36.事情聴取
「……俺様は『爆ぜる疾風』の住家を貰える約束になっていまして。……ヘンリーに罪をなすりつける計画を手伝う事になりました。計画の発案者はグレゴリーです」
ガンテツは事情聴取に対し素直に応答している。
死者甦生によって呼び戻された魂が馴染んでいないせいなのか、幽体離脱による臨死体験によって精神に何かしらの影響があったのか、以前とは性格がまるで変わってしまっているらしい。
強面に似合わぬ優しげな目の輝きが、なんとも言い難い雰囲気を見せている。スレイが噂に聞き及んでいた、悪名高きガンテツと全く印象が違うのは間違いない。
「ガンテツ、お前は住家を貰うとして、グレゴリーはどういう約束になっていた?」
「……あっ、確か聖女様を頂きたいと。……おい、聖女様に手を付けようとは、なんて不届きな野郎だ!」
「今は怒らなくていい。……それだけか?」
「あ……あと、それが無理ならローランドのファンの女性を数名物色したいと言っていた気がします」
「……なるほど。家と女か。らしい理由だな」
心労が激しい他のメンバーに代わって事情聴取を主導しているローザは、ガンテツの発言に納得しているように頷いていた。
一応、ガンテツの証言は筋が通っている気はする。
「グレゴリー。ガンテツがこう言っているが」
「……ひい! 女……怖いいいいいいぃ!」
グレゴリーはローザの問いかけに対し拒絶反応を示した。
召喚されたドライアドに魅了を受けて行動不能になった後、全身を蔦で締め上げられ続けた後遺症かもしれない。
エリアの神聖術すら拒否する有様で、そういった事情もあり、ヘンリーが通常回復で治療を行ったばかりである。
「コイツまで性格が反転したのか。良い事だとは思うが。……ヘンリー、聴取を頼めるか?」
ヘンリーが頷くと、ローザに代わってグレゴリーの前まで来た。
「グレゴリー、ガンテツがああ言っているが、どうなんだ?」
「……ああ、大体はガンテツの言った通りだよ。ローランドが殺って俺が謀略を考えた。だけど聖女様については、お誘いしたいと言っただけだぜ! ……ああ、もう女は勘弁してくれ、顔も見たくない」
狼狽しながらも、グレゴリーは続けた。
「……どうしてレイモンドを殺したのかは知らないが、たぶん聖女様絡みの対立だろ。後はレイモンドが聖王国の密偵だどうだって憤ってたな。……もし野薔薇の仲間が見張ってたっていうなら、より詳しく聞けるだろうさ」
ヘンリーに一応回復して貰った事もあってか、グレゴリーも観念したように悪巧みの事を洗いざらい語りだした。
彼は女癖が悪くて有名な盗賊らしい。本当にエリアを誘うだけだったのかという疑念はあったが、エリアが居る手前、この場では根掘り葉掘り聞かない方がいいように思えた。
そしてガンテツと証言はそれほど違わず、すり合わせでもしてなければ、大まかな部分での嘘はなさそうに感じた。
ガンテツとグレゴリーの話を聞いていたエリアは呆然とした様子で酷く落胆していた。瞳に光が宿っていない。
自らが報酬に含まれていた事のおぞましさもあるとは思うが、何よりもレイモンドが殺されるきっかけに間接的に関わってしまった事を察してしまったのかもしれない。
ローランドとレイモンドの間に起きた争い事に対し彼女に非があるはずがない。その争いに責任を持てというのは理不尽な話である。
だが、エリアの性格からして気に病むだろうと思った。パーティー離脱から既に一カ月半近く経ち『爆ぜる疾風』の冒険の記憶が薄れかけていたスレイですら、レイモンドの訃報に少なからず衝撃を受けている。
エリアは青ざめた顔で、何とかロイドの方に近寄って身体を預けた。
「……ロイド、いい子にしていましたか……ああ、ずっと、会いたかった……」
エリアは膝をつくとロイドを抱きしめて縋りつくように泣いていた。
彼女にしか出来ない難易度の高い甦生処理も終わり、二人の証言を聞き終えて、いよいよ糸が切れてしまったのかもしれない。
ロイドも、もう一人の主人とも言えるエリアを気づかう様に、大人しくされるがままになっている。
スレイは、エリアとロイドを引き離してしまった事の責任を感じつつも、何ともやりきれない気持ちで、その様子を見ていた。
「スレイ、久しぶり。本当に助かった。……ローランドの剣がおかしな事になっているけど……あれは変成術で?」
スレイの元に来たヘンリーが黄金の塊と化した、ローランドの愛剣だったものを見て呟いた。
「まあそんな処だ。勿体ない事をしたとは思うが、あの状況じゃ仕方ない」
同じ価値の王金の剣に戻す事は可能だが、製作者が魔剣に籠めた特殊効果付与までは元通りにならない。不可逆である。
変成術をさらに人外の領域まで極めれば、極光の嵐の特殊効果付与を含めた変成も理論上は可能であり、世に再現出来ない物質は存在しないはずだが、少なくとも師の力を継承しているスレイもその領域には到達していなかった。
「……それよりエリアが心配だ。いくらなんでも本人の関係ない処で酷すぎるだろ」
「……ああ、この件を除いても、ブリジットの追放とか本当に色々あったんだ。もし出来たらロイドの傍に居られる環境を用意してあげてくれないか」
スレイのつぶやきに対しヘンリーが応答した。彼の声も元気がなく気落ちした様子がありありと窺えた。
どうやら、この一カ月半の間でブリジットの追放が行われたらしい。どういった経緯でそうなったかまでは分からないが、少なくともエリアやヘンリーが主導したという事はないだろう。
「僕としてもレイモンドの事はショックだ。……君が居なくなってから『爆ぜる疾風』は本当にどうにもならなくなってしまった。責任を感じている」
「ヘンリー、お前だけのせいじゃないだろ。……レイモンドのおっさんは、確か聖王国の聖騎士だったよな」
「ああ。かなり問題になると思う。……レイモンドは聖王国でも結構偉い立場なんじゃないかなって。僕たちが五年前パーティーを組んだ時も、レイモンドは最初から強かったから。聖王国でも名うての騎士だった事は想像が付く」
スレイは顔をしかめながら、泡を吹いて倒れているローランドの方を見た。ヘンリーが『通常回復』で治療を行い、手が元通りにならないショックによって気絶してしまったのである。
ローランドのやらかした事は波紋を広げる事になるかもしれない。
聖王国についてスレイは詳細な知識はなかったが、世襲制ではなく選出によって聖王と呼ばれる指導者が決められる宗教国家。
そして、このセントラル王国にも劣らない力を持つ大国であり、秘密めいた部分も多く一筋縄ではいかない国という事を知っていた。
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