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【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です  作者: ゆうき


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第五十二話 それぞれの戦場

 カルネシアラ国の民と、ソリアン国を救うために一大決心をしてから数日後。いよいよ明日に作戦を控えていた私は、リズの淹れてくれたおいしいお茶を飲んで、ゆっくりと過ごしていた。


 いつもと変わらない日常の光景は、明日に大仕事が控えているとは、とても思えないものだった……ある一点を覗いて。


「…………」


 それは、リズがずっと落ち込んでいるというか、ふさぎ込んでしまっていることだ。

 私がお城に行くことを話した時から、リズも一緒に行くと言って聞かず、そのたびに断った。それからというもの、何度断っても行くと言い張り、私は拒絶するを繰り返している。


「リズ、そんな暗い顔をしないでくださいな。せっかくの可愛らしい顔が台無しですわよ?」


「からかわないでください!」


 リズは目じりに沢山の涙を溜め込みながら、テーブルをバンっと叩いた。


 少しでも重苦しい空気を変えるために、慣れない軽口言って場を和ませるつもりだったが、どうやら失敗だったようだ。


「やっぱり、明日はわたしも一緒に行きます! セリア様とアルフレッドだけを危険な場所に行かせるだなんて、そんなの絶対にダメです!」


「何度も言っているでしょう? これは私とアルフレッドに託された、大事な役目。あなたを巻き込むわけにはいかないの」


「でも……!」


 これ以上は、優しく言っても意味がない。そう思った私は、一度大きく深呼吸をして心の準備をしてから、あの時に家族にした時と同じような気持ちで、リズに言葉を続ける。


「この際だから、はっきりお伝えしますわ。私はお父様を欺くため、アルフレッドはその魔法の腕を買われたから選ばれたのです。その中にあなたがいても、何の役にも立ちませんわ」


「なっ……!? わ、わたしは邪魔だといいたいのですか!?」


「その通りです。ただの使用人風情が、国家の問題に口を出して力になれるとでも? もし本当にそう思っているのなら、それはとんだ傲慢ですことよ。わかったら、大人しくこのお城で掃除でもなさい。それが、田舎者のあなたにはお似合いでしてよ」


「っ……!! わたしは、お友達として……あなたの力になりたかっただけなのに……セリア様のバカっ! わからずや!!」


 なるべくリズが怒るように、わざと家族を煽っていた時のような態度を取ったおかげで、リズは顔を真っ赤にさせながら、その場から走り去っていった。


 ……祖国を出た時から、ずっと私と一緒にいてくれて、仲良くしてくれた大切な友人を守るためとはいえ、酷い言葉をぶつけるのは……想像以上に、胸が痛い。まるで、胸を鋭利な刃物で抉られたかのようだ。


「……せっかくの初めてのお友達だったのに……守るためとはいえ……ぐすっ……リズにもつらい思いをさせちゃって……きっと、嫌われちゃいましたよね……」


 ベッドの上に置かれているぬいぐるみ達を抱っこしていると、お友達を失った喪失感や、お友達を傷つけてしまった罪悪感と悲しみで、涙が溢れてきた。


「セリア、少しいいかな」


「え、ええ……」


 ほとんどリズと入れ違いで、アルフレッドが部屋にやってきた。


 危ないところだった……もし今の顔を見られていたら、絶対に心配をされる。それは避けたいところだ。


「……良かったのかい? あんな心にもないことを言って突き放して」


「聞いていたのですか?」


「部屋の前に来たら、ちょうど聞こえてきたんだ。様子を見に来たんだけど、まさかタイミングがピッタリだったとは」


「そうでしたか。ああでも言わないと、彼女は引きませんから。彼女を守るためなら、喜んで悪役になりますわ」


「君に悪役、か……彼女を守るために、彼女以上に傷ついて涙を流す君には、冗談でも似合わない呼称だね」


「…………」


 アルフレッドに心配をかけないように、私はベッドの上に座って、ずっと背を向けていたのだけれど、どうやら簡単に見抜かれてしまったようだ。理解されすぎているのも考えものね。


「似合わなくても、やり遂げなくてはなりません。一国の主の計画を崩壊させる、悪役に」


「それは違うよ。僕達は、白馬に乗った王子様も、祖国を救う聖女……君は悪役じゃなく、正義の味方ってことさ」


 正義の味方か……悪い気分はしない。ただ、自分にこの名前は、少々過剰なような気もしてならないわ。


「さて、僕はちょっと急用が出来たから、失礼するよ」


「そうですか……もっと一緒にいたかったですわ……」


「ごめんよ。この埋め合わせは必ず。じゃあ……」


 去り際に、アルフレッドは私に触れるだけの優しいキスをしてくれた。


 ……急に部屋が静かになってしまったわね。一人ぼっちの静かさなんて、慣れっこだったはずなのに……今は、苦しくて仕方がない。



 ****



■リズ視点■


 セリア様の酷い言葉から逃げるように廊下を走ったわたしは、途中で力尽きてしまい、壁を背にして座り込んだ。


「わたし、本当に情けない……! わたしがもっと強かったら、セリア様を守れたのに! わたしのせいで、言いたくもないことを言って、セリア様が傷つく必要なんて無かったのに!」


