔法で邪精霊を倒したおかげで街は守られ、またエリザとクーデリアも命が助かった。

 こんな日があるのもフィオーネと契約したおかげだと思う。


 だから、フィオーネという最高の精霊と出会えたことを感謝して、俺はこれからも魔法使いとして生きていく。


 子供の頃に憧れた、魔法使いとして――。






 完

お読みいただきありがとうございました。

今作はこれにて終了です。

面白いと感じて頂けたならば、ブックマーク・ポイント・ご感想などをお願いします。



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