66.爆ぜる疾風その後4-前編<サンドラ視点>
聖騎士レイモンド殺しの罪で、爆ぜる疾風に所属する冒険者の勇者ローランド、狂戦士ガンテツ、盗賊グレゴリーの三名の身柄を拘束して三週間弱。
聖王国の術師サンドラと聖騎士ヴァレンティノは護送の馬車に揺られながら、ようやく聖王都セイクリッドアークにある大聖堂まで到着した。
サンドラは小柄な体格に不釣り合いなくらい巨大な杖を抱えたまま、馬車の荷台から飛び降りた。
「あっ! ……っと」
勢いあまり躓きそうになったサンドラを咄嗟にヴァレンティノが支えた。
「……すみません、ヴァレンティノさん。足が痺れました。長時間の待機は身体への負担が大きいですね」
「うん、お疲れ。ようやく着いたねえ。ノイローゼになるかと思ったよ」
聖騎士ヴァレンティノ。彼はサンドラの上司で、最近まで王都セントラルシティに派遣されていた特務騎士である。
狐を思わせるような切れ長の目と癖のない銀髪、ひょろりとしたしなやかな体付きの青年。身には聖騎士一人一人に特注して与えられる聖騎士の鎧を纏っている。
飄々としていて掴みどころがない人である。聖騎士の称号を戴く者にしては非常にフランクで真面目とは言い難かったが、上司としては割と接しやすかった。
「全くですね。この外道勇者のせいで寝不足です。……途中で埋めた方が良かったのでは」
数名の兵士に引き摺られている、簀巻きになった金髪の青年を蔑むように見下ろしながら、サンドラは吐き捨てた。
「ふざけるなァ! このちんちくりんのクソアマが! なんで僕だけこんな扱いなんだよォォォ!」
「汚いので近寄らないでください。……というか、ちんちくりんのクソアマってわたしの事ですか。失礼な」
勇者ローランドは手足を厳重に縛られ、簀巻きにされた上に革帯で何重にも拘束されていた。右手が切断されて通常の手枷が使用出来ないという事もあったが、聖騎士レイモンドの殺害犯であり特に危険人物と目されているからである。
他の二人の罪人と違い這いつくばったまま食事や排便をさせられていた。彼だけ別個の荷台に隔離してあったが、それでも道中で昼夜問わず奇声をあげた為、サンドラとヴァレンティノはすっかり参っていた。
「……サンドラお嬢ちゃん。俺たちはどうなるんだ?」
レイモンド殺害の隠蔽に関わる容疑者の一人、盗賊グレゴリーが神妙な声で問いかけてきた。彼も手の動きを大きく妨げる手枷と重り付きの足枷がなされているものの、ローランドと比べれば比較的自由を与えられている。
捕まえた頃は洒落た伊達男といった風貌をしていたが、今は髪も乱れ無精髭だらけとなり、すっかり薄汚い悪党といった雰囲気である。ただ、それはそれで妙に似合ってはいた。
「それは分かりません。全ては神の御心のままにです。ですが、聖女様を手籠めにしようとした罪は重いと思いますよ」
「神の御心っていうのは聖王様の事かい。……俺は反省してるんだ。もう二度と聖女様には手を出さねえよ。あんたらの信仰する女神に誓ってもいい」
「……グレゴリー、往生際が悪いぞ。聖女様を害したんだ。俺様は死罪も覚悟している」
同じくレイモンド殺害隠蔽に関係する容疑者の一人、狂戦士ガンテツが目を輝かせながら呟いた。それに対しグレゴリーは薄気味悪がるようなしかめ面である。
スキンヘッドのいかつい大男は、捕縛した三名の中では一番大人しく反省の色が見え、聴取にもよく応じた。罪も悔いているようでこれが演技なら大したものである。風貌にはあまりにも不似合いな態度でかえって不気味なほどだった。
◇
「……よお、お疲れちゃんだなァ、ヴァレンティノ」
