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65.初依頼の完了

 

 スレイは自室のベッドに横たわり、ぼんやりと考え事をしていた。

 

(……Bランクポーション一二〇本で金貨一二〇枚か。クラリッサ、それとエリアとヘンリーに護衛として金貨二〇枚ずつ支払っても、手元に金貨六〇枚。……運が良かったっていうのもあるが一日の労働としては結構な稼ぎだな)


 錬金術師は儲かる。基本として貴族が占有している職業で、かつ変成術という革新的かつ難易度の高い稀少魔法が必須となれば、それは当然なのかもしれない。

 今回のBランクのマジックポーションにしても今の市場価格は二倍である。もし流通価格となっている倍で売れば手元には金貨が一八〇枚残る処だった。一日金貨一枚で生活すると仮定すれば半年は暮らせるほどの額面である。


「スレイ、考え事?」


 すぐ近くの床ではヘンリーが、ロイドの身体にモフったまま身体を横たえていた。

 ヘンリーとロイドの親密度はエリアとスレイに次いで高い。彼も『爆ぜる疾風(ブラストウィンド)』時代はロイドに助けられたり、ロイドの回復を行ったりしている間柄だからである。


「ああ。いや、錬金術師は儲かるなって思ったんだよ」

「稀少な職業だし、専門的な技術が必要。貴族が就く仕事だから、それはまあそうだろうね。いいじゃないか儲けたって。またクラリッサを護衛として雇ってあげたらいいだろう」 

「……そういや、クラリッサさんは随分と酔ってたが、大丈夫なのか」


 しばらく返事がなかったが、やがてヘンリーの声が聞こえてきた。


「夕食の愚痴を聞いた限りだと、例の教授以外にも色々あるみたいだね。……魔術師や学生に富裕層が中心っていうのもあるし、エルフが珍しいのもあるのかな。文化の違いもあるか。……彼女って色々目立つだろう。言い寄られたり嫉妬されたりと」

「……ああ、何となくわかるな」


 一部は本人の問題もあるかもしれない。スレイはルーンマウンテンでハグされかけたのを思い出していた。

 とりあえず明日にはマジックポーションの引き渡しが出来ればいいと思いつつ、スレイは眠りについた。

 

     ◇


 翌日。目を覚ましたスレイが階段を降りるとクラリッサが待っていた。エリアも一緒である。

 既にテーブル一面に並べられていたマジックポーションはなかった。クラリッサが亜空間部屋(サブスペースルーム)に収納したのだろう。

 彼女は昨日見かけた時のような赤ら顔ではなく、顔つきも普段通りに戻っていたが、どこか気まずそうな表情である。

 綺麗なサファイア色の髪は少し寝癖で跳ねていた。


「おはよう。起きたらヘンリーが居なかったな。ここじゃなかったのか」

「三〇分前ほど前に帰りました。スレイさんに声をかけても起きなかったので寝かせておきたいと。よろしくと言ってましたよ」

「……そうか。そりゃ悪い事をしたな。まだアイツの報酬を払ってないんだが」


 スレイは階段を下りる際、筋肉痛が起きている事に気付いた。普段から歩くように心がけていたが、往復で一〇時間近くになる移動は流石に身体に来ないはずもない。獣巨人(トロール)との戦闘やポーション作製の際も、普段使わない筋肉を酷使している。


「あの。……スレイさん、すみませんでした」


 神妙な表情を浮かべたクラリッサの第一声は謝罪だった。


「いや。まあ気にするなよ。……酔ってなさそうだな。エリアに治療して貰ったのか」

「はい。ヘンリーさんには夕飯を奢って貰って。……皆のお世話になってしまって、何と言っていいのか」

「気にするな、学生の身だろ。皆、冒険者の頃に稼いだ貯えがあるからな」


 まだ若いんだから言おうと思ったが、実年齢は彼女の方が高いと思い、それは付けなかった。何よりおっさん臭いと思ったからである。


「……もし本当に困窮したなら遠慮なく言ってくれ。途中で退学なんて面白くないだろうし。……まあ、ヘンリーもいざって時は手助けしてくれると思う」

 

 スレイは椅子に座り、引き出しから領収書を取り出すと、羽根ペンを走らせてクラリッサに手渡した。


「はい。クラリッサさん」

「……あ、わたしの事はクラリッサで結構です。そう呼んでくれませんか」

「わかった。クラリッサと呼ぶよ。また機会があれば雇わせて貰うけど。当面の生活は大丈夫なのか」

「えっと……しばらくは。まだまだ稼がないといけません。魔術師ってお金がかかるんですね」

「学問を教わる施設は基本そうだよ。魔法学院は特にな。そういえば魔術の認定はどこまで進んでるんだ」

「Bランクです。……そこまで才能ないのかなって。ヘンリーさんみたいに天才だったら良かったんですけど」

「ああ、俺と一緒か。……Aランクの壁って高いんだよなあ。到達すれば世界が変わるってヘンリーが言ってたけどな。簡単じゃない」


 魔術Bランク認定を貰えれば魔術師としては一人前と言っていい。

 革新的ともいえる収納魔法亜空間部屋(サブスペースルーム)が存在する為、何としてもここまでは到達したいという者も多く、Bランク認定魔術師はそれなりに多かった。

 スレイもほぼ独学で到達している。魔法学院生ならば珍しいものではない。特待生に値しなかったという教授の言い分も通らなくはないだろう。


「今は宿屋暮らしです。去年までは寮暮らしだったんですけど。まあ色々と」

「そうか。もしエリアさえ良ければ、好きに泊っていっていいからな」

「えっと、二人の生活の邪魔をしたら悪いですから。……でも、たまにエリアさんのお世話になりたいです。また素材探しの冒険しましょう。今度来たときはロイドをモフモフさせて下さい」


 クラリッサはスレイとエリアに挨拶をすると、アトリエから去っていった。


「……エリア、悪かったな。二人じゃ狭かっただろ」

「いいえ、色々苦労しているみたいで。何か出来る事があれば手助けしたいと思います。……幸い余裕がある立場なので」


 スレイもエリアも変成術で姿を変えた極光の嵐(オーロラストーム)の成れの果てである霊銀(ミスリル)400グラムを所有している。

 まだ手をつけていないが、いざとなれば生活には困らない。


極光の嵐(オーロラストーム)の欠片か。……そういや、あいつらはそろそろ聖王国に着いた頃かな)


 スレイはふと聖王国に連行された三人、最後の爆ぜる疾風(ブラストウィンド)の面々の悪党顔を思い出していた。




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