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22話 クーデリアと模擬戦②


「いくわ」


 クーデリアが魔法を放つ。


 彼女の扱う魔法は知っている。


 重力魔法。

 文字通り重力を操る魔法だ。

 重力を変化させることによって物を重くしたり、あるいは軽くしたりできる。


 その威力はかなりのものだ。

 壊せないものは土魔法で作った特殊な金属だけと言っていたが、逆に言えばそれ以外のものはなんでも破壊できるということ。


 空間魔法を抜きにすれば俺が知る中で最も威力の高い魔法である。

 威力という点だけで見れば、魔法学園の教師たちよりも強力であると言えるだろう。



「重力を変化させる。それは何も軽くするだけじゃない。逆転させることもできるわ」


 地面からいくつかの石が浮かび上がり、クーデリアの周囲に浮遊する。

 

「こうして逆方向に重力をかければ物は上に落ちてくる。それに、重力を0にすれば浮かぶようになる」


「それは知ってるけど、それだけだとただ物を浮かべているだけだぞ」


「逆転できるってことは、重力のかかる方向を変化させられるっていうこと。つまり私は重力の向きを好きに設定できるの。例えば、横に向かってかけることもできる」


 クーデリアの周囲を漂っていた石たちは高速で俺の元へと放たれた。

 クーデリアの重力魔法によって加速された石は、ただの投石とは思えない速度をもってこちらへと飛来する。


 ただ、こんな攻撃は空間固定の前には無意味だ。

 直線的な攻撃は空間固定の壁に防がれる。


 そして、その壁は重力魔法で壊すことはできない。


 一昨日の夜にクーデリアが検証していたことだ。


「これが防がれるのは想定内。じゃあ、これは?」


 次にクーデリアが魔法を使ったのは彼女の周囲のにある地面の石ではなく、俺の周囲の石だ。


  2,3メートルほど離れたところにあるところにあった石がクーデリアの重力魔法により浮かぶ。

 空間固定の壁を出していない背後や横で石が滞空していた。


「放て」


 俺を包囲する360度からの石による攻撃。

 ただしそれも背後に横にと複数の壁を出すことで防ぐことは可能だ。


「その固定は何枚でもできるのね。強力な魔法は一か所にしか出せないタイプが多いのに」


「重力魔法を複数の場所でやっているクーデリアがそれを言うか?」


「これは実はたいした重力はかけていないわ。投石もほんの1G程度。実は威力の低い魔法を組み合わせているだけなの」


 千倍の重力をかけられると豪語している彼女からすれば、1Gは確かに威力の小さい魔法だ。



 クーデリアが使っている重力魔法は三つ。


 石を地面から上へと落とす逆転した重力。

 上にある石をその場にとどまらせる、無重力。

 そして俺の方向へと重力をかける横方向の重力。


 それらを俺の周囲の石に対して行っているのだ。

 三つも魔法を組み合わせて360度方向からの攻撃を行っている。


 要は使い方が上手いということか。


「威力ばかり高くて工夫ができない俺とは大違いだな」


「結局防がれればその工夫も意味ないけどね。ま、これは検証みたいなものだから。本命はこっち。『スペリオル・グラビティ』」


「本命? うおっ!」


 クーデリアの呪文が紡がれると、俺は体全身が重くなり膝をついた。


「私の重力魔法は他の魔法と違って直接遠くのものに影響を及ぼすことができる。さっきあなたの周りの石を浮かべて放ったように。これもその応用。遠くにいるあなた自身を重くしているの。どうやらこれは空間固定の影響を受けないようね」


 大抵の魔法は自分の周囲でしか魔法を発動できない。

 剣を作る。体を治療する。空を飛ぶなど。

 大概は自分か自分の近くのものに影響をもたらすのだ。


 中にはファイアーボールのように物を相手に向かって放つものもある。

 しかしそれは自分の体の付近でファイアーボールをつくり、それに勢いをつけて射出するというものだ。

 離れたところにいる相手の眼前にファイアーボールを直接作るなんて真似はできない。


 しかし重力魔法はそれができる。

 離れた場所の相手を直接重くすることができる。

 それはこの魔法が特殊であることの証左だろう。

 