サンドラとヴァレンティノが大聖堂に向かうと、赤い髪の青年が声をかけてきて、ヴァレンティノの肩を叩いた。
彼はカルロという名の聖騎士である。サンドラはこの軽薄そうな青年を少し苦手としていた。
堂々とした体躯は立派なものだったが、御洒落のつもりなのかツンツンに尖ったハリネズミのような赤い髪が、痛々しいチンピラのような雰囲気を醸し出していた。聖騎士の鎧を身に着けていなければ、誰も彼の事を聖騎士とは思わないだろう。
背には長槍を携えている。彼は槍技でSランク認定を持つ、聖王国一ともいえる槍の達人だった。
「カルロさん、わたしも居ますよ」
「おっと、サンドラも居たのか。……ちみっちゃくて良く見えなかったぜ」
「……ああ、もう、いちいちアレですね。話かけなきゃよかった」
ヴァレンティノもそうだが、カルロもサンドラより頭二つ分は高い。
サンドラが拗ねた表情を見せると、カルロは笑いながら魔女帽をぐりぐりと抑えつけて追い打ちをかけてきた。デリカシーの欠片もない粗野な性格なのである。
「っと、からかうのはこの辺にしておくか。……レイモンドが殺されたっていうのはマジなのか。……正直全く想像出来ないんだがよ」
カルロは同僚であったレイモンドについて言及してきた。
殺害されたレイモンドも聖王国の実力者で、ヴァレンティノと同じく特務騎士を務めていた。
彼は特に盾捌きに秀でていて『ディフェンダー』という役割を置くことが定石となっている冒険者としての適性が極めて高かったので『爆ぜる疾風』という冒険者パーティーに参加して情報収集を行いつつ、パーティーメンバーの『ヒーラー』となっていた聖女の招聘の機会を窺っていた。
「マジだよ、カルロ。現地にいるSランクの盗賊の協力を得られてね。検死も立ち合ったけど、内臓がずたずたにされていたよ。勇者ローランドが操る闘気によるもので間違いない」
「……ふざけやがって。レイモンドが簡単に殺される筈がねえだろうが。一体どんな卑怯な手を使いやがったんだ」
カルロが顔を歪め、ギザギザの歯を剥き出しにして軋らせた。額には青筋が浮かんでいる。
「うん。寝起きに会話をしていた処、いきなり豹変して剣で貫かれたとか。いくら不屈と称されたレイモンドでも無理だね」
「クズかよ。……で、ローランドってヤツは何処にいる?」
「あっちのイモムシみたいなのがそう。……夜な夜な奇声をあげるんだよ。もう寝不足でかなわない。勇者っていうより闘気を使えるだけのおかしいヒトだよねえ」
ヴァレンティノが苦笑いを浮かべながら、ひきずられてじたばたするローランドを指をさした。
「アイツか。数発ぶちのめしても構わんよな。……それよりヴァレンティノ、件の聖女様は連れてこれなかったのかよ」
件の聖女様とは、レイモンドが招聘しようと考えていた聖女エリアの事である。
ガンテツやグレゴリーの事情聴取によれば、彼女はローランドの凶刃にかかり殺されかけていたらしい。
「え。……ああ、ぼくたちが駆け付けた時はローランドの拘束は終わってたから。聖女様を保護したりする大義名分がなかったんだよ」
「そんな事情は知らねえよ。……最高聖女様が御立腹だ。捕らえた爆ぜる疾風の三人、それとお前たち二人も呼び出しがかかってる」
カルロの発言に、サンドラはあっけにとられた表情を浮かべた。
「呼び出し……えっと、あの、わたし最高聖女様に会うのは初めてなのですが。……つ、捕まえた状況の説明をすればいいんですよね?」
「遺書なら預かっておく」
冗談を微塵も感じさせない声色でカルロが言うと、目を大きく見開いたサンドラの身体がにわかに震え始めた。




