第三十六話 母の愛情
「セリア様、今カチッて音がしませんでしたか!?」
「え、ええ。確かに聞こえましたわ」
よかった、私の聞き間違えではなかったみたいだ。どうして開いたのかはわからないが、そーっと開けてみよう……。
「これは……」
箱の中に入っていたのは、数枚の子供の絵や押し花、そして丁寧にラッピングされた、小さなクマのぬいぐるみだった。
「この絵に描かれている女性と子供は……もしかして?」
「はい……私と母です。まだ私が幼い頃に描いて、母にプレゼントした絵ですわ……こっちの押し花も、母が気に入ってくれるかと思って、摘んできた花……」
他にも、こまごまとしたものではあったが、どれもが私がお母様にプレゼントしたものばかりが入っていた。この箱の中身を見ているだけで、お母様との束の間の幸せな時間を思い出せる。
「このクマのぬいぐるみ、可愛いですけど……見覚えがありませんわ」
「セリア様、このクマちゃんの首元に、何か紙がありますよ」
リズの言う通り、確かにぬいぐるみの首に紙が……いや、これはメッセージカード?
『愛するセリア、お誕生日おめでとう。私のところに生まれて来てくれて、本当にありがとう。今はつらいかもしれないけど、止まない雨は無い。終わらないトンネルは無い。必ず光はあるから……一緒に頑張って、幸せになろうね』
「……お母様……」
そうだ。お母様が亡くなった頃は、もうすぐ私の誕生日だった。でも、渡す前に戦場に行かされてしまって……だから、いつかは私の手に渡るように思い出の品と一緒にして、家族に持っていかれないようにして、魔法で私以外に開けられないようにしたのね……。
「君の母君は、本当に慈悲深い人だったんだね」
「はい……自分のことなんて顧みず、ずっと私のことばかりで……優しくて、偉大な母でした……ぐすっ、お母様……」
私は、大粒の涙をポロポロと流しながら、ぬいぐるみをギュッと抱きしめた。
なんだか、お母様が私のところに戻ってきたような感じがして、お母様が私を抱きしめてくれているような感じがして……嬉しくて、でも悲しくて。涙がずっと止まらなかった。
****
散々泣いて、少しスッキリした後、私はアルフレッド様に連れられて、お城のとある一室へと連れて来てもらった。
「アルフレッド様、セリア様。お待ちしておりました。どうぞお入りくださいませ」
見張りの人に通してもらうと、そこは真っ白な魔法陣以外はなにもない、寂しい部屋だった。
「これが、ここにくる際に話してくださった、転移の魔法陣なのですね」
「ああ。この先に、君に見せたいものがある。さあ、行こうか」
私はアルフレッド様にエスコートされながら、恐る恐るその魔法陣に乗ると、真っ白な光に包まれて、何も見えなくなった。
それから間もなく、先程までの寂しい部屋から、緑豊かな森の中へと景色が変わっていた。
「一瞬で見たことがない場所に……転移魔法というのは、本当に凄いものなのですね」
「転移したい先に一度訪れて、魔法陣を準備しなければいけないのを除けば、とても優秀な魔法だね。僕もいつかは習得したいものだよ」
「魔法の習得ですか……私には、縁のない話ですわ」
「君だって、やればきっと出来るさ。さあ、行こう」
再びエスコートされながら、森の奥へと進んでいく。森にはあちこちに花が咲き、果実が実り、動物達が楽しそうにじゃれあっている。
「ここは、とても自然が豊かで穏やかな場所なのですね。ここも、ソリアン国の国土なのですか?」
「ここは、ソリアン国の王家が所有している、とある無人島だよ。ここを荒らされたくないから、王家の人間のような、極一部の人間しか知らない場所なんだ」
なるほど、だからアルフレッド様は、事前にリズは来てもらうのを遠慮していたのね。彼女が悪いことをするとは全く思わないが、それが規則なら仕方がない。
「話は戻るけど……君がもし魔法の勉強がしたいのなら、僕が勉強の場を設けようか?」
「本当ですか!? や、やってみたいです……! あ、でも……私、本当に初歩の魔法しか使えないんですけど……」
「いいじゃないか! 専属の教師がいるから、たくさん勉強をして上達しよう!」
あっ、そこはアルフレッド様ではないのね……って、なんでこんなにがっかりしているのよ。そもそも、お忙しいアルフレッド様に、私の勉強に付き合わせるわけにはいかない。なんでそう思ったのかはわからないけど、我慢しないと。
「お疲れ様、到着したよ」
森の奥の開けた場所には、綺麗で大きな黒い石で出来た墓標が、私達を静かに出迎えた。
「ここに、お母様が眠っているのですね」
「この共同墓地は、戦争で亡くなった、多くの身元不明のカルネシアラ国の人間が眠っているんだ。別の場所には、同じ境遇のソリアン国の民も眠っているんだ」
「どうして、カルネシアラ国の民も?」
「あの戦争はごく一部の人間のせいで起こった悲劇だ。大多数の人間はただ巻き込まれただけに過ぎない。なのに、敵だからって見て見ぬふりというのは、僕達には出来なかった。まあ、反発の声もあったし、恨みで荒らされる可能性もあるから、民が知らない場所で、静かに眠らせているんだ」
そういうことだったのか。本当に、底なしの優しさというか……ここまでくると、おせっかいを超えている気がする。それくらい、アルフレッド様方はお優しい方だ。
「お久しぶりです、お母様。会いに来るのが遅くなってしまい、申し訳ございませんでした」
私は、持ってきた色とりどりの花で出来た花束を供えてから、例の箱から出てきたクマのぬいぐるみをお母様に見せた。
「ご覧くださいませ、お母様。私のために用意してくださったこのぬいぐるみは、無事に私の手に渡りました。まさか、こんな形でお母様からプレゼントをいただけるなんて……本当に、嬉しく、て……」
久しぶりに、お母様と話せるというのに、嗚咽と涙だけが溢れ出て、上手く喋れない。伝えたいことが山ほどあるというのに。
でも、それではダメだ。弱い私を見せたら、お母様は安心して眠れない。自分を強く持って、ずっと伝えたかったことを伝えなくちゃ。
「私、お母様の娘として生まれて……本当に幸せでしたわ! 私を生んでくれて、私を育ててくれて……私を愛してくれて! 本当に、ありがとうございました! 私、絶対にお母様を傷つけたあいつらに復讐をして……幸せになりますから!!」
ずっとお母様に伝えたかった、感謝の気持ち。そして、お母様への誓いを大きな声で叫ぶと、隣で黙って見守ってくれていたアルフレッド様が、私の肩に手を置いた。
「アルフレッド様?」
「…………」
いつものように、ニコリと笑ったアルフレッド様は、大きく息を吸い込むと――
「セリア様の母上! 僕が必ず、あなたの大切なセリア様を世界一幸せにしてみせます! だから、安心して笑顔で見守っていてください!!」
「……アルフレッド様……」
私の声にも負けないくらい、大きな声でお母様に誓うアルフレッド様の姿を見て、見惚れてしまうくらいときめき……確信した。
私は、アルフレッド様のことを、心の底から好きになっていたのだと。
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