第五十三話 伝わるドキドキ
ついに迎えた帰国の日。私はアルフレッドと一緒に、フェルト殿下にお城のとある一室へと呼び出されていた。
「おはよう。二人共、よく眠れたかね?」
「はい、おかげさまで」
「僕も問題ありません」
……実は、緊張であまり眠れなくて、気を紛らわるためにぬいぐるみを抱っこして過ごしていたことは、ここで言う必要もないだろう。
「父上、何のご用でしょう?」
「アルフレッドを安全にセリアと一緒にいられるように、手はずを整えたのだよ。入ってきたまえ」
フェルト殿下の呼びかけに答えて部屋に入ってきたのは、私に魔法を教えてくれている、レイラ様だった。
「皆様、おはようございます」
「おはようございます。もしかして、レイラ様が力を貸してくださるのですか?」
「はい。微力ながら、アルフレッド様を安全にカルネシアラ国に入れるようにいたします。では早速……アルフレッド様、失礼いたします」
そう言うと、レイラ様はアルフレッドに手をかざす。すると、アルフレッドの胸元に魔法陣が出現し、アルフレッドの体を光で包み込む。
「……えっ?」
光が収まると、そこにいたのはアルフレッド……によく似た、とても小さなぬいぐるみのようなもの。いや、ぬいぐるみというより、物語に出てくる、可愛らしいマスコットキャラクターに近いかもしれない。
「わぁ、可愛いですわ……! 是非私のぬいぐるみの家族の一員にしたいです!」
「では、戻ってこられた際にいくつかお作りいたしましょう。実は私、裁縫が趣味でして。ぬいぐるみを作るのも出来るのですよ。少し趣向を変えて、あみぐるみも良いかもしれませんわ」
「それは楽しみ……って、その話は置いておいて……アルフレッドはどこに行ってしまったのですか?」
「そこにいらっしゃいますわ」
そこにって……まさか、この可愛らしいものが、アルフレッドだというの? 私、てっきりアルフレッドを模して作った魔法人形で、本人は転移魔法か何かでこの場からいなくなったのかと思っていたわ。
「レイラ、これはどういうことなんだい? これでは少々動きにくいよ?」
「アルフレッド、その姿で喋れますの?」
「ああ、普通に意識はあるよ」
「普通にカルネシアラ国に向かえば、すぐに気づかれてしまうでしょう。なので、これはその対策です」
なるほど、これならアルフレッドがカルネシアラ国に入ったとしても、アルフレッド本人だってバレる心配はないだろうけど……。
「透明化の魔法も考えたのですが、あの魔法は強力な分、持続時間が恐ろしく短いので、持続時間が長い小型化の魔法を使わせていただきました。ぬいぐるみに見えるように改良もしましたので、ぬいぐるみとして欺くことも出来ますわ」
「ただ、これでは国境を超える際の持ち物検査で、魔力探知に引っ掛かってしまいますわよね?」
「そうだね。ましてやカルネシアラ国は、他国に気づかれないように、戦争の準備をしているはずだ。いつも以上に、国に入ってくるもの、国から出ていくものに気を使っているはずだ」
そもそもの前提として、国境を超える時は、必ず身分証明と持ち物検査をされる。私とリズがここに来た時にそれをされなかったのは、事前に私達が、ソリアン国の王家が連れてくることを知らされていたという、特例だったからだ。
「それも織り込み済みですわ。小型化の魔法と共に、魔力遮断も行っております。これで、今のアルフレッド様は、どこからどう見ても、可愛らしいぬいぐるみにしか見えません」
「なるほどね。とても良い案だと思う」
「しかし、この魔法の影響で、アルフレッド様の魔法の力の大部分も抑制されてしまいます。使えないわけではありませんが、いつもの一割程度になってしまうでしょう。解除はアルフレッド様の意思でいつでも可能ですが、小型化の魔法と紐づける形になっているので、魔力を戻すと姿も戻ってしまいますし、再びぬいぐるみには戻れませんので、お気をつけください」
「ああ、わかった。色々とありがとう、レイラ」
「……本当でしたら、もっと不便が無いような、魔法を組みたかったのですが……私の力が足りず、申し訳ございません」
「気にすることはないよ。むしろ、この短期間でここまで準備してくれたことに、感謝しかないよ」
さすがアルフレッド、どんな時でも優しくて紳士的な人だ。見ているだけで、胸がキュンとなってしまうわ。
「では、手筈通りに行動をするように。最後になるが……アルフレッドにセリアよ。必ず元気な姿で、余の元に帰ってくるように」
「父上……」
「はい。必ず朗報をもって、二人で帰ってきますわ。では……行ってまいります」
私は、小さくなったアルフレッドを抱き抱えながら、外に用意してあった馬車に乗りこむと、リズやたくさんのお城の人達に見送られながら出発した。
……こんな形で、祖国に帰ることになるとは、人生って本当にわからないわね。これがもしかしたら、新たに書き換えられた、私の破滅への道かもしれない。気をつけて行動をしないとね。
「こうしてセリアに抱っこされているというのは、なんだか不思議な気分だね」
「確かにそうですわね。普段なら、体格は私の方が圧倒的に小さいですから、どちらかというと私の方が抱っこされる側ですしね」
「ところで、どうして僕の頭を撫でているんだい?」
「えっ? あっ……」
私はいつも、ぬいぐるみを抱っこしている時は、どこかしらを撫でている。その癖が無意識に出てしまい、アルフレッドの頭を撫でてしまっていたようだ。
「も、申し訳ございません! つい癖で……!」
「あははっ、気にしなくていいよ。君に撫でられるのは、新鮮でいいし、君の緊張が解れるなら、恋人冥利に尽きるしね」
「私が緊張しているの、おわかりなのですか?」
「もちろん。君のことは何でもわかるよ。それに、君の心臓の鼓動が、とても早くなっているのが伝わってきているよ」
どうして、アルフレッドに私がドキドキしているのがわかるのだろう。その答えは、至って明確だった。
「あ、ああ……」
「セリア?」
そう、私はいつものように、ぬいぐるみを抱っこしている。いつもと違うのは、それはぬいぐるみではなく、小さくなったアルフレッドということ。
そんな彼を、ぬいぐるみのように抱きしめたということは。私の胸やお腹を、アルフレッドに押し付けたということに……!?
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
あまりの恥ずかしさに絶叫した私は、アルフレッドのことを思い切り上に向かって投げ飛ばしてしまった。その結果、アルフレッドは当然キャビンの天井に体を打ち付け、そのまま床にぽてっと落ちた。
「ぐふっ……な、ナイス投げ飛ばし……」
「あ、アルフレッド!? ごめんなさい! しっかりしてくださいまし!」
「ぼ、僕は大丈夫さ……これは、男としてまったく気遣えなかった、愚かな僕への罰だからね……がくり」
「アルフレッドー!?」
なぜかとても良い笑顔をを浮かべたアルフレッドは、私の腕の中で静かに息を引き取った――なんてことは無く、すぐに目を覚ましてくれた。
……はあ、これから大仕事が控えているというのに、私は一体何をしているのかしら。私の双肩には、二国の未来がかかっているのだから、もっとしっかりしないと……。
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