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64.マジックポーション作製

依頼のポーション瓶の数を200瓶→120瓶に変更しました。



『変成術。水、魔素(エーテル)──Bマジックポーション』


 ポーション瓶の中で魔素(エーテル)の淡い輝きを見せる無色透明の水は、変成術によってマジックポーションの色とされている青色に染まっていた。

 この青色の液体は魔素(エーテル)の持つ毒性を抑制する効果がある。これによって毒性の低い安全なMP回復薬として機能する。


 錬金術協会では変成術を行う際、まず『変成術』と前置きをした後、『変成前──変成後』の物質名を繋いで詠唱する事を推奨している。これは変成術の成功率を高める唯一のルーティーンと呼べるものである。


 実の処、変成術の詠唱時に行う台詞は必須ではなく詠唱も定まった形式はない。

 発声を行うのは、あくまで脳内のイメージを固着させる為の補助的な役割であり、それによって誤変換を減らしつつ、MPの消耗を緩和させる為のものだった。

 手品のように無言のままで変成術を行うことも可能である。スレイは簡単な物を変成する時、よく詠唱を簡略化させる事があった。

 本当に重要な事は脳内の描き起こしたイメージと物質の分析鑑定能力。つまりは変成術のレベルである。


     ◇


 スレイは依頼されていたBランクのマジックポーション一二〇本の変成を終え、一本一本を慎重に眺めて完成品に間違いがないか鑑定を行っていった。

 変成術の修得には鑑定能力が必須となる。正しく物質のありようが判断出来ない者は変成術を行う事は不可能である。

 錬金術師は能力の差はあれど鑑定能力を備え、変成術は鑑定能力の先にある魔法とも言えた。


 そして二時間ほど作業をもって、一二〇本のBランクマジックポーションが鑑定を含めて完成した。

 アトリエのテーブル一面に並べた青いマジックポーションの瓶が、部屋の明かりに透過して、壁一面が青白くうっすらと輝いていた。

 玄関から声がした。夕食にでかけていた三人がちょうど帰ってきたらしい。


「お帰り。ずいぶん遅かったな。……おいおい、どうした?」


 スレイがアトリエの玄関に目をやると、クラリッサが両腕をエリアとヘンリーによって抱えられ、ぐったりと項垂(うなだ)れていた。

 顔が真っ赤であり視点が定まってない。口からはよだれを垂らしている。


「……少しお酒が入っちゃってる。本当に少しなんだけどこの有様で。強いと言いつつ全然強くないんだ。……まあ、魔法学院の事でいろんな鬱憤が溜まってたみたいだね」


 ヘンリーは困ったような呆れたような、あるいは申し訳ないような、何ともいえない表情だった。 


「そうか。……作製は終わったけど亜空間部屋(サブスペースルーム)が使える状態じゃないよな。エリア、神聖術で治してやれないか?」

解毒治療(キュアポイズン)は受け手が拒絶するとかかりませんから。先ほどから抵抗されてしまって……クラリッサさんが酔った状態を強く肯定されているという事ですね。辛い事があったのだと思います。まず眠って貰わないと駄目かもしれません」


 Cランク神聖術解毒治療(キュアポイズン)ならば、アルコールを抜く事が可能である。

 ただし本人が魔法を拒絶した場合は効果は及ぼさない。酔いを治して欲しい者は治せても、酔いを肯定している者は、その意思を改めて貰わなければ治せないという事になる。

  

「うーん、今日はエリアの部屋で世話をしてやってくれないか? 狭くなりそうだけど、このまま帰す訳にもいかないよな。もう遅いし」

「そのつもりでした。このまま放ってはおけませんね。……あとお酒は控えるように諫めておきます」

「エリアさん……大好き」

「きゃっ!」


 クラリッサがエリアに縋りつくように抱き着いていた。

 何とも言えない光景だが、とりあえず仕事が終わった事を伝えようと思った。酔っているので、また明日改めて言う必要がありそうではあったが。


「つーわけで、クラリッサさん、泊まってっていいからな。マジックポーションは出来てるから」

「あ……スレイさん、えへへ。優しいですね」

「アトリエのテーブル一面に置かれたポーションをいち早く持っていって欲しいだけだよ。それに、まだ報酬の半金を貰ってないだろうが。……ったく」


 スレイは呆れたように大きな溜息をついた。


「スレイ」


 声をかけられヘンリーの方を見ると手に陶器製の器を持っていた。クラリッサを離した後、亜空間部屋(サブスペース)から取り出したのだろう。


「鶏肉とサラダが入っている。夕飯がまだなら温めてから食べるといいよ」

「そういや、まだ飯を食ってなかった。悪いな。……ヘンリーはどうするんだ?」

「僕は帰ろうかな。もういい時間だし。……今から宿の部屋が空いてるかどうかだけど」


 既に午後八時を回っていた。

 遅いという程ではないが、今から宿の部屋が空いているといった保証もなさそうである。


「もう遅いし、泊っていったらどうだ」

「床で寝るのもなあ。……ロイドをモフれるなら考えたけど、エリアの部屋だろうし」

「ヘンリーさん、今日はロイドにはスレイさんの部屋に居て貰いましょう。……クラリッサさんが変に絡むと怖いですから」

「……そっか。じゃあ泊っていこう。……よし、久々にロイドを目いっぱいモフれるぞ」


 ロイドは大人しく優しいが『降伏化』した状態を可愛がる事、そして先ほどのクラリッサみたいにウザ絡みをすると本当に怒る。

 酔った状態のクラリッサの態度はちょっと怪しげだった。シルフの恩恵を得ていたので仲間である認識はしているとは思うが、まだ知り合って間もないので、妙な事をしでかさないか警戒をしておく必要があった。




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