第二十五話 一体何を信じれば……?
「セリア様!? どうした、しっかりするんだ!」
アルフレッド様の焦った声が、遠くの方で聞こえてくるのを感じていると、暗闇が突然晴れて、とある光景が見えてきた。
それは、アルフレッド様が大きな荷物を持った使用人と廊下の曲がり角でぶつかり、二人共怪我をしてしまう光景だった。
「っ……! はあ、はあ……」
今のは、予知……? 相変わらず突然襲って来て、強い眩暈やその光景で起こった不幸を私にも経験させてくるの、本当にやめてほしい。
今の予知のせいで頭がボーっとするだけでなく、足や体に強い痛みが残っている。
「しっかりしろ! すぐに医者を呼んでくるから、ここで待っていろ!」
アルフレッド様は、血相を変えた様子で立ち上がり、その場から離れようとする。
このままいけば、アルフレッド様は怪我をする。それも、この体の痛みから考えて、それなりに酷い怪我なのは、想像に難くない。
アルフレッド様が怪我……ふふっ、ふふふ……私を惑わすようなことをするから、そんな間抜けな怪我をするのよ!
そう……そうよ! アルフレッド様は、復讐する相手! その無様な姿を、私に見せて頂戴!
「さあ、早く……早く……はや、く……私、本当に、それでいいの……?」
このお城に来てから、私はアルフレッド様に沢山良くしてもらった。今日だって、朝食を用意して、一緒にお散歩をして、お花をくれて、体の心配もしてくれて……私の幸福を願ってくれた。
私は、そんな方の怪我を、復讐を、破滅を望んでいる……本当に、それでいいの?
「…………うわぁぁぁぁ!!」
気づいたら、私は雄たけびを上げながら、自然と動いてた。アルフレッド様の手を掴み、思い切り引き寄せた。
しかし、切羽詰まった状態だったせいで、私は全然踏ん張れず、アルフレッド様と一緒に倒れこんでしまった。
「はぁ……はぁ……」
……私、何をしているの? あのまま放っておけば、アルフレッド様に怪我をさせられた。その姿を見れば、少しは復讐になっていたはずなのに……どうして、私は手を伸ばしてしまったの? どうして……どうして自分の復讐を否定するようなことを、考えてしまったの!?
「うぅ……」
衝撃で目を閉じていたのをゆっくりあけると、文字通り目と鼻の先に、アルフレッド様の整った顔があった。少しでも動いたら、唇同士がぶつかってしまいそうなくらいだ。
こんな状態で、男性への免疫がない私が、耐えられるわけもなく……一瞬にして顔が熱くなった。きっと今の私の顔は、リンゴみたいな色になっていると思う。
「突然どうしたんだ? やはり、どこか痛むのか!?」
「い、いえ! 大丈夫ですから! とりあえず離れてください!!」
「大丈夫なはずがないだろう! 君に何かあったら、僕はどうすれば良いんだ!」
「あなたが今するべきことは、私から離れることですわ! お願いですから! 恥ずかしくて死んでしまいそうですわ!」
「死ぬだって!? 僕が思っている以上に、重症だったというのか!?」
「違いますから! 話を聞いてください~!」
アルフレッド様に覆い被さられている今の私には、アルフレッド様から逃げる術がない。だから、とにかく必死にお願いするが、アルフレッド様は話を聞いてくれない。
いくら相手が復讐相手だからといっても、目と鼻の先に異性の顔があれば、誰だって照れて恥ずかしくなるに決まってる! もう恥ずかしすぎて、爆発しちゃいそうなんだけど!
「えっ、えぇ?? なに、何が起こっているんですか? 前が見えなくてわかりま――きゃあ!」
廊下の曲がり角の先から、小さな悲鳴の後に、ガラガラと物が崩れる大きな音が、廊下に響き渡る。どうやら、先程の予知で見えた使用人と思われる方に、なにかあったのだろう。
「今の音は? 一体何が……君、大丈夫か!?」
「は、はい……ちょっと足をひねっただけです」
捻っただけ? 私が見た予知では、もっと大きな怪我だったはず。念の為、この目で確認を……うん、どうやら本当みたいね。
私が予知に関与した影響で、怪我が随分と軽症になったようだ。相変わらずというか、やはり不幸を完全に消すことは出来ないみたいだが。
「あのままだったら、僕は君とぶつかっていた。そうすれば、僕も君も怪我をしていただろう……もしかして、セリア様が僕を引っ張ったのは、これがわかっていたのか?」
「…………」
まさか、予知で見た光景だったなんて言ったところで、きっと信じてもらえない。それに、話したら悪用されてしまうかもしれない。
そう思った私は、アルフレッド様の質問に対して、沈黙で答えた。
「やはりそうか! 彼女を助けてくれて、本当にありがとう!」
彼女をって……自分のことなんて二の次で、使用人の女性が無事だった事を喜ぶの?
「っと、まずは怪我人の手当てからだったな!」
「アルフレッド様、私はここで少し休んでいるので、大丈夫です」
「しかし……」
「実はこれ、持病みたいなものなので、慣れているんです。だから、対応も熟知しています」
咄嗟の嘘ではあるが、ある意味では間違えていない。私の予知は、突然発作が起こる持病と同じように、突然眩暈が起こり、予知が見えるのだから。
「……わかった。君、どこか痛むところはないか?」
「少し、足をくじいてしまったようでして……」
「足だね。そこの君、急いで氷と水、それとタオルを準備してくれ。僕が彼女を使用人の宿舎に連れていく!」
「うひゃあ!? あ、アルフレッド様! わたくしは大丈夫ですから! 一人でも歩けますから!」
「怪我人はジッとしてる! セリア様、申し訳ないが、僕は彼女を宿舎に運んでくる。必ずお礼を言いに行くから、部屋でゆっくりしていてくれ。ああ、誰か手が空いている人がいたら、セリア様を部屋まで送り届けてくれ!」
「では、自分がいきますー!」
「ありがとう! よろしく頼むよ!」
アルフレッド様は、他の使用人達に指示を出しながら、抵抗する彼女を軽々と背負うと、一目散にその場を走り去った。
……やっぱりおかしい。私が聞いていたソリアン国の方々と、全然違う。中でもアルフレッド様は、王族とは思えないほど誰にでも親しく、そして優しくしている。
それに、このお城の人達は、誰もが協力的で優しく、どう見ても野蛮な人達には見えない。
ああ、もう……私は、一体何を信じて、何を疑えばいいのか、全然わからない。こんな時に、予知でも見えれば判断材料になるかもしれないのに……でも、予知で見てしまえば、不幸になるのは決定してしまうし……あぁぁぁ、もうっ! もうっ!!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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