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30話 邪精霊を倒す


 

 男子寮への帰り道の途中で、大きな音が響いた。

 音の方を振り返ってみると、そこには黒いものが生えている。 


 始めは距離が離れていて上手く見えなかった。 

 しかしだんだんとその黒いものが大きくなっていき、その姿が明らかになっていった。


「あれは、球体と……触手?」


 街中に突然、巨大な球体が出現した。

 しかもその球体は触手を生やしている。



「うわ。なんだあれ」



 そのわけのわからない光景に、思わずそう呟く。


 周りの人間も立ち止まり、その不思議な存在をいぶかし気に見ていた。

 しかし触手が周囲の物を襲い取り込み始めたら、その危険性に気づいて逃げ出し始めた。


「おいなんだよあれ」

「こわいこわい!」

「逃げた方がいいんじゃね」

「おいまずいぞ! こっちに来るぞ!」


 そうして、街は一瞬でパニックになる。


 逃げ惑う人々。

 彼らに向かって触手を伸ばす球体。


「空間射出」


 こちらの方へと向かってきた触手に対しては空間射出でえぐり取った。

 触手は上から迫ってくるため、上方に向けて空間射出をすればいい。


「っと……『空間固定』」


 空間射出によってえぐり取られた触手は下に落下する。

 ちょうどそこにはまだ逃げ行く人がいたから空間固定で触手を受け止めた。


「危ない。よく考えて撃たないと」



 地面にいる今の状況では全貌がよく見えない。

 

「空間移動」


 空間移動で上空に移動し、さらに空間固定で足元を固定する。


 上から見ると、球体は四方八方へとその触手を伸ばしているのがわかる。

 それに触手の先端には人が捕まっていた。


 助けないといけないと、すぐにそう思った。


 もう自分は精霊と契約していない、魔法を使えない頃の無力な存在ではない。

 神級精霊と契約して空間魔法という強大な力を手に入れた存在だ。

 

 つまり、誰かを助けられる存在ということ。



 ならばこの力でそれを行うのは、当たり前のことだった。



「空間断裂……はちょっとまずいな」


 空間断裂は自分を中心に直進する。

 ここから放てば、触手につながる人を助けるには何度も放たなくてはいけないが、それをすれば触手だけでなく周りの人にも危害が及ぶだろう。


 同じ理由で空間射出もダメだ。


「空間捻転」


 だから、空間捻転という魔法を用いた。

 それは一定の空間内をねじることによって物質をねじ切るという魔法だ。


 直接離れた空間に影響を及ぼす魔法である。

 これならば直線的に進むわけではないため周りの被害が少なくて済む。


 ねじる範囲の空間が大きいせいで普通は使えない魔法であるが、すでに道路と同じほどの太さになっている触手が相手ならば遠慮は必要ない。


 本体の近くで誰か戦っている人がいる。 

 その人を巻き込まないように、まずは本体から離れて人を襲う触手を狙う。


 四方八方へと伸ばしていた数多の触手が、一度にねじ切れた。

 もちろん、落ちないように空間固定で支えるのも忘れない。


「空間移動」


 次は本体の方だ。


 俺は本体の近くに移動し、先ほどと同じように上空を空間固定で固定して足場にする。


 その時、戦っていたはずの二人が触手に襲われている姿が見えた。


「クーデリアとエリザ!?」


 戦っていたのは先ほどまで一緒に遊んでいた友人二人。

 なぜここで戦っているのか? 


 疑問に思ったが、しかしそんなことを考えている場合じゃない。



「空間固定」


 急いで空間固定で二人を守る。



「おそくなってごめん。でももう大丈夫だ」




 二人は空間固定で四方を囲んでいる。

 

 見た限りではこの謎の触手は叩きつけたり掴んだりしかできないようだ。

 空間固定を超えて攻撃してくることはないだろう。


 他に生えている触手も空間捻転でねじ切り、触手を根元から切り離す。


 これでもう大丈夫、とはならない。


 切られて本体から離れた触手はもう動くことはないが、しかし球体から新たな触手が生えてきている。

 放っておけば元通りになってしまうだろう。


 切っても切っても生えてくるとか、生物としておかしいにもほどがある。



「ていうかこれ……ほんとなんなんだ?」 



 いや本当になんなんだこの生物?

