第三十五話 母の遺した物?
戦争の真実を聞いた後、私は一度自室に戻り、リズに淹れてもらったお茶を飲んで一息入れていると、ふとリズは口を開いた。
「セリア様がアルフレッド様達に復讐をしようとしていたとは、驚きですよ~」
「驚いたという割には、そのようには見えませんわよ?」
「もしかしたら? って思ってましたからね。セリア様が、ただ復讐に利用するためだけに、ずっと戦争をしていたソリアン国に嫁ぐだなんて、考えにくかったんですよ。ほら、リスクとリターンが釣り合っていないっていうんですかね? 今日の話を聞いて、ようやく釣り合いましたよ」
「そうでしたのね。ずっと隠していてごめんなさい」
「本当ですよ! うぅ、私達はお友達のはずなのに、隠し事をするだなんて、私は悲しいです……しくしく」
リズは私に背を向けると、肩を震わせながら顔に手をやっていた。
もしかして、泣かせるほど傷つけてしまったというの? そんな、私はそんなつもりは、これっぽっちも……!
「り、リズ……その、私……」
「……な~んちゃって、冗談ですよ~!」
「……冗談……り、リズ~!」
「えへへ、隠し事をしていたセリア様に、ちょっとしたお返しですっ!」
もうっ、リズったら! 確かに隠し事をしていたのは私だけど……質の悪い冗談はやめてほしいわ! 私、本気にしちゃっていたのよ!
「そういえば、結局あの侵入者って何者だったんですかね?」
「露骨に話を逸らして……まあ、確かにそれは私も気になっておりましたわ。まさか、お父様が内密に送り込んだ刺客という可能性も……」
「それは、全然可能性はありそうですね……アルフレッド様やフェルト殿下のことですから、しっかり調べるとは思いますけど、心配ですよね」
あれから、一度も大事にはなっていないとはいえ、いつあの時のような騒ぎが起こるかわからない。
こういう時、予知の力が自由に使えれば、事前にわかるのに……いや、見えたら見えたで、不幸が確定してしまうから、見えない方が幸せ……?
「セリア様、眉間がシワシワですよ? せっかく綺麗な顔なのに、勿体ないですよ!」
「綺麗って、からかわないでくださいまし」
「えー? セリア様は凄く美人だと思いますよ?」
「そんなことは無いと思いますが……」
「納得できないのなら、証人を連れてきましょう!」
「ちょっ、絶対にアルフレッド様を連れてくるつもりでしょう!?」
「あっ、バレました? てへっ」
もう、こんなことで忙しいアルフレッド様を連れてくるなんて、言語道断だ。それに、あの方が本当に来たら、絶対に褒め殺しに合うに決まっている。
……考えたら、顔が熱くなってきた。リズにこれ以上からからかわれる前に、早く話題を変えなければ。
そう思っていると、救いの手を差し伸べるように、部屋の中にノックの音が響いた。
「あっ、はーい! どなたですかー?」
「アルフレッドだ。セリア様はいるかい?」
「はい、いますよ!」
救いの手と思ったら、リズのからかいに加担しかねない、悪魔の手だった……!
「アルフレッド様、ご機嫌麗しゅうございますわ」
「ん? 急に改まって、どうしたんだい?」
「アルフレッド様! セリア様って、美人ですよね!」
「ちょ、リズ!」
「当然だろう? セリア様の美しさは、どんな絶景でも霞んでしまうほどのものだ」
や、やっぱりこうなってしまった。恥ずかしすぎて、眩暈がしてきた。褒められることは、決して嫌というわけではないが、あまりにも直球すぎる褒め言葉は、耐性のない私には、あまりにも効果てきめんだ。
「そ、それよりも! アルフレッド様、一つお聞きしたいことがありまして!」
「なんだい?」
「例の侵入者なのですが、彼は何者だったのでしょう?」
「彼は、反王家派の一員だ」
は、反王家ですって? 祖国の王家にならともかく、ソリアン国の王家に反発するような要素なんて、想像もつかない。
「戦争が終わっても、残った傷跡は消えない……彼らは自分達が受けた痛みと悲しみ、そして言いようのない怒りを、僕達王家にぶつけているんだ。戦争がずっと終わらなかったのは、僕達のせいとしてね」
「それはおかしくありませんか? 元凶はカルネシアラ国であって、ソリアン国は自己防衛のために戦っていたにすぎません。だから、ソリアン国を恨むのは少々お門違いかと」
「それは、彼らもきっとわかっている。なにせ、彼らだって我が祖国の優しい民なのだから。だが……わかっていても、優しすぎる故に、愛する人を失う悲しみに耐えきれず、八つ当たりをしなければ……悲しみに押しつぶされてしまうんだよ」
言いたいことは理解できる。でも……ソリアン国の王家は、国と民を守るために、カルネシアラ国の攻撃に応戦しただけなのに、守ったはずの民に恨まれ、命を狙われるだなんて……。
「その件に関しては、僕らでどうにかするから気にする必要は無いよ」
「……わかりました。もし私に何か出来ることがあれば、なんでも仰ってください」
「ありがとう。それなら、早速力になってもらいたいことがあるんだ」
そう言うと、アルフレッド様は手に持っていた箱を、私に差し出した。汚れてはいるものの、至って普通の箱だが……これは一体?
