28話 クーデリアと二人きり
エリザが去ったあとに店内を見回すと、すぐ近くにクーデリアがいた。
「なに見てるの?」
彼女の方へと行き話しかける。
「……アルバート」
俺が話しかけると、こちらを向いてクーデリアが返事をする。
「いま、土魔法の補助に使われる道具を見ていたの」
魔道具のコーナーを見ていたらしい。
土魔法や火魔法などのメジャーな魔法には、それを補助するための魔道具が多く取り揃えてある。
魔道具の専用の店に行かずとも、こういった雑多に物が取り揃えているような店にも何個かあるのだ。
「わたし、面白いものがあまりわからなくて。こういうのになってしまう」
「別にいいと思うよ。それに、クーデリアが決められなくても、結局何を買うかは三人で決めることだし」
「アルバートは何を買うつもりなの?」
「ジョッキかな。寮の部屋でお酒を飲むための」
「ローランド君はそんなにお酒飲んで大丈夫なの?」
「体調的には今のところ問題ないけど、酒を飲みすぎて朝起きれずに学校に遅刻するくらいかな」
「それは大問題だと思う」
「はは。あれでも一年生の頃よりは頻度が減っているんだけどね」
「一年生のころ……。そういえば私、アルバートの一年生のころってあまり知らない。時々しか話せなかった」
「クラスも違ったし、俺もクーデリアもそれどころじゃなかったからね」
俺は一刻も早く精霊と契約するために全霊をかけていた。
違うクラスの、しかも有名人で常に人に囲まれているようなクーデリアを、連れ出してまで旧交を温める余裕なんてなかった。
クーデリアだって、学園始まって以来の在学中の特級精霊との契約者として注目されていた。
常に生徒たちに囲まれてうごけなかっただろうし、また講師から特別な課題が出ていて忙しかったと噂に聞いている。
「最近は昔みたいに話せて嬉しい」
「俺も嬉しいよ」
子供の時は、俺とクーデリアと、そして近所の他の子どもたちで街でよく遊んだものだ。
クーデリアとは家が近かったこともあり、特に仲が良かった。
「ねえ、アルバート。あの約束ってまだ覚えてる?」
「もちろん覚えてるよ」
ある時、俺とクーデリアがともに魔力を持っていることがわかった。
その時に二人で将来は魔法使いになることを約束し合ったものだ。
「お互い魔法使いになったね」
「普通の魔法使いじゃない。アルバートは神級魔法使いになった。すごい」
「あはは。褒められるのは慣れてないな」
照れて思わず頬をかいてしまう。
「いろんな人から言われていると思うけど」
「それも割と慣れないんだよ。特にこの一年、褒められるなんて経験はずっとしてこなかったし」
「精霊と契約できなくて苦労していたって聞いた。ごめんね。力になれなくて」
「謝らなくていいよ。そういうのは自分の問題なんだから。それにもう過ぎた話だし」
魔法が使えない一年生の頃には苦労もしたし嫌な思いもした。
まあ過去の話だ。
あの時のことを蒸し返してもしょうがない。
「アルバートはすごい人。子供のころからそうだった。みんなが思いもつかないようなことをやってくれる」
クーデリアはぎゅっと俺の左手を握る。
「それでね、アルバート。も、もうひとつの約束の方も覚えてる……?」
「もう一つの約束?」
急に話が変わったな。
「その、お互い魔法使いになって、大人になったら……け」
「け……?」
「けっ――お、覚えてないなら、いい」
「いやなんだよ。気になるんだけど」
「でもアルバート。覚えてないし。約束したのに」
「ごめん。いま思い出す。思い出すからヒントをちょうだい」
「魔法使いになるって方の約束は覚えてるんだよね?」
「うん」
「そのすぐ後に言ったことなんだけど」
えーっ。
そのすぐあとに何か約束してたっけ。
約束の類は忘れる方じゃないはずなんだけど、全然覚えていないなぁ。
うおおお。申し訳ない。
「じゃ、じゃあその。思い出したら私に教えてね」
「うん。もちろん。絶対に言うよ」
「そう。私の方の返事は伝えておくね。よろしくお願いします」
「え? うん。返事?」
「思い出したら意味が分かると思う。でも思い出さなくても、卒業までには、伝えるから」
「わかった。俺もそれまでに思い出せるように頑張るよ」
「うん……」
そして、クーデリアは俺の手を握っていることに気づいて「あっ」と言って頬を赤らめながらパッと手を離す。
「クーデリア?」
「な、なんでもない。ちょっと、恥ずかしくなっただけ」
「うん。あ、ローランドの買い物は何にする?」
「私はアルバートとエリザさんの選んだものでいいと思う。やっぱり、仲良しの二人が決めた方がいい」
「わかった。じゃあ買ってくるよ」
結局、アイツへの買い物はジョッキになった。