 魔物か?


 でもこんな魔物がいたらこれまで話題にならないはずがない。

 しかも魔物がはびこるダンジョンの中や森の中ならまだわかるが、ここは街中だぞ?


 突如発生するにしてもおかしい。



『わたし知ってるよ。これは邪精霊っていうの』


「邪精霊……」


 フィオーネの呟いた単語には聞き覚えがある。


 邪精霊とは特殊な精霊で、契約者の精神を乗っ取る精霊だと言われている。

 その代わりに強力な力を有すると言われているが、しかしこれは強力すぎないだろうか。


「こんなに被害が大きくなるものなの?」


『被害がどうとかはよくわからない。他の邪精霊なんて見たことないし』


「じゃあなんで邪精霊ってわかるんだ」


『うーん。そういうのは魔力でだいたいわかるの。あれは邪精霊。それは間違いないよ。あと、あれは人間を捕食してる。大きいのはそのせい』 


 確かに人間を捕食していた。

 ここに瞬間移動してくる前に見えたからわかる。


「なんで人間を捕食しているんだ?」


『魔力を奪うためだと思う。邪精霊ってそういうことするの。悪い奴だよね』


「助けられる?」


『あの球体の中に人間が何人かいるのがわかる。たぶんまだ生きてるから、助けられるんじゃないかな』


「よくわかるね……!」


『ふふん。魔力か魂を見ればそういうのだいたいわかる。えらい? えらい?』


「とっても偉いよ。フィオーネ」


『わーい。褒めてもらっちゃった』


 場違いなくらい明るく話しているが、さすがにこのまま仲良く話し続けているわけにはいかない。


 今こうしている間にも、球体の中の人は魔力を盗られ続けている。

 今は生きていることがわかるが、あと少しで死んでしまうかもしれないのだ。

 悠長に話している暇はない。


 助ける方法はやはりあの球体を破壊することだろう。


 しかし、空間魔法を使うとしても何を使うか。

 空間捻転は球体の中の人ごとねじってしまうからダメだ。

 同じ理由で空間爆破もダメ。


 空間斬撃は、空間捻転や空間爆破ほど被害はないと思うが、それでも少なくない被害はでるだろう。

 これもやるわけにはいかない。


「クソ。空間魔法の威力が大きいからどうしたって被害が出るな。どうしよう」


『あのおっきいのを攻撃しちゃダメなの?』


 フィオーネが球体を指さす。


「だめだ。あれを破壊する気で撃てば、中にいる人まで傷ついちゃう」


『じゃあ本体の邪精霊だけを倒すのは?』


「あの球体と触手が邪精霊じゃないの?」


『それは邪精霊の魔法で本体じゃない。邪精霊は人の精神を乗っ取って魔法を放つだけ。他のは全部邪精霊が魔法で作ったもの』


「なら、本体を倒せばいいって訳か。邪精霊を倒す方法は、確か専用の魔法を使うか強い物理的ショックを与える、だっけ」


 専用の魔法なんてここにいる人間は使えない。

 そもそもそんな限定的な魔法を習得している人はかなり少ない。


 とるべき手段はやはり、物理的なショックを与えることか。


「どこにいるのかわかる?」


『わかるよ。あのおっきい丸の真ん中にいるよ。あそこが邪精霊の魔力が一番濃い』


「ありがとうフィオーネ」


 フィオーネにはいつも助けられるな。

 