「これは、随分と前に、戦場で自爆をした人物が遺した物なんだ」
「自爆、ですか?」
「僕も父上や生き残った兵士から聞いただけだから、実際に見たわけじゃないんだけど……その戦場に、この箱が落ちていてね。調べた結果、その人物と同じ魔力が見つかり、その人物の持ち物だとわかった。危険物かどうか、中身を確認しようと思ったが、何をしても開かないんだ。どうやら、これには特殊な結界魔法が施されているようでね」
私は魔法に精通しているわけじゃないから、いまいちピンとはこないが、とにかく凄い箱なのはわかった。
「この箱の持ち主と思われる人物について、生き残った兵士の証言によると、君と同じ白い髪色で、右目の上に傷がある綺麗な女性だったそうだ。身長は今の君とさほど変わらないくらいで、線の細い見た目と聞いている」
あれ……? その特徴は、お母様と同じだ。髪色や体形もそうだし、まだ小さかった私に、ヒステリックを起こしたお義母様から、私を必死に守るためについた傷もある。
「ほら、先程話をした時に、部屋の外で見張りをしていた兵士がいただろう? 彼が話を聞いていたみたいで、もしかしたらと僕に伝えてくれてね。こうして持ってきたんだ」
「そうでしたのね。確かにお母様の可能性もございますが……お母様が、そんな魔法を使えるだなんて、聞いたことがありません」
そもそも、お母様が魔法を使えるだなんて話を、私は聞いたことがない。もしかしたら、知り合いの魔法使いに頼んで、結界魔法をかけてもらった可能性もあるが……。
「セリア様のお母様は、どうしてこんな箱を持っていたのでしょうか?」
「昔から、お母様は大切な物は、常に持ち歩いておりましたの。そうしないと、いつお城の人に持っていかれるか、わかったものじゃありませんもの」
「まさか、君の母君も、同じような境遇を……?」
「ええ、まあ……特に正妻である、お義母様から酷い扱いを受けておりましたわ」
ただの使用人の分際で、愛する夫をたぶらかした卑しい女なんてよく言われ、虐げられ、罵声を浴びせられていた。お母様は、何も悪くないのに……全て、お父様の一時の下心と、お義母様の醜い嫉妬心が招いたことだ。
……ダメだ、考えたら際限なく怒りと憎しみが沸き起こる。戦争の真実を、ここに来る前に聞けていれば、徹底的に復讐が出来たのに。
「そうか……君には、つらいことを思い出させてしまったようだ。すまなかった」
「もう終わったことですから」
「……話を戻そう。この箱なんだが、君になら開けられるんじゃないか?」
「わ、私がですか? 出来るかしら……」
箱をテーブルの上に置き、ふたを開けようとするが、ビクともしない。力いっぱいやってみても、ダメだった。やはり、アルフレッド様の言う通り、魔法で封印されているのだろう。
「私に封印魔法なんて解けるはずもないし……いえ、やる前から諦めてはいけませんわよね。お母様が遺してくれたものかもしれない箱……絶対に開けてみせますわ」
力で開けられないのなら、魔法でどうにかすれば良いと考えた私は、両手から箱に魔力を流すイメージで集中した瞬間、箱からカチッという音が聞こえてきた。
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