76.二人目の依頼客
「やあスレイ殿、こんにちは」
エルフの魔法学院生クラリッサから引き受けた初依頼から一週間。
街外れのアトリエに姿を現したのは、立派な体格をした濃紺の髪の青年だった。
その顔にスレイは見覚えがあった。ルーンマウンテンの頂上付近で会った、魔術剣士団の隊長エドガーである。
「……エドガーじゃないか。どうしてこのアトリエに?」
カウンターにある椅子に腰を掛けて本を読んでいたスレイは、顔を見上げて、エドガーに問いかけた。
「予備団員のスカウト。……と言いたいが、今日はスレイ殿の錬金術の仕事になりそうな案件を。問題はないかな」
エドガーは手に持っていた角を、カウンターの上に置いた。
「ああ、もちろん問題ないよ。錬金術師が俺の本職だから。……いや、こんな街外れまで悪かったな。錬金術師のアトリエなんてそこら中にあるだろうに」
スレイは頭を掻きながら申し訳なさげにしていたが、エドガーは全く意に介した様子はなかった。
わざわざ街外れにあるアトリエまで足を運んでくれたのは、ルーンマウンテン山頂で起きた事件、エバンス一家のコニー少年救出の恩返しのつもりかもしれない。
あるいは先ほど言った予備団員スカウトを本気で考えているのだろうか。
「エドガー、この角は小鬼王の物か?」
角の品定めしたスレイが確認すると、腕を組んでいたエドガーは無言で頷いた後、少し遅れて言葉を紡ぎ始めた。
「流石スレイ殿。先日セントラルシティに続く南の街道に小鬼の集団の目撃情報があってね。……まあ、この通り戦利品獲得に至ったわけだ」
「なるほど。小鬼とはいえ小鬼王が率いてたとなると、それなりに手強かったんじゃないか」
「敵は総勢16匹の集団だったな。どうやら西方の平原から流れてきたらしい。私たちは二隊の総勢8名だったから、ちょうど一人二殺の計算だな。いや良い実戦訓練になった」
良い実戦訓練という口ぶりからして戦いには余裕があり、一人二殺の台詞からして被害ゼロで全滅させる事が出来たのだろう。
言葉からは魔術剣士団の質の高さが窺えた。二隊という事はエドガーの他にも隊長格が居たのかもしれない。
エドガーはルーンマウンテンでも4人編成で行動していた。一隊につき4人だと計算が合うが、たまたま出動メンバーの都合でそうなっただけかもしれない。
「ぜひ今度、戦闘経験が豊富であろうスレイ殿にも参加して頂きたい。魔術剣士団の闘いは、当然冒険者のセオリーとは随分違ったものとなるが」
魔術剣士団は冒険者パーティーのセオリーとなる『アタッカー』『ディフェンダー』『ヒーラー』『マギ』『シーフ』のような五人組は存在しないだろう。
魔術の特質上、重装備が不可能なので、特に『ディフェンダー』を置く事は出来ないはずである。
「戦術については気になったな。魔術剣士団っていうのは誰が防御役を担当しているんだ? 冒険者は大抵『ディフェンダー』っていう防御専門の役割を置いているんだが」
「やはりそれが気になるようだね。魔術剣士という特性上、どうしても防御は手薄になる。一人が集中的に攻撃を引き付けるといった行動はとれない。必要な時はゴーレムを作り出して駒として置く」
「そういやゴーレムがあったな。それに全員が白兵戦をこなせるなら、ばらけて攻撃を受けるって手もあるか」
「案外なんとかなる。傷ついた者は後退して神聖術の使い手に治療を受けて戦線復帰といったように。受けが難しい危険な怪物はゴーレムを囮にしつつ遠距離から魔法火力による弾幕を張る。ゴーレムならば誤射に対する気兼ねがいらないというメリットがある」
エドガーの返答に対し、スレイはなるほどと言わんばかりに頷いた。
五年間冒険者として培ってきた戦術のセオリーとは全く異なっている。その点は少し興味を惹くものがある。
(魔術剣士の集団戦か。……そういう戦い方なら俺にもハマるのかもしれないな。とにかく一度訪ねてみるか。……エリアがまた危険に巻き込まれないとは限らないからな)
スレイは極光の嵐を振り上げるローランドと対峙した時の事を思い出していた。あのシーンは未だにトラウマになっている。
狂気を宿した勇者という名の怪物との勝負は一瞬で決着した。お互いの手が破壊されるという痛み分けに近い形である。運が良かったし、もう一度あのような決着に持っていける自信はない。
だからこそ、もし今後あのような局面に差し掛かった時、再びエリアを守れる力が欲しいと思った。
「……スレイ殿、なにやら難しい顔をしているね。少しは魔術剣士団の興味を惹く事が出来ただろうか」
「悪いがそれとは別の考え事だ。……まあ、冒険者とは違ったセオリーがあるっていうのは分かったよ。一度足を運ぼうと思う」
「それは嬉しいね。スレイ殿の名は魔術剣士団で伝えてあるよ。エドガーの紹介といえば通りがいい筈だ」
「マジかよ。……言っておくけど確実に行くと約束した訳じゃないからな」
スレイは溜息をつくと、再び小鬼王の角を手に取った。
「角の使い道はいくつかあるが、どうする? これ単品だと出来る事は限られているが」
「無難にBランクのストレングスポーションにしようと思っている。何瓶作れるかな。空き瓶も亜空間部屋に用意してある」
ストレングスポーションは一時的に筋力を増強させる薬である。
製法となる素材は多種多様であるが、この小鬼王の角を粉末にしたものと、水を組み合わせた上で変成をかける事によって、効率よく作り出す事が可能だった。
作り出したストレングスポーションは肉体労働用にも使えるし、武器による火力増強や、増強させた筋力で普段扱えないような重いサイズの武器の使用も一時的に可能となる。
ただ筋力増強は効果消去後の身体の負担が大きく、連続使用や他のポーションとの併用は推奨されていない。常飲するものではなくここぞという時の物である。
「この角の大きさだと、Bランクのストレングスポーション五本分だな。費用は持ち込みという事で銀貨五枚で引き受けるよ」
「スレイ殿、錬金術師への変成技術料は、持ち込みだとしても最低、銀貨一〇枚が相場と聞くが」
「なに、俺はまだ見習いだからな。半人前って事で半額で。……生活には困ってないから心配はいらないさ。……どうする? それで良ければ今すぐ取りかかるけど」
スレイは改めて確認をすると、エドガーはゆっくりと頷いた。
「……では、お言葉に甘えさせて貰おう。スレイ殿、よろしく頼む」
交渉成立である。スレイは小鬼王の角を手に取ると、席を立ちアトリエに向かった。
第2章としては前回が区切りが良さそうだったので、ここから第3章とします。
ここまで読んでいただきありがとうございました。勢いも落ちてきましたが日間総合38位にランキングしていまして大変嬉しく思います。
あまり出番が無かったドリルお嬢様の出番を増やせたらいいなと思いつつ、日々の更新をしていきたいです(連続更新が途絶えてしまったらすみません)
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