 俺は自分の直上の空間を固定するけど、しかし重さは和らぐことはなかった。


 考えてみれば当たり前だ。

 重力は直接俺にかかっているのであって、上から何かが押し付けられているわけではないのだから。


「お、おいおい。アル大丈夫か?」


 ローランドの疑問にクーデリアが答える。


「心配しないで。怪我するほどの重力はかけてない。というかかけられない」


「え? かけられないの?」


 今度はエリザが疑問を呈した。


「重力魔法は離れたところを直接重くすることができるけど、さすがに何十倍とか何百倍とか高重力をかけるのは無理。せいぜい数倍程度。今は2倍の重力をかけている」


「それでも割と辛いと思うけど……」


「辛いなら解く。怪我させたくはない」


「いや。このままで大丈夫だ」



 逃れる手段がないわけではない。 

 空間移動をすれば簡単ににげることはできる。


 だがそれはやりたくない。

 理由はプライドみたいなものだ。


「まさか空間固定にこんな対応策があるなんてな。無敵と思ってたけど案外何とかなるもんだな」


 ローランドが俺の様子をみて呟く。


 そのローランドの言葉の通り、空間固定の対策が見つかったようで何か面白くない。

 別に自分の魔法が無敵だと思っていたわけではないが、崩すのは難しいと思っていた空間固定をたった数日で打ち破られるのはいい気分ではなかった。


「空間固定に対する対応策としての重力魔法。それにあらがう方法もあるさ」


 重力魔法が空間固定を飛び越えて直接俺の体に影響を及ぼすというのなら。

 俺の体を空間固定で固めてしまえばいいだけだ。


 自分の体に空間固定をかけると、体が楽になる。


 空間固定は外部から影響を及ぶことはない。

 もちろん重力魔法も例外ではなかった。


「手ごたえがなくなった……」


 クーデリアがいぶかし気に眉を顰める。


「何もできなくなった。もしかして自分の体に空間固定を?」


「ああ」


「自分の体に空間固定をすると重力魔法の影響も受けなくなるのね。やっぱり固定された空間の中に入られるとなにもできなくなるということか。これじゃ手出しはできないけど。でもそれ、アルバート自身も動けなくなったんじゃない?」


「ご明察だ。俺も動けない。どうしよう……」


 固定されても俺だけは影響なし、なんて都合いいことにはならないようだ。


「間抜けな展開、とも言えないわね。アルバートはその状態でも魔法は使える?」


「やろうと思えばできるよ。出ることもできる」


 俺は空間移動でクーデリアの側に移動する。

 移動した際に空間固定も解けているし、重力魔法も解けていた。 


 これが敵との戦闘ならばこの状態から空間断裂でも空間射出でも行うのだろうが、これはただの実技の授業の模擬戦だ。

 そんなことはする必要がない。


 空間移動で十分だ。


「きゃっ!」


 クーデリアは急に現れた俺に驚いてバランスを崩し、しりもちをついた。


「ごめん。大丈夫?」


 謝りつつ、転んだクーデリアに手を差し出す。


「え、ええ。大丈夫。ありがとう」


 恥ずかしそうに顔を少し赤らめるクーデリア。

 彼女は俺の手を取って立ち上がる。


 立ち上がった後、彼女は手を離さず動かない。

 彼女が俺とつないだじっと手を見つめていることに気づいた。


「……手」


「ん?」


「にぎったの。ひさしぶり」


 どこか嬉しそうにクーデリアは言う。


「むかしはよく手をつないでた。遊ぶときとか」


「あ? ああ。そうだね。昔はそういうこともあったね」


 俺とクーデリアは幼馴染だ。

 よく連れだって遊んでたし、そのときに手を握って駆けだすなんてこともあった。

 

 といっても甘酸っぱい何かがあったわけではない。

 たいていは俺がクーデリアの手を掴んで出店へと急いだり遊びに行くときに引っ張っていっただけだ。


「最近はぜんぜんつないでくれなかった」


「そりゃお互いにもうそういう歳じゃないし」


 ああいうのは子供であるがゆえの距離の近さによるものだ。

 大人になると、もうあの頃の距離感ではいられない。


「手をつなぐのに年齢は関係ない」


「いや、子供の時に手を繋ぐのといま手を繋ぐのは全然意味が違ってくるというか」


「意味とか関係ない。私はいまでもアルバートと手をつなぎたい」


「えっと……」

 

 クーデリアのその言葉になんと返せばいいのかわからなくなる。



「ア~ル~? 模擬戦の途中なのにな~んでクーデリアさんと手を繋いで見つめ合ってるのかな~~~?」


「そうだぞ。クーデリア様の手を握るなど恐れ多い。そして模擬戦の途中でいちゃつくのはさすがに意味が分からんぞ」


 その時、エリザとローランドが来た。


「離れなさいっ! ちょわっ!」


 エリザがチョップで俺とクーデリアの繋いだ手をほどく。

 

「なにをするの?」


 クーデリアが眉をひそめながらエリザに文句を言った。


「それはこっちの台詞なんだけど。二人こそ何をしているの」


「べつに手をつないで話してただけ。昔はよくやってた」


「昔はよくやっていた……?」


 今度はエリザが眉を顰める。


「ね、ねえ。二人は幼馴染っていうだけで、別に付き合ってたとかじゃないんだよね!」


「当たり前だろ」


「そ、そうだよね。ないよね。よかった。い、いや仮に昔付き合ってとしてもいま付き合ってないんだから関係ないよね、うん」


「アルとお二方。そろそろ俺も話に入っていいか?」


 ローランドは少し不貞腐れていた。



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