第四十五話 抑えられない気持ち
泉の上での時間をたっぷり堪能した私達は、一度泉のほとりに戻ってきた後、大きなシートの上で食事の用意をしていた。
「実は、今日の食事は、私も少しだけお手伝いをしたのです」
「本当かい!? いやぁ、それは楽しみだよ!」
「あ、でもあんまり期待はしないでくださいませ。あくまでお手伝いをしただけであって、ほとんどはシェフが作ってくれたものですし、料理は初めてしたものでして……」
「君が僕のために頑張ってくれたという、その気持ちが嬉しいんだよ」
「アルフレッド様……」
そんな優しくて嬉しいことを言われたら、もっと好きになってしまう。これ以上アルフレッド様のことが好きになったら、それこそ復讐なんて全てがどうでもよくなってしまうかもしれない。
復讐なんて、忘れて幸せに過ごした方が良いのかもしれないが……ダメよ、私。お母様の敵であり、何の罪もないソリアン国を巻き込んだお父様達には、必ず復讐をしないと。
「ああ、これ以上は待っていられない! 早く食べよう!」
「えっ、ええ……そうですわね」
一人で考え事をしている間に、アルフレッド様は、ご馳走を前にした子犬みたいになっていた。これ以上待たせてしまうのは酷だから、早くいただくとしよう。
「今日は、すぐに食べられるようにサンドウィッチを用意してくださいましたわ。それと、こちらの水筒にはおいしいお茶を淹れてもらいました」
「これはおいしそう……ん、これは?」
色とりどりの綺麗なサンドウィッチの中に、明らかに一つだけ形も大きさも、入っている具の量もいびつなサンドウィッチがあった。
……こんなの、誰でもすぐき気づくわよね。隠し事はしたくないし、正直に話そう。
「その、アルフレッド様に沢山食べてほしくて、一杯具を詰めたらこんなことに……作り直そうと思ったのですが、シェフの方々に、これが一番最初に作った物だ、初めて作ったものを食べてもらうことに意味があると、アドバイスをされたので……こうして持ってきましたの」
「さすが、彼らは僕のことをよくわかっている。人生で初めて作った料理を食べられるなんて光栄で、この上ない幸福だよ。それじゃあ、いただきます」
野菜やお肉がギチギチに挟まれたサンドウィッチを、大きな口を開けて頬張ったアルフレッド様は、数秒程噛みしめるように味わってから、私に親指を立てて見せた。
「ふほふおいひいほ、へひはひゃふぁ!」
「えっと、とりあえず呑み込んでからお話になられた方がよろしいかと……」
「もぐもぐもぐ……ごくんっ。凄くおいしいよ、セリア様! 初めて作ったものとは思えないよ!」
「喜んでもらえて良かったですわ」
おいしいのは当然のことだ。なにせ、具の用意をしたのはプロのシェフで、私はそれを不格好に挟んだだけだもの。
「セリア様は、料理の才能があるんだね! 今度、また別の料理を作ってもらいたいくらいだ!」
「あっ、その……具はシェフの皆様が用意してくれたものですので、私はなにも……」
「それはわかっているよ。誰かのためを想い、誰かのために愛情を込めて作ったのが感じ取れたから、才能があると思ったんだ」
想いと愛情……確かにそれは、誰にも負けない自信がある。なにせ、アルフレッド様のことを世界一愛しているのだから。
それにしても、こんなに喜んでもらえるだなんて、嬉しい限りだ。ご要望通り、機会があればまた作ってもいいかもしれない。
そうなると、日頃から料理の勉強もしないといけないわね。シェフの方々にお願いしてみようかしら……あっ、そうだ! リズにも作ってあげたら、喜んでくれるかもしれない! ふふっ、なおさら勉強をする理由が増えたわね!
……なんだか、更に復讐から離れるような決め事をしてしまった気がしてならないけど……アルフレッド様やリズが喜んでくれるなら、きっと間違った選択じゃないはずだ。
「本当においしいなぁ。こんなの、いくらでも食べられそうだよ」
「アルフレッド様、あんまり急いで食べると、喉を詰まらせてしまいますわ。はい、お茶をどうぞ」
「ありがとう。うん、セリア様が渡してくれると、お茶もいつもの数倍はおいしく感じられるよ」
「そんな、大げさですわよ」
「大げさなものか。愛する人が自分のためにしてくれるだなんて、この上ない幸せだろう?」
そうね、私が逆の立場だったら、きっと嬉しすぎて、毎晩ベッドの上で思い出しては、ニヤニヤしているだろう。
……ああ、私……やっぱりこの人のこと、本当に好きだ。この胸の奥から溢れ出る気持ちが、抑えきれなくなってきている。
そんなことを思っている間に、たくさん用意してもらった食事は、綺麗に完食されていた。
「こんな幸せを、君と共に過ごせるだなんて、僕は果報者だよ」
「私も同じ気持ちですわ。これからも、愛するあなたと共に歩みたいと、心の底から思っております」
「……セリア様、今……」
「…………あっ」
私、今……アルフレッド様に直接、愛するあなたって……わ、うそっ……やだっ! 幸せ過ぎるのと、気持ちが溢れすぎて、ついぽろっと口にしてしまった! いつかは告白はしたいと思っていたけど、こんな形で言ってしまうだなんて!
