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間話 決闘前のジェイク


―――三人称視点―――


 控室にて、ジェイクはドンとロッカーを蹴った。


「クソ! あのムカつく落ちこぼれめ! 精霊も精霊だ。大人しく僕の言うことを聞いていればエリートである僕と契約できて、僕の栄光の一助になる栄誉が与えられたっていうのに!」


「お、おい。ジェイク。あんま物にあたるなよ」


「ああ!? うるせえ、役立たずが黙ってろ!」


 ジェイクは怒りに任せて取り巻きを蹴った。

 

「痛って! なにすんだよ」


 蹴られた取り巻きは涙目で文句を言うが、ジェイクは無視をした。



「ふん。ずいぶんと荒れているな。ジェイク」


「メリック先生」


 控室に来たのはメリックだ。

 ジェイクとアルバートの決闘の立会人を務めることになった教師である。


 彼は闘技場でジェイクとアルバートが来るのを待っていた。

 ジェイクが決闘をしかけたら、有無を言わさずに無理矢理にでも決闘を成立させ、彼が立会人を務める手はずだった。


 憶病なアルバートはそれを断ろうとするだろうとメリックは予想していたのだが、意外にも抵抗しないどころかその決闘の申し出に乗っかった。



(ふん。おおかた。神級精霊という力を手に入れて増長しているのだろう)


 愚かなことだと、メリックは思う。


 格の高い精霊と契約したところで、当人の魔法の技術がおざなりならば魔法も大したものにはならない。


 そんなこともわからずに神級という言葉に踊らされて調子に乗るとは。

 やはり落ちこぼれだなと、メリックはアルバートを心中で見下した。


 

「どうしたジェイク? あの落ちこぼれの言葉に心を乱されたか?」


「そ、そんなことありません! あいつに乱されるほど弱い心はしていませんよ」


「そうであってほしいところだ」

 

 メリックはふん、と嘆息する。


「だが、決闘前のあれはなんだ?」


 メリックはジロリとジェイクを睨みつけた。


「他人が契約している精霊を自分と契約しろと迫るなど言語道断だ。なぜあのようなことをした。事情を聞かせてもらおうか」


「そ、それは」


 メリックからの追及にとまどい、ジェイクは言葉に詰まる。

 

 ジェイクは神級精霊と契約したかったというのが本音だ。

 エリートである自分は格の高い精霊と契約したいと常々ジェイクは思っていた。


 学園に2年目にして既に上級精霊と契約していることはジェイクの自尊心を満足させていた。

 しかし同学年に特級精霊と契約している才女がいることは、彼のプライドを大きく傷付けて嫉妬の感情を抱かせていたのも事実だ。


 だが特級精霊と契約しようと試みたことはあるが、それに失敗している。


 そしてジェイクはそのたびに自分自身を慰めていた。

 今はまだ実力が足りないだけ。

 時期が来ればいずれは特級精霊と契約できる。


 根拠のない自身はあるが、しかし現時点で自分より上の存在がいることは大いに不満であった。



 そんなとき、降ってわいたように現れた神級精霊の存在。

 それを手に入れれば、自分は同学年で一番、いやそれどころか世界で一番の魔法使いだ。


 なぜならば神級精霊だ。

 歴史上で4体しか発見例がなく、しかも百年ぶりに現れた存在。

 もちろん今の時代に神級精霊と同格の存在はいない。

 文句なくこの世で最高の精霊と言える。

 

 エリートである自分にふさわしい存在だとジェイクは考えた。


 しかもその現在の契約相手は下級とすら契約できないような落ちこぼれだった。


 おそらく落ちこぼれと契約したのは何かの間違い、あるいは近くに他の人がいなかったから一時しのぎとして仕方なく選んだだけ。

 そんなところだろうとジェイクは考えている。


 ならば奴と精霊との契約を解除させ、エリートであるジェイクと契約をすることが、ジェイクにとっても精霊にとってもよいだろうと考えたのだ。


 だが、それをメリックに言うことはジェイクははばかられた。



 メリックは他者が既に契約している精霊を奪うべきではないと考えている。


 メリックは自分によくしてくれているが、しかしその旧態依然とした考え方はジェイクは頂けなかった。


 他人の精霊を勧誘してはいけない?

 そんなはずがない。

 

 格の高い精霊は、それにふさわしい魔法使いと契約すべきだ。

 格の高い精霊を他人が既に契約していたならばその他人は譲るべきだし、それをしない愚か者であるならばその精霊を奪ってもいいと、ジェイクは考えている。


 つまり、魔法学園のエリートの自分に対しては他人は精霊を譲るべきであり、それを受け入れられないならば強引に奪うことも問題ないのだ。

 ジェイクは本気でそう思っている。


 それがどれだけ自分勝手な考えであり、それを行えば白い目で見られてしまうが、そんなことはジェイクは想像もついていなかった。


 とはいえメリックが自分と異なる考えをしていることは知っているから、その場を取り繕うために言い訳を考える。



「それはですね、つまり、あの落ちこぼれの戦力を奪おうとする作戦ですよ」


 そう告げ、それは言い訳としては案外悪いものではないとジェイクは思った。


「ふむ。続けろ」

 

「あいつはカスの落ちこぼれですけど、神級精霊と契約できたのは事実です。まあまぐれか何かの間違いでしょうけど。それでも現在神級精霊と契約している以上、その魔法も強力なはずです。落ちこぼれが上手く魔法を使うことなんてできやしないでしょうし、僕の洗練された上級魔法に敵うことはないでしょうけど、ですが警戒はしておいていいはずです」


「一理はあるな」


「ええ。現状あいつが僕を上回っているのが契約している精霊の格ならば、その精霊を奪えばいいんですよ」


「つまり奴の神級精霊と契約しようとしたのは戦力を奪うためだと?」


「もちろんです。これも僕の作戦ですよ」


「ふん。失敗した作戦をいちいちしたり顔で説明しなくてもいい」


 事情を説明しろと言ったのはお前だろ、とジェイクは心中で愚痴を言った。

 当然、それは口には出さないが。


「とはいえそれならば納得だ。相手はカスの落ちこぼれとはいえ、他人が契約している精霊を横から奪うことなど魔法使いとしての品を疑われる行為だ。私欲でそれを行おうとするなよ。貴様を指導している私の品まで疑われてしまう」


 もちろんメリックはジェイクの心配をしたわけではない。

 彼の教師である自分の評判を気にしているのだ。


「安心してくださいよ。あんなアバズレのクソ精霊なんて、こっちから願い下げです。格が高いだけで性格の悪いクソですよ、あいつは。ああそうだ、ほんとは最初から契約なんてしたくなかった。」


 訓練場でのことを思い出して、ジェイクは愚痴を吐く。

 

 実際にはフィオーネと契約したくて申し込んだのだが、彼女からそれを断られたうえに罵倒されて腹が立っていた。

 最初から契約などしたくはなかったとすることで自身のプライドを守っている始末である。


「あの精霊ともひと悶着あったようだが、いまはそれはどうでもいい。ここまでは問題なく計画は進んでいるのだ。決闘は何があろうと止めることはしない。必ずアルバート・レイクラフトを殺せ。次は失敗するなよジェイク」


「もちろん承知しています。その点は心配する必要はありません。あいつが死ぬのは確定事項ですから」


 ジェイクとメリックは二人して笑みをこぼす。

 彼らはアルバートが死ぬ様を想像して胸を高ぶらせていた。 




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