62.親子の再会
あれこれ考えた結果、クラリッサが召喚するシルフの力を借りて急斜面を登り、元の道を引き返す事になった。来た道を辿って帰るのが一番安全と判断したからである。
獣巨人が居た事から別のルートも存在するのは間違いないが、コニーを連れてのリスクの高い移動はなるべく避けたかった。
コニーを夫妻の下に送り届けた後、この源泉に戻り魔素を採取する。
先に採取を済ませるという選択肢もあったが、ポーション瓶一二〇本分の採取となるとかなり作業時間がかかりそうで、早く心配している夫妻と再会させてあげるべきだとスレイたちは判断した。
捜索に参加している魔術剣士団の面々を待たせているという事もある。二度手間は仕方のない事だろう。
「ようやく、わたしがお役に立てそうですね。さっき送還したばかりですけど、もう一度」
急斜面の前に立ったクラリッサが両腕を広げ、手のひらを広げた。
『風精霊召喚』
そしてクラリッサの詠唱が終わると、つむじ風と共に背中に翼を生やした半透明の女性の姿が実体化した。
「我が友、風精霊にお願いします。大いなる風の力をもって、わたしたちを斜面の上まで運んで下さい」
◇
スレイたちが山頂付近の広場に戻ると、ルーンサイド魔術剣士団の四人と共に、コニーの両親が心配そうに待っていた。
急いで飛び出した為、スレイは名前を聞いていなかったが、居残っていたヘンリー曰く、夫はパトリック、妻はメリンダという名前らしい。
「……お父さん、お母さん!」
「ああ、コニー……無事で良かった……ううっ」
コニーとメリンダは御互いに駆け寄り、そして力強く抱き合った。メリンダは涙して嗚咽の声を漏らす。
それを見たパトリックが安堵の表情を浮かべると、スレイに近づいて深く頭を下げた。
「……スレイさん、ありがとうございます。本当にお世話になりました」
「いや、本当に無事で良かった。それに、偶然だが探し物が見つかって……魔素湧きのポイントなんだが、第一発見者はコニー少年という事になるかな」
「……あっ、もし、その事を気にしていらっしゃるのであれば、見つけたものはどうぞ御自由に! 権利を主張出来る立場にはないでしょう。……聞けばスレイさんは見習い錬金術師とか。今度、三人でお礼に伺わせていただきます」
パトリックは再びお辞儀をすると、コニーとメリンダの方に駆け寄っていった。
その様子を見てスレイはほっと一息ついた。まだ本来の仕事の途中だったが、とても大きな仕事を終えた気分である。
「スレイ殿」
入れ替わるように魔術剣士団の男性がスレイに話しかけてきた。濃紺の髪の青年、魔術剣士団の隊長エドガーである。
「……えっと、確かエドガーさんだったかな」
「ああ。エドガーで結構。……本当に助かったよ。パトリック殿は裕福な方でね。魔術剣士団もそれなりに懇意にして貰っているんだ。……もしコニー君に何かよからぬ事があれば、今後の活動にも大きく関わる処だった。ありがとう」
エドガーは小声でスレイに囁くように伝えた後、感謝の言葉を述べた。
「処でスレイ殿。君はSランクパーティーに所属していた実力者らしいね。それと先ほどヘンリー殿に聞いたが、獣巨人を倒したとか」
「実力者……ヘンリーがそう言ったのか? 俺なんてまだまだだよ。獣巨人撃破も、ロイドと協力しての事だしな」
スレイは即座に否定したが、エドガーは首を振った。
「いや。なんでも剣技と魔術のBランク認定を受けているそうじゃないか。大したものだ。……いや、大したものという事にしておいて欲しい。私たちの存在が否定されるようなものだから」
「……ああ、魔術剣士としてはそれなりではあるのかな」
「それなりどころか、剣技か魔術のどちらかがAランク認定を貰えれば隊長になれるよ。……スレイ殿、ルーンサイド魔術剣士団に入らないか? 手空きの時の予備隊員としてでも構わないから籍を置いてくれると嬉しい」
そのエドガーの提案は意外なものだった。スレイの勧誘である。
魔術剣士団の隊長の条件は剣技か魔術のどちらかがAランク認定という事らしい。となれば、エドガーも相応の実力者という事だろう。
「俺が魔術剣士団に? ……悪いがそんなガラじゃないよ」
「魔術剣士団は王国の騎士とは違うよ。主にルーンサイド市の有権者の支援で成り立っている。そこまで厳格な組織ではない。もちろん隊規は存在するが」
エドガーはさらに続ける。
「この魔法都市では、なかなか剣の相手が見つからないだろう。もし訓練相手を探しているならば、それに困らないとは言っておこう」
どうやらスレイを高く評価しているようだった。
スレイ個人としては魔術剣士というのは中途半端というイメージだったが、彼ら魔術剣士団は『剣と魔法の両立』を理念としている。そのイメージを伝える事は控えた。
そして、剣技と魔術のBランク認定を両立は客観的に見れば簡単な事ではない。そもそもBランク認定自体が、その道でのそれなりの実力者である。
ただ、このスカウトは魔術剣士団が懇意にしているというパトリックの恩人になったという事もあるだろうと思った。恩人を団に抱え込めば、魔術剣士団に対する印象も良くなるはずである。
「エドガー、俺は錬金術師という仕事があるから、とりあえず保留って事でいいかな。ただ、先ほどの獣巨人戦闘で剣が鈍っているとは感じたから、予備隊員でいいなら前向きには考えておくよ」
スレイはそう告げると、エドガーは承諾するように頷いた。
「仮入団というのも受け付けている。色良い返事を期待しているよ。……それではスレイ殿、失礼する」
エドガーは伝えたい事を言い終えたのか、一礼した後、スレイの元から離れた。
入れ替わるようにその二人の会話を遠巻きに見ていた、エリアが近寄ってきた。
「スレイさん、モテモテですね」
エリアが嬉しそうに微笑んでいる。この様子だと入団に賛成という事だろうか。
「お礼を言われて持ち上げられるのは慣れないな。むず痒いというか。まあ、折角だから時間があったら様子見で行ってみるよ。……っと脱線したが本来の目的を果たさないとな」
スレイは先ほど居た魔素の源泉がある方角を見下ろした。
コニー少年の件は一件落着ではあるが、魔素の収集という本来の仕事が残っていた。




