第三十四話 私が間違っていた……!
「お父様が……!?」
そう言われても、納得なんて出来るわけがない。だって、たった一人の人間の魔法で、祖国の民全員に魔法をかけるだなんて、普通に考えて絶対に魔力が足りないもの。
「僕達も信じられないけど、事実だ。もしかしたら、彼一人の魔力でも何とか出来るように、なにか仕掛けをしていたのかもしれないが……真相は闇の中さ」
「仕掛けなど無くとも、彼一人でやってのける可能性はあった。まだ戦争が始まる前の話だ……余はモーリスと交流があり、よく一緒に鍛錬をしたり、酒を酌み交わした中でな。その時から、彼の魔法の才能は尋常ではなかった。もはや、嫉妬を通り越して笑うことしか出来んくらいにな」
「お父様って、そんなに凄い魔法使いでしたのね……」
前々から、凄い魔法使いだというのは、自慢話として何度も聞かされていたとはいえ、まさかそこまで思いもしていなかった。
「余は、モーリスならきっとカルネシアラ国を素晴らしい国に出来る。そう確信できるほど、彼には力があった。しかし……彼は力と欲に溺れた。自分が欲しいものは全てを手に入れ、自分が好きなものだけを愛し、それ以外は道具以下の扱いをする……あまりにも傲慢な男になってしまった」
「その辺りのことは、セリア様の方がよく知っているんじゃないかな?」
「はい。父はそういう人間ですわ」
目を閉じれば、お父様が私にしてきた非道の数々が思い出される。まさに、今フェルト殿下が仰ったことの通りだ。
「厄介なことに、彼は魔法だけでなく、国を治める力もあった。その力は、国王に即位してからいかんなく発揮され、瞬く間に国民に支持を得た。そして……彼はついに我々に攻撃を仕掛けてきた。こちらの要求をのまなければ、我々は永遠に攻撃すると、宣戦布告までしてな」
「えっと、その要求してきたものって……?」
「この国の領土、資源、民の支配。および我々王家の解体……簡単に言うならば、祖国の全てを手に入れて支配し、民は全て自分達の都合の良い労働力にするというものだ」
なによそれ、完全に侵略行為じゃない! そんなの、絶対に同意できるはずもない!
「そこから、長い戦争が始まった。あの戦争で、多くの民が犠牲になった……祖国も、カルネシアラ国も。たった一人の醜い欲望のために……な」
「…………」
ソリアン国は、なにも悪くなかった。そう確信した瞬間、常にあった私の心のモヤモヤは、一瞬にして無くなったが、その一方で、復讐をしたことで、少しだけ落ち着いたはずの憎しみ……特にお父様への憎しみが、どんどんと膨れ上がっていた。
今頃、お父様は私のせいで大変な目に遭っているだろう。それだけで満足はしていないとはいえ、ある程度の復讐は出来たと思っていた。
でも、そんなの生ぬるかった。だって、お母様の敵は、お父様ということだもの。もっともっと、酷い目に合わせなければ気が済まない……!
「あのー……それなら、どうして戦争を止めることにしたのでしょう? そこまでの意気込みなら、どれだけの犠牲を払ってでも、やり続けると思うんですけど……?」
「それは我々にもわからない。こちらとしては、疲弊し続けるよりかは、停戦の方がありがたいことだ。しかし、すぐに信じられなかったのもまた事実。故に、我々は交換条件を出した」
「それが、アルフレッド様との婚約ですわね」
「その通りだ。元々は、いざという時の交渉材料を手にするするつもりで提案したのだが、まさかそなたのような境遇の少女が、自ら婚約者に名乗り出るとは、思ってもなかった」
あれ、フェルト殿下に私の話ってしていないわよね? どうして知って……あ、アルフレッド様がこっちを見ながら、小さくウインクをしている。なるほど、アルフレッド様が事前に話してあったのね。
「そなたが自ら婚約者となったのは、自分の境遇から抜け出すためであったか?」
「それもありますが……家族への復讐と、もう一つ……」
ソリアン国の王家への復讐。そのことを言うべきか一瞬悩んだが、ここまで私に打ち明かしてくれた相手に隠し事は、失礼だと思う。
それに……これ以上、私がソリアン国を憎む理由は無くなってしまったから、ちゃんと話して謝罪をしたいの。
「私は、戦争でお母様を亡くしました。お母様は、戦場で大きな爆発に巻き込まれたのです」
「爆発……」
「私を愛してくれた、唯一の肉親を奪った戦争を引き起こした相手に、復讐をする……そのために、私はここに来ました」
「……そうだったか」
「ですが、私は大きな誤解をしておりました。真に恨むべき相手は父であり、あなた方を恨むのは、全くのお門違いでした。本当に……本当に申し訳ございませんでした!!」
こんな謝罪の言葉だけで、足りるとは思えない。だって、私はお父様に洗脳され、予知で自分の破滅を見たとはいえ、真実を知ろうともせずに勝手に恨み、復讐をしようとしていた……こんなの、許されるはずがない。
いくら優しいフェルト殿下やアルフレッド様とはいえ、きっと厳罰を下すに違いない。そう思っていると、フェルト殿下が静かに口を開いた。
「面を上げよ、セリア。大切な人間を無くす悲しみも、奪っていった相手を恨む気持ちも、よくわかる。余も戦争で妻を亡くし、妹も亡くした。一秒でも早く、モーリスを殺したいと、怒りの炎で身を焦がし続けた経験もあるのでな」
「フェルト殿下……?」
「それに、自分の非をしっかり認め、正直に告白して謝罪をするその心に、余は感銘を受けた。だから、そなたが良ければ、これからもこの城でアルフレッドと懇意にしてやってほしい。アルフレッドも、それでよいな?」
「もちろんです、父上。彼女は少し誤解をしていただけ。家族への復讐も、褒められるものではありませんが、彼女の境遇を考えれば、わからなくもない」
「その通りだ。さすがは余の自慢の息子だ。聡明に育ってくれて、余は鼻が高い」
あ、あれ……? どうしてこんな和やかな雰囲気になっているの? 一歩間違えれば、ソリアン国の王家に被害を及ぼしていた人間を前にしてするような雰囲気じゃないわ!
「わ、私はあなた方に復讐をしようとしていたのですよ!? それなのに、どうしてそんなにあっさりお許しになられるのですか!?」
「なんだ、セリアは厳罰が望みだったか? 余としては、あまりそういうのは好まぬのだが……アルフレッド、余はどうすれば良いと思う?」
「申し訳ありません、父上。僕もそのような趣味は無いので、すぐに回答はしかねます」
今までにないくらい困った表情を浮かべているフェルト殿下は、アルフレッド様に助け舟を求めるが、良い回答は返ってこなかった。
「あ、えっと……私もそういった趣味は持ち合わせておりませんが……普通は、簡単に許されるようなことではないと思いまして」
「先程、息子が申したであろう? 人間は誰でも失敗し、道を踏み外すことはある。もちろん、そのまま罪を犯せば罰せられるだろうが、そなたはまだ罪を犯してはおらん。それに、その復讐心も並々ならぬ事情があった故のもの。それを自覚し、謝罪をしたそなたを、どうして責められる?」
「そういうことだよ。だから気にせずに、これからも一緒に過ごしてくれるかい?」
愚かだった私を、アルフレッド様は寛大で慈悲深い心で迎えてくれた。それが嬉しくて……私は、深く頷きながら、差し出された手を力強く握った。
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