「細かい場所さえわかれば――」



 俺は球体の中心に狙いをつける。

 放つ魔法は空間射出だ。


 魔力コントロールの成果として、俺は少しだけ空間射出の威力を抑えることに成功していた。

 正確には、攻撃する範囲を抑えることに成功したという感じか。


 空間射出は空間の塊を打ち出して相手に攻撃する。

 射出された空間による破壊の威力は大きいが、それと同じくらい空気の衝撃の余波による被害も大きい。 

 直撃せずとも被害をまき散らす恐ろしい攻撃だ。


 だが俺は魔力コントロールの練習によって、その被害を抑える方法を確立していた。

 その方法は簡単だ。

 空間射出の時に撃ちだす空間のサイズを小さくすればいいのである。


 そうすれば空気に触れる面積が小さくなり、高速で動いたとしても影響を受ける空気の量は少なくなる。


 貫通性はそのままだから直撃した相手が被害を受けるのは免れないが、いたずらに被害が大きくなるのは防ぐことができる。


 まあでも、いいことばかりじゃなくて実は一長一短なんだけどな。


 攻撃範囲を狭くしたのはいいが、撃ちだす空間のサイズを小さくしすぎたせいで直撃する箇所が狭すぎるんだ。

 射出する空間は指先ほどの大きさだ。


 球体を破壊するには小さすぎるから、さっきは使っても意味がなかった。

 でも中にいる精霊を攻撃すればいいだけなのならば、この程度の大きさでも事足りる。


「精神を乗っ取られている人には申し訳ないけど、被害を抑えるためだ。耐えてくれ。『空間射出』」


 極小にまで小さくした空間を放つ。

 

 これまでのような轟音はなく、空気による衝撃もない。

 ただただ小さい空間が飛んでいき、それが球体の中へと入っていった。 



「ぐがあああああああああ!」



 球体の中から悲鳴が響く。

 どうやら上手く当たったようだ。


『魔法が解けてくね』


 空間射出の衝撃によって邪精霊は魔法を保てなくなったのだろう。

 もしくはもうすでに邪精霊が引きはがされたのか。


 フィオーネの言葉通り、邪精霊の魔法によって作られた触手や球体が消えていく。


 触手が消えて、取り込まれた人たちも姿を現していた。

 気絶しているのかみんな倒れている。


「みんな大丈夫なのか?」


『魂がなくなってる人はないから、たぶん大丈夫。体の怪我はわかんない』


「怪我をしていると言えば、邪精霊に乗っ取られていた人は確実に怪我をしているよな。治癒師のもとに連れて行かないと」


 そもそも、まだ邪精霊がいなくなったかどうかもわからない。 


『邪精霊の感じがあそこからする』


 フィオーネが指さす先まで空間移動でとぶ。

 

 周囲には何人もの人が倒れているが、特に怪我は見当たらない。

 だが一人だけ怪我をして血を流している人がいた。


「メリック……」


 血を流して倒れていたのはメリックだ。

 元は魔法学園の教師だったが、俺に薬を盛った一件がバレて学校をクビになっていたはず。


 いやそれどころか衛兵に捕まったとも聞いていたが。

 こんなところで何をしているのだろうか。


『こいつだね。でももう邪精霊はいないかな。あるのは残り香だけ』


「完全に消え去ったってことか」


 邪精霊は、人の体から強制的に弾き飛ばされると消えてしまう。

 精霊にとっての死だ。


 しかしここまでの惨状を引き起こしたのだから同情はできない。



「あとはメリックを助けるだけか。なんか気乗りしないな」


『放っておく? マスターに悪いことした奴だよね』


「まあそうだけど。でもさすがに放っておけないよ。このままだと俺がころしたことになっちゃう」



 まだ死んではいないが、このまま出血が続けばいずれ死んでしまう。

 あの状況ならメリックを撃っても仕方ないことではあると思うが、さすがに死なれては俺自身の寝覚めも悪い。

 

 治癒師のところへ連れていくしかないか。

 とはいえ街の治療院がどこにあるのかなんて知らないから、とりあえず唯一知っている治癒師の元へ連れていくことにする。


 魔法学園の保健室の治癒師なら、腕はいいからすぐに治してくれるだろう。


 俺はメリックの体を掴み空間移動で魔法学園まで連れて行った。

 


 

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