 これでも、ここに来てからずっとセリア様のことは見てきた。だから、あの人がとても優しい人で、イジワルであんなことを言う人じゃないって、私にはわかっている。


「やはり君も優しいね」


「……あ、アルフレッド様? どうして?」


「実は、君が出ていくところを見ていてね。セリアと少し話をしてから、追いかけてきたんだ」


「そうなんですね。それで、私になにかご用ですか?」


 私の質問に対して、アルフレッド様は深々と頷いていた。


「セリアの先ほどの発言の件だ」


「ああ、心配してくれるんですか? 大丈夫ですよ。あんなの、セリア様の本心ではありませんから」


「わかっていたのかい?」


「あんなの、明らかに無理しているのがバレバレじゃないですか! なのに、それに言い返せるほど自分に力が無くて、八つ当たりをして、逃げだすしか出来なくて……本当に、自分が情けない……今日ほど、自分の弱さを呪ったことはありません……」


「そんなことはない。確かに君は、潜入作戦においては力になれないかもしれない。だからといって、君が役立たずの烙印を己に押すのは、まだ早いんじゃないかな?」


「えっ……?」


「セリアと僕には、どんなことがあっても帰ってこられる家がある。それを守る仕事だって、とても重要なものなんだよ」


「帰ってこられる家……そっか、お手伝いの方法は、なにも一つじゃないですよね。それぞれに適した戦場があるってことですよね!」


「ああ、その通りだ」


 そっか……そうだよ! 戦うことが全てじゃない! 他にもするべきことは、たくさんあるんだ! なんでこんな簡単なことすら考えられなかったんだろう!


「わたし……行かなくちゃ!」


「行くって?」


「セリア様のところです! わたし、酷いことを言ってしまったので……謝りたいんです! そして、わたしはわたしの戦場で頑張るんだって、お伝えしたいのです!」


「とても良いことだと思うよ。きっとセリアは、まだ部屋にいるはずだ。さて、おじゃま虫の僕は退散退散っと」


「おじゃま虫なんかじゃありませんよ~!」


 ややおどけた感じで小走りに去っていくアルフレッド様に、わたしは深々と頭を下げた。

 あなたのおかげで、出発前に仲直りが出来そうだよ。本当にありがとう、アルフレッド様!


「セリア様~!!」


 私は全速力でセリア様の部屋に走ってくると、ノックもしないで部屋に飛び込んだ。


「り、リズ? えっと……」


「わたし、あなたに言わないといけないことがあるんですっ!」


 少し乱れた息を整えてから、わたしは大きく息を吸い込んだ。


「「ごめんなさいっ!!」」


「……へっ?」


「あ、あら……?」


 まさか、わたしと同時にセリア様が頭を下げるなんて、想像していなかった。思わず、間抜けな声が出ちゃったよ。


「私、あなたを守るために、あなたに嫌われれば良いと思って、酷いことを言ってしまいました。本当に申し訳ございませんでした!」


「わたしこそ、感情に身を任せて、酷いことを言ってしまいました……ごめんなさいっ!!」


「あなたは悪くありませんわ。私が悪いのです」


「いえ、わたしが悪いです! セリア様はなんにも悪くありません! わたしが弱いせいで、あなたに心にもないことを言わせてしまったんです!」


 互いが一歩も譲らずにどちらかが悪いと言い合い、頭を何度も下げる光景は、傍から見たら滑稽に見えそうだ。

 現に、何度もそれを繰り返すわたし達も、それが面白くなってしまい、クスクスと笑いだしてしまった。


「ふふ、なんだかおかしいですわね。それで、やっぱりあなたはついて来ようとしますの?」


「違います! わたしは、ここでお留守番をして、あなた達がいつでも安心して帰ってこられるように、家を守ります! そして、あなた達が無事に帰ってくることを祈ってます!」


「リズ……ありがとうございます。とっても心強いですわ」


 セリア様は、本当に嬉しそうに笑いながら、わたしのことを優しく抱きしめてくれた。


 無事にセリア様と仲直りが出来て良かった。これで仲違いをしたまま出発なんてさせてしまったら、わたしは一生後悔したと思う。大切なことに気づかせてくれたアルフレッド様には、感謝してもしきれないよ。



ここまで読んでいただきありがとうございました。


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