第四十四話 神秘的な泉
「――――セリア――」
あら……誰かが、私の名前を呼んでいる。まだ眠いから、もう少しだけ寝かせてほしい。
「もう――つくよ――」
つくって、一体どこに? 何を言っているのか、よくわからない。私、寝ぼけているのだろうか? とりあえず、起きてみればわかるわよね。眠いけど、起きてみよう……。
「んん……」
「おはよう、セリア様。具合はどうだい?」
「……アルフレッド様? どうして私の部屋に?」
「おや、寝ぼけているのかな? よく周りを確認してごらん?」
周りと言われても、いつもの私の部屋……じゃない。どうみても、ここは室内じゃなくて室外だ。それも、とても綺麗な森の中……あっ!
「そうでしたわ! 私、アルフレッド様と一緒にデートに……!」
「思い出してくれてよかったよ」
私、アルフレッド様成分を過剰に摂取しすぎた影響で、意識を失って……そのまま起こされるまで、ぐっすりだったということ?
「も、申し訳ございません。私、ドキドキしすぎて意識を失ってしまって、そのまま熟睡をして、挙げ句の果てには、寝ぼけていたみたいですわ……」
「あはは、そうだったんだね。急に眠ってしまって驚いたけど、具合が悪そうな雰囲気はなかったから、眠らせておいたんだ。それにしても、君は相変わらず可愛らしい女性だね」
優しいアルフレッド様は、こんなことで怒ったりしないのはわかっている。しかし、初めてのデートの最中に眠ってしまうだなんて、人としてどうかと思う。
「私、なんてお詫びをすればいいか……」
「お詫びって、大げさすぎないかな? デートだからって、眠ってはいけないという決まりはないしね。それよりもほら、見えてきた!」
ずっと木々が生い茂った森の中で、はじめて開けた場所に出た。そこには、淡い七色に輝く、神秘的な泉があった。
ここは、決まった時期になると、この森にある特殊な魔力の効果で、泉が七色に光る。ちょうどその時期が今だったことや、とても静かでいいところという理由で、ここに来ることになったの。
「わぁ、本当に七色ですわ……! まるで虹の泉みたい!」
「噂には聞いていたけど、僕も見るのは初めてだ。こんなに綺麗な場所だったんだね。来ている人も僕達だけみたいだし、ちょうどよかった」
泉のほとりにまで来た私は、アルフレッド様に白馬から降ろしてもらった。
森の中を通っている時も感じたが、自然が豊かな所にいると、それだけで心身ともに浄化されているような、気持ちのいい気分に浸れてる。なんていうか、ホッとするって感じかしら?
「ここまで連れて来てくれてありがとう。しばらくゆっくりしておいで」
「ひひーん」
私達を安全に運んでくれた白馬は、小さく嘶いてから、泉の周りにある草をのんびりと食べ始めた。
「さてと、それじゃあ行こうか」
「行くって、どこにですの?」
「記念すべき初めてのデートに相応しい、特等席さ」
アルフレッド様がパチンっと指を鳴らすと、泉のほとりに小さな魔法陣が出現した。
一体これは、何の魔法なんだろうか。そう思っていると、アルフレッド様に手を引かれて、一緒に魔法陣の上に立たされた。
……本当に、これってなんの魔法なのだろうか? 少なくとも、私の体には特に変化があるわけではない。
「これでよしと。セリア様、行こう」
私にニコリと微笑んだアルフレッド様は、私を連れてそのまままっすぐ泉に向かって歩き出す。
このままでは、泉の中に落ちれビショビショになってしまう! 早く止めなくちゃ!
「大丈夫だよ」
「えっ……?」
水の中に落ちると思っていたのに、私達は水に沈むことなく、なんと水面を歩いていた。
普通に考えて、水面を歩くなんて、普通の人間には不可能。そう思っていた私は、状況をすぐに理解することが出来ず、代わりに大きくバランスを崩してしまった。
「おっと。ははっ、サプライズのつもりだったんだけど、想像以上に驚かせてしまったようだね」
「あ、あわわわ……」
アルフレッド様が私を抱きとめてくれたおかげで、転ばずには済んだが、代わりに私は、なんの心の準備もないままに、アルフレッド様に抱きしめられてしまった。
あ、アルフレッド様の心臓の音が聞こえる! 暖かくて、男性らしい筋肉の固さまでわかる! こんなの、ドキドキしすぎておかしくなってしまうわ!
「顔が赤いけど、大丈夫かい?」
「きゅ、急に抱きしめられたから、ドキドキしてしまって……」
「ははっ、僕も結構ドキドキしているから、似た者同士だね。泉の上はきっと涼しいだろうから、体のほてりも少しは収まると思うよ」
魔法のおかげで、大丈夫なのはわかっていても、水の上を歩くなんて経験をしたことがない。それが怖くて、アルフレッド様の腕に抱きつきながら、無事に泉の中心へと到着できた。
「やはり、泉の中心は涼しいね。今の僕達には、最適な空間だ」
「そうですわね。って、アルフレッド様?」
先程まで感じていた暖かい風ではなく、少しひんやりした風を堪能していると、アルフレッド様は突然その場で仰向けに寝転がった。
歩くだけでなく、寝転がることも出来るのね。一国の王子様が、こんなところで寝転んで……うん、別にいいわよね。今日は周りのことを一切気にせずに、二人きりで過ごすために、人気がない場所をデートの場所に選んだのだから。
「こうすると、もっと気持ちいいよ。それに、まるで虹の中にいるみたいで、とても幻想的だ。ほら、セリア様もやってごらん」
「本当ですか? で、では失礼して……」
水の上に寝転がるという、あまりにも非日常な体験に緊張しながら、アルフレッド様の隣に寝転んでみる。すると、背中が少し柔らかくてひんやりした水と、泉から発せられる七色の光が包み込んでくれた。
どれだけ言葉を並べても、この幻想的な体験と景色は言葉で全てを表現できないくらい、素敵としか言いようがない。
「アルフレッド様、今日は本当にありがとうございます。おかげで、一生忘れられない日になりましたわ」
「僕もだよ。でも、まだデートは始まったばかりなのだから、もう終わったみたいな言葉は、もったいないよ」
「ふふっ、そうですね。私ったら、少し気が早すぎましたわ」
アルフレッド様と一緒に笑い合いながら、俗世と切り離されたゆったりした時間を過ごす。
その間に、私は自然とアルフレッド様と手を繋ぎ、指を絡め合っていたが、いつものような過剰な緊張はなく、程よいトキメキと安心感を感じていた。
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