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78.曇天模様

 エドガーの依頼であるストレングスポーションの作製を行った翌日。

 スレイは来客のない午前中の暇な時間を使い、エリアに魔術の基礎の勉強を教えていた。


「……思っていた以上に理解が早いな。これならば一カ月もあれば、基礎魔術の発現ができるかもしれない」

「スレイさん、本当ですか?」

「……まあ、今後のエリアの頑張り次第だけどな。……とりあえず今日はここまでにしようぜ」

「はい。……スレイさん、ありがとうございました」


 エリアは想像していたより魔術の基礎学習の飲み込みが早かった。

 その事に特に驚きはない。元々彼女は高い教養を身に着けている。つまり全くの白紙からのスタートではなく、既に基礎の基礎(・・・・・)という下地が出来上がっていたのである。

 そしてエリアは高い魔力も備わっている。この調子ならば一月以内には魔術Dランク相当の理論を習得し、手のひらからは高威力の魔法の矢(マジックアロー)を発現できるようになるかもしれない。


(……さてと、出かける準備をしないとな。さっさと依頼だけは完遂しておきたい)


 スレイは一息ついて席を立つと、椅子に掛けてあった上質な外套(マント)を手に取って羽織った。


「スレイさん。エドガーさんの処にいくのですか」

「ああ、昨日作製したポーションを魔術剣士団に引き渡してくる。……エリアはどうする?」

「私は留守番をしていますね。スレイさんと私、日中はどちらかがアトリエに残った方が良さそうですから」

「一応郵便ポストを設置したから、店番についてはそこまで気にしなくていいよ。もし俺に用があるなら書き置きを残してくれるだろうから」

「わかりました。では、必要に応じて外出させて貰いますね」

「施錠だけ忘れないように頼む。それと街外れを散歩するなら必ずロイドを護衛に連れていってくれ」


 スレイは言い終えると、Bランクのストレングスポーション五本を亜空間部屋(サブスペースルーム)に保管して、魔術剣士団の兵舎へ届ける為に出かける準備を終えた。

 玄関前に設置された鏡で簡単に身なりを確認する。

 

「……どうかな?」

「いつだって似合っていますよ。……少し髪が伸びましたね」

「そういやルーンサイドに来てから一度も手入れしてないな。……俺の髪は少し癖があるんだよなあ」


 スレイは伸びたやや癖のある髪を指で触れた。王都セントラルシティを離れてから一度も整髪していなかった事を思い出す。

 今まで気にしていなかったが、そう言われて意識しだすと気になり出すもので、すっかり重たくなった髪を梳いて貰いたい気分になった。

 ルーンサイドには良い理髪店はあるだろうか。往復がてら目星をつけておくのも良いかもしれない。


「……それじゃ行ってくる。暗くなる前には戻るから」

「いってらっしゃい。……スレイさん、空が曇っていますね。一雨来そうな気がします。当たらないように気を付けてください」


 エリアが空を見上げながら心配そうに呟いた。


「あの雨雲か。まだ遠い気がするけど、こっちに来るかな」


 スレイもエリアに倣い空を見上げると、暗灰色の雲が北の空に広がっているのが見えた。


     ◇


 街外れのアトリエを出発して市街地を歩いていたスレイは、数十分ほどすると立ち止まった。

 虚空に手を伸ばし広げると手のひらには数滴の雨粒。同時に見上げた空は、既に辺り一面が曇天に覆われていた。


(ちっ、風向きが変わりやがったか。……エリアの言う通りだったな)


 西風が北風に代わり、北に立ち込めていた黒い雲が一気に下ってきていた。

 雲の流れもスレイの予想よりはるかに早い。つまりは強い北風が吹いているという事である。

 それに伴い気温は急速に下がり、上質な外套(マント)を纏っていても、北の風が肌に冷たく感じるほどだった。

 スレイは心の中で舌打ちしつつ、伸ばした腕をそのままに合言葉を紡ぐ。


解放(アクセス)


 亜空間部屋(サブスペースルーム)から傘を引っ張り出すと、そっと開いた。傘を叩く雨粒はそれなりの大きさである。

 やがて強い音を立て始めた雨と共に響き渡る悲鳴が、わかりやすく本降りの合図代わりとなっていた。


「うわ、強く降ってきた!」

「……おーい、雨降ってるぞ! 洗濯物引き上げて!」

「あー、もう、最悪!」


 辺り一面から悲鳴にも似た大声が聞こえた。

 慌てて走り出す人々の邪魔にならないように、スレイは道の端に寄って立ち止まった。

 

「……本当に困りましたわね。クロエに一言告げてからアトリエを出るべきでしたわ」


 聞き覚えのある声がした。スレイが傘を少し避けて横を見ると、見覚えのある少女の姿。

 右手には買い物と思わしき荷物を抱えている。店から突き出した屋根の下で、腰に左手を当ててふくれっ面をしていた。

 おそらくこの店で買い物をしてて足止めをされてしまったのだろう。スレイは声をかけてみる事にした。


「よう。……フレデリカお嬢様。久しぶりだな」

「その声……スレイですの」


 声をかけられた少女は振り返った。数メートルの距離で視線が合う。

 品のある黒いゴシックドレスに良く似合う、ドリルのような金髪の縦ロールが揺れ動く。

 雨宿りの少女はノースフィールド公爵令嬢、見習い錬金術師のフレデリカだった。




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