第五十七話 心身共に醜い姉
「結婚? 君の口から出るだなんて、少し驚いたよ」
「……自分で言っておいてなんですが、私も驚いておりますわ。あなたの優しさを感じながら、前向きな話って考えたら、自然と口にしてました……」
自分の気持ちには、嘘偽りはないけれど、だからってこんな場所で結婚の話をするのは、あまりにも時と場合が適していない。俗にいう、完全にやってしまったってやつでは無いかしら……?
「僕も、君と早く結婚をしたいんだ。ただ、僕達としては、ソリアン国に慣れる前に結婚するよりも、ある程度慣れてからの方が良いと思っていたんだ。でも、それがかえって君を悩ませることになっていたとはね……浅はかな考えだった。ごめんね、セリア」
「あなたやフェルト殿下のことですから、きっと何か考えがあるのはわかってましたの。だから、言うつもりは無かったのですが……はあ、まさかこんなぽろっと言ってしまうだなんて……私こそ、申し訳ございません」
まさか、私の環境を気にしてだったのね。外国って、結構慣れるまで大変と聞きますしね。
お城の人があまりにも優しくて親切で、体のケアもたくさんしてくれたり、見かけたらお喋りしてくれたり、お茶をしたりと、色々気にかけてくたおかげで、もうソリアン国の人間と言っても過言ではないと思うわ。
「それじゃあさ、全部が終わって、君が見た予知とやらも全て打ち破って帰ったら、結婚しよう」
「い、いいのですか?」
「ああ。もちろん、色々と準備があるから、すぐにとは言えないけどね。一生で一度の晴れ舞台なんだから、完璧に準備をしなくちゃね」
私の腕の中で、アルフレッドは短い手をシュッシュッとやって、気合が入っていることを示している。その姿が、あまりにも可愛くて、アルフレッドにキスをしてしまった。
「急にされると、恥ずかしいものだね」
「私も恥ずかしかったですわ」
こつんっと、互いのおでこをぶつけ合いながら、クスクス楽しそうに笑っていると、部屋の中に声が聞こえてきた。
「失礼。姉君のジェシカ様がお呼びですので、至急お向かいください」
「はい」
気は進まなかったが、私はお姉様がいると聞いた私室に入ると、そこには思わぬ光景が広がっていた。
一体何があったのだろう? 家具はメチャクチャで、あちこちが傷だらけだ。テーブルの周りには、よくわからない薬が散らばっている。
そんな部屋にいる当の本人は……昔の美貌なんて信じられないくらいやつれてしまっていた。肌の艶も悪く、髪も手入れをされていない。特にストレスなのか、顔色が悪い。
私がいなくなったらこうなったというのを見られたのは、僥倖かもしれない。ふふっ、ざまぁないわね……!
「セリア……! あんたのせいで、私がどれほど迷惑をこうむったと思いますの!? 私の栄光は消えたのよ!? どうしてくれるのよぉ!! お前のせいで、私の人生メチャクチャじゃないの!!」
もはや怒りの化身となったお姉様は、手当たり次第に私に魔法や暴力を振るって、溜まりに溜まった鬱憤を晴らす。
でも、鬱憤はこちらだけじゃない。むしろ、私の方が年季があるわ。この程度のことで怒るだなんて、笑ってしまうくらいにはね。
「国を出る時のは、自業自得ではありませんか。まさに、勝手に自爆しただけ。私は、お姉様やお父様の愚かな姿を、皆様に見せただけにすぎません。ただ、さすがにあの時はやり過ぎだと後悔したので、その贖罪のためにも、国や王家のために誠心誠意働くつもりです」
危ない危ない、思わずもっと言いたい放題言ってしまうところだった。なんとか後半は心を入れ替えたようなことを言えてよかった。
とはいっても、これ以上会話を長引かせるのは良くなさそうだ。早々に打ち切って、部屋に戻るとしよう。
「それで、用事というのは?」
「別に用事なんてありませんわ。憎いセリアに仕返しがしたくて仕方がなかったのですわ!」
あの、あなたは暇なの? 今のあなたの立場を考えたら、もっと他にすることってあると思うのだけど。我が姉ながら、この愚かさには頭を抱えてしまいそうになる。
「そうでしたか。たくさん暴言を吐いて仕返しは出来たようですので、私は失礼しますわ。私、たくさん頑張りますから、またこれからよろしくお願いいたしますわ」
「ま、待ちなさい! こんなので足りるわけが――」
無理に相手をすれば、また言いがかりをつけられてしまうから、とても強引に話を打ち切って部屋を後にする。
部屋に戻ると、アルフレッドが嬉しそうにお出迎えをしてくれた。
「おかえり。何か嫌なことがあったりしなかったかい?」
「まあ、それなりには」
「よし、即座に叩き潰そう」
「さすがに早すぎますから!」
身軽なのは良いことだけど、まだ何も情報が手に入っていないのに動いてしまっては、なんの意味もないのは、アルフレッドだってわかっているだろう。
それでも、私になにかあったらすぐに行動をしてくれると、私って本当に大事にしてもらえているんだなと思えて、口元が緩んでしまうわ。
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