「あ、ちがっ……いえ、違くはないのですが……あの、その……私……」
「セリア様も、僕と同じ気持ちなのかい?」
とても真面目で、でも優しい表情のアルフレッド様に、私は顔を赤く染めながら、コクンっと小さく頷いた。
本当は、言葉で間違いがないことを伝えられればいいのに、私にはその度胸が足りなかった。
「そうか。ありがとう、とても光栄だよ」
「あの、驚かれないのですか?」
「驚いているけど、もしかしたらそうじゃないかなって思ってたんだ。最近、僕にアタックしているのは伝わってきたしね」
き、気づかれていたの!? って、冷静に振り返ってみれば、当然よね。腕に抱きついたり、アルフレッド様に寄ってくる女性を追い払ったり、デートにお誘いしたり……これで気づかなかったら、よほどの鈍感さだ。
「私、自分の気持ちを伝える勇気が無くて……なかなか言い出せなくて……」
「わかるよ。相手に気持ちを伝えるのって、難しいよね」
「えぇ……? アルフレッド様がそれを仰るのですか? いつも私に愛するとか、伝えてくださってますよね?」
「あははっ。あれ、顔とか態度には出してないけど、結構緊張しながら言ってるんだよ。気づかなかったかい?」
ええっ!? そ、そうだったの!? 全然気づかなかったわ……てっきり、アルフレッド様は、そう言うことを伝えることが得意なのだとばかり……。
「今伝えないと、もしかしたらもう機会がないかと思えば、伝えられるものさ」
「もう機会が……」
言われてみれば、確かにその通りだ、あの時伝えればよかったなんて後悔するなんて、そんなの絶対に嫌だ。今だけでも、復讐を誓った時の強い意思を持つのよ、私!
「……アルフレッド様。私、あなたが好きです。復讐を考えるような女を愛してくれて、受け入れてくれて……本当にありがとうございます。とても嬉しくて、救われた気持ちになりました。その、私……元々は、復讐のためにあなたの婚約者になりましたが、今度は愛する者同士として、改めて婚約してくださいませんか?」
「ああ、もちろん。僕もセリア様……いや、セリアのことを愛しているよ」
「アルフレッド様……」
「君が良ければ、呼び捨てで呼んでくれないかな?」
「え、えっと……アルフレッド」
「ああ、セリア」
「ふふっ、なんだか気恥ずかしいですわね」
「そうだね。慣れるまで、しばらくは照れてしまいそうだ」
今までずっと様付けだったのが、呼び捨てに変わっただけなのに、私達の距離がぐっと縮まった気がしたと同時に、体がむずがゆいというか、変な照れが出てしまった。
「さてと、食事も終わったし、互いの気持ちも知れたし……名残惜しいけど、そろそろ帰らなくちゃね」
「そうですわね。楽しい時間は、あっという間ですわ……」
「いや、まだ終わりじゃないよ。デートには、決まりの締めがあるじゃないか」
締めって、一体何のことだろう。そう思っていると、アルフレッドは両手を大きく伸ばした。
これって、私に飛び込んで来いってことよね!? い、いきたいけど……は、恥ずかしくて躊躇ってしまう……!
「っと、ごめんよ。こういう時は、男性がリードしてあげないといけないよね」
「あっ……」
アルフレッドは、私のことを包み込むようにギュッと抱きしめ、優しく頭を撫でてくれた。そして、少し離れてから私の顎を軽く持ち上げると、そのまま私の唇は奪われた。
「えっ、あっ……えっ……?」
「愛しているよ、セリア」
「ひゃ、ひゃいぃ……!」
人生で初めてのキスは、あまりにも突然すぎて、よくわからなかった。
でも、間違いなく私は、アルフレッドと愛を誓いあう儀式をした。どうしよう、嬉しすぎて、今夜は絶対に眠れないわ……!
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