第二十七話 君の好きなもの
「僕だ、アルフレッドだよ。セリア様、いるかい?」
「はい。今あけますわね」
ドアを開けると、そこには少し息を切らせたアルフレッド様の姿があった。なんだかお疲れのようだけど……。
「どうされたのですか? そんなに汗をかいて……ほら、ジッとしてくださいまし」
「いや、宿舎に怪我人を送って、来てくれた医者に任せた後、急いで公務を終わらせてきたんだ。もちろん手は抜いてないよ。それで、急いでここにきたというわけさ」
「そうだったのですね。お疲れ様です」
私は、まるで宝石を磨くように、キラリと輝く汗が流れるアルフレッド様の顔を、ハンカチで優しく拭いた。
こうして近くで見ると、本当にアルフレッド様のお顔は整っている。
祖国では珍しい黒い髪、目は切れ長でこれも黒。鼻はシュッと高く、唇は少し小ぶり……って、なんで私はさも当然の様に、顔の観察なんてしているのかしら?
「あれ、アルフレッド様……その手の包帯は?」
「ああ、これ? 少し捻っただけだよ。こんなの三日もあれば直るさ」
怪我……そうか、きっと私が急に引っ張ったから、打ちどころが悪くて怪我をしてしまったんだ。
些細なこととはいえ、やはり不幸は変わらなかった。つまり、結果的に復讐への第一歩を踏み出した! これはとてもめでたい……はずなのに。
「アルフレッド様、申し訳ございません……私が悪いのです」
目の前で怪我をしているのを見て、私の心はスッキリせず、モヤモヤしていて……気づいた時には、アルフレッド様に謝罪をしていた。
「この手のことなんてどうでもいいんだ。セリア様、君のおかげで僕も彼女も、大きな怪我をしないで済んだ。君は恩人だ!」
「そ、そんな……私は、ただ出来ることをしただけですわ」
「その出来ることをしてくれた優しさと勇気を讃えたいんだ。君に惚れ直してしまいそうだよ」
今の一言だけで、モヤモヤを全て吹き飛ばしてしまい、顔が太陽みたいに真っ赤になってしまった。
「助けてもらった恩は、キッチリ返すのが僕の流儀でね。ということで、君の好きなものをプレゼントしたいんだ。本は好きなのは既に知っているが、他にはどういったものが好きなんだい?」
「そんな、お気にになさらなくても……えっと、可愛い動物のぬいぐるみは好きですわ。あと、あなたもご存知の通り、本は好きです。中でも絵本が一番好きです。あとは、魔導書とかも読んでみたいです」
「セリア様は、魔法を勉強したいのかい?」
「してみたい……ですけど、家ではさせてくれなかったんです。女に勉強なんて必要ない、女は男を立てるためににこやかに笑い、何かあった時の盾になればいいと」
「あまりにも騎士道に反する発言だね。女性だって勉強していいし、男女は支え合って生きていく。なにかあったら、背中合わせで戦う。まあ、僕の場合は女性に傷一つ付けさせないけどね」
アルフレッド様の優しく崇高な考えは、立派ではあるが、ただの理想論にも聞こえる。しかし、この方なら、理想論を現実にしてしまうのではないかと思わせる、不思議な説得力がある。
「そうだ、ここに大好きなぬいぐるみ、が……」
持ってきた箱を開けた瞬間、私は燃えてしまったぬいぐるみを見てしまい、自然と悲しい出来事を思い出してしまった。
「これは……なにか燃えてしまったのかい?」
「大好きなぬいぐるみです。ですが、色々あって……姉に燃やされてしまいました」
「酷いことを……これ、預かっても良いかい? もしかしたら、ある程度復元できるかもしれないんだ」
「本当ですか!?」
もしそれが本当なら、またあの子に会えるというの? お姉さまのせいで、二度と会えないと思っていたあの子に? もしそうなら、これほど嬉しいことはない!
「もちろんだ。僕が責任をもって、修復してみせるよ」
「では、よろしくお願いいたしますわ!」
「うん、確かに預かったよ。っと……もう少しおしゃべりしたいけど、そろそろ次の公務の準備をしなければ。じゃあ二人共、また」
アルフレッド様が部屋を出ていったのを見送ると、リズは嬉しそうにニコニコ笑いながら、私に話しかけてきた。
「ふふっ、よかったですね! セリア様!」
「ええ、本当に良かったわ。彼には感謝しかありません」
「……それにしても、アルフレッド様って優しい人ですよね?」
「優しいわよね……」
「わたしとしては、少しは信じてもいいような気がしますね。完全に信じ切るのは、まだ早い気はするので、ほどほどにって感じです!」
そうね、私も同意見だ。あくまで相手は復讐相手……今は過度に信じるのは悪手だろう。慎重に、相手の動きを伺っておこう。
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