第四十九話 今こそ恩を返す時
■リズ視点■
セリア様が倒れてから、既に一週間の時が経ってしまった。セリア様は、今日も静かに眠ったままだ。
「セリア様……」
とても穏やかに寝息を立てるセリア様の姿は、ただ眠っているだけにしか見えない。でも同時に、その穏やかな眠りを受け入れて、永遠に目覚めないんじゃないかという、嫌な考えが脳裏に浮かんでは消えていく。
嫌なことを考えちゃダメだ。セリア様は絶対に起きて、またリズって呼んでくれる。それを信じて、わたしはセリア様の看病を続けるんだ。
「セリア様、今日は良いお天気ですよ。こんな素敵な日は、バルコニーでゆっくりお茶とケーキを楽しむのが一番ですよね。あっ、セリア様にはアルフレッド様とデートの方が良いかもですね」
わたしは、部屋のカーテンを開けて、部屋の中にたっぷりとお日様の光を入れながら、眠るセリア様に声をかけ続ける。
「セリア様がアルフレッド様と恋仲になれたのは良いですけど、だからってわたしのことを蔑ろにしたら寂しいですよ? 元気になったら、わたしとも遊んでくださいね? 実は、一緒に行ってみたいお洋服屋さんとか、お菓子屋さんとかあるんですよ!」
「…………」
「そうそう、昨日仕事仲間の女性から聞いたんですけど、最近可愛いぬいぐるみを扱っているお店がオープンしたそうですよ! そろそろ、この子達にも新しい家族をお迎えするのもいいですよね!」
大好きなぬいぐるみの話をしても、セリア様から反応は返ってこない。それでも、わたしはめげずに声をかけ続ける。いつか、セリア様が反応して目を覚ましてくれる日が来るまで、ずっと……ずっと声をかけ続けるんだから。
「それで――」
「リズ嬢、アルフレッドだ。入っていいかな?」
「あ、はい! どうぞ!」
部屋の中に入ってきたアルフレッド様の手には、お見舞いの花束があった。色とりどりはお花で、見ているだけで明るい気分になれそうだ。
……って、確かアルフレッド様って、今は凄く忙しいはずだよね? 確か、例の予知が戦争のことじゃないかということで、秘密裏にその対応をしているって聞いたんだけど……。
「お見舞いに来てくれたんですか?」
「それももちろんだが、君の様子を見に来たんだ。体調は大丈夫かい?」
えっ……わたし? あはは、アルフレッド様って本当に優しい人だね。ただの使用人の心配をする偉い人なんて、聞いたことがないよ。
「君、もう何日もまともに休んでいないそうじゃないか。少しは休んでおかないと、セリアが目を覚ました時に心配をかけてしまうよ」
そういえば、ちゃんと寝たのって、何日前だったかな? 今では、寝不足で心配されないように、慣れないお化粧でクマを隠している状態なんだ。
「お気遣い、ありがとうございます! でも、セリア様のためにもっと頑張りたいんです」
「君の気持ちはよくわかるが……」
「わたし、セリア様にはとても大きな恩があるんです。ほとんど話したことのないわたしのことを心配して、わたしのために実家に帰してくれて……セリア様だけ、わたしの味方をしてくれました。それに、わたしとお友達になってくれて、今まで親しくしてくれました」
「リズ嬢……」
わたしは、とても冷たくなっているセリア様の左手をギュッと掴みながら、言葉を続ける。
「だから、今度はわたしがセリア様のために頑張る番です! この程度の徹夜なんて、余裕です!」
「……わかった。それなら、僕もここに残って看病をするよ」
「えっ? でも、確かアルフレッド様は、あの予知のことで忙しいって聞いているんですけど……」
「今日までセリアを看病してくれた君や、多くの人達の協力のおかげで、少し余裕が出来たんだ」
「そうなんですか? それじゃあ、一緒にセリア様に看病をして、起きた時にびっくりさせちゃいましょう!」
「ははっ、それは名案だ。どんな顔で驚いてくれるか、今から楽しみだ」
いつものように明るい笑顔を浮かべるアルフレッド様は、私とは反対側に椅子を置いて座り、セリア様の手をギュッと握った。
「セリア様、アルフレッド様が来てくれましたよ。ふふっ、良かったですね」
「リズ嬢は、本当にセリアのことが好きなんだね。恩とか以前に、大好きって気持ちが伝わってくるよ」
「はい、大好きです! いつもお茶の時には、楽しくお喋りしているんです!」
「そうだったね。そういえば、二人はどうして友人になったんだい? 彼女の境遇は聞いているが、君との話はよく知らないんだ」
そういえば、わたし達の話って誰かに話した覚えがないかも。セリア様が自分から話すならともかく、友人とはいえ、ただの使用人である私自らが、セリア様とお友達なんだよ! って言いふらすのは、なんだかおかしいもんね。
――ということで、わたしはアルフレッド様に、セリア様とどうやって仲良くなったか、どうして恩を感じるようになったか、その経緯を説明した。すると、アルフレッド様は慈愛に満ちた頬笑みを浮かべながら、セリア様の頭を撫でた。
「なるほど、そんなことがあったんだね。本当に、セリアは優しい人だ」
「そうなんです。セリア様がいなければ、わたしは母にお別れが言えませんでしたし、最後を看取ることも出来ませんでした。本当に……感謝してもしきれません」
この大きすぎる恩は、一生をかけても返しきれないと思う。それくらい、わたしはセリア様に感謝をしているんだ。
「リズ嬢も、とても義理堅くて素敵な人だね」
「うえぇ!? わ、わたしがですか!? そんな、これくらい普通ですよ~!」
「そうかな? 誰かにしてもらうのは当然だって思う人間なんて、掃いて捨てる程いるのに、君はそうじゃないだろう?」
「そ、そうなんですか? なんだか、照れくさいですねぇ……」
褒められるのは悪い気分じゃないけど、なんだか体がむず痒くなってくる。むず痒さを紛らわせるために、叫びたくなってきたけど、ここはグッと我慢の子だよ。
「リズ嬢は、普段セリアとはどんな話をしているんだい?」
「世間話をしたり、趣味の話をしたりですね。特に、本の話とかではよく盛り上がっていましたよ」
「セリアは本が好きだしね。前に書庫に案内した時は、本当に目を輝かせていて……とても魅力的だったよ」
「あの書庫、凄いですよね~! わたしもよくセリア様のオススメを聞いて、書庫から借りて読んでるんです!」
セリア様がオススメしてくれる本は、どれもハズレが無くて面白いんだよ。その感想を互いに語り合うのも楽しくて、まさに一石二鳥なんだ!
「最近は、セリア様がオススメしてくれたラブロマンスを……ラブ、ロマンス……あっ、そうだ!」
「どうかしたのかい?」
「セリア様が好きな本に、主人公の女の子と、白馬に乗った王子様が出てくるお話があるんです。その中で、呪われてしまった女の子を、王女様のキスで呪いを解いて、幸せになるお話があるんです!」
「その話なら僕も知っているよ。とても有名な話だね」
「セリア様も、もしかしたらアルフレッド様のキスで目覚めるかも!」
「…………」
「…………な、なーんて思ってみたり……ごめんなさい、そんなことが現実で怒るはずないですよね……」
アルフレッド様の沈黙に、ものの数秒で心が折れてしまったわたしは、しょんぼりしながら謝罪をする。
さすがに、これは空気が読めていなかったかな……そう思っていたら、アルフレッド様は目を輝かせながら、身を乗り出した。
「名案だよ、リズ嬢! やってみる価値はある!」
「え、えぇ……? 言っておいてなんですけど、あれは所詮お話の中だけですし……」
「そんなの、やってみなければわからないだろう? それに、愛は全てを救うというのは、万国共通の話だからね!」
そう言うと、アルフレッド様はその整った顔を、眠り続けるセリア様に近づけていく。
ほ、本当にするつもりなの!? いくら私が提案したこととはいえ、それを見るのは絶対に違うよね!? 早く目を瞑らないと!
「…………」
目を瞑った上に、両手で目を覆うという二重の構えで、私の視界は完全に閉ざされたわけだけど……これでは、終わったかどうかの確認が出来ないよ。
「も、もういいですか?」
「うん、もう済ませた……えっ